CAFC判決

CAFC判決

Actelion Pharmaceuticals Ltd. 対 Mylan Pharmaceuticals Inc. 事件

CAFC, No. 2022-1889 (November 6, 2023)

この事件では、クレームの数値限定「13以上」が、誤差を考慮して「12.5以上」と解釈されるか、厳密に「13以上」と解釈されるかどうかが争われた。CAFCは、クレーム解釈に際しては内部証拠が優先されるのが原則であるが、本事件において内部証拠ではクレーム解釈ができないため、当事者が証拠として提出した外部証拠を検討すべきとして、地裁の判決を差し戻した。

内部証拠だけではクレーム解釈ができないとして、外部証拠を検討すべきとして地裁の判決を差し戻した事件

Actelionは、動脈性肺高血圧症治療用のEpoprostenol製剤及びその製法に関する特許(第8,318,802/8,598,227号)を保有する。MylanがActelionの心臓疾患治療薬Veletriの後発薬の販売承(ANDA)を申請したため、ActelionはMylanを特許侵害で地裁に提訴した。特許クレームには、Epoprostenol凍結乾燥物を製造するためのバルク溶液のpH値が「13以上」(a pH of 13 or higher)と記載されていた。裁判ではこのpH値の解釈が争点となった。Actelionは、厳密なpH値の特定は技術的に困難なので13は周辺値を含む概数であるから、「13以上」には12.5も含まれると主張し、それを裏付ける3件の教科書的な文献を外部証拠として提出した。それに対しMylanは、やはり13が下限値であること、文Acterionが提出した文献に従って測定誤差を考慮するとしても、pH 13の周辺値はせいぜい12.995から13.004であると主張した。両当事者の主張はそれぞれ判例に基づくものであった。地裁は、両当事者の外部証拠に基づく主張を考慮せずに、クレームの「13」は一貫して有効数字2桁で記載されており、それ以上細かく記載されていないことを重視し、「13」の通常の意味は12.5から13.4を含むとして、クレームと明細書の記載だけからクレームのpH値13は12.5も含むと解釈してMylanの特許侵害を認定した。MylanはCAFCに控訴した。

CAFCは、クレームに「約」といった記載がないから「13」は概数ではないとの議論も、誤差を伴うpH測定の性質に照らせば「13」は誤差を含むという議論も、同等に説得力があると認定した。また、明細書には、「13.0」を「13」と区別している箇所も、同等に扱っている箇所もあるなど、明細書を参照しても「13以上」は解釈できない。このように、本件では内部証拠(クレームと明細書の記載)が曖昧であり、それだけに基づいて解釈することはできないから、地裁は少なくとも証拠提出された教科書等を検討すべきであったと判断した。こうして、CAFCは地裁の判決を破棄し、両当事者が依拠した外部証拠に基づく論点を検討するよう地裁に差戻した。

侵害訴訟ではクレーム範囲画定のため、最初にクレームの用語解釈が行われる。その場合「平明かつ通常の」意味に解釈するのが原則であり、地裁は内部証拠(クレームと明細書)からpH値(13)を概数に解釈した。しかし、CAFCは内部証拠からそう特定するのは難しいとして、外部証拠の検討をもとめして判断すべきであるとした。