CAFC判決

CAFC判決

Xerox Corp. 対 3Com Corp., et al.事件

No. 2004-1470,2006,10,8-Jun-06

本件においてCAFCは、発明の新規性は、先行文献中に、特許発明の多くの構成要素が開示されているとしても、全ての構成要素が開示されていなければ否定されないと判断しました。

新規性(先行技術)に基づく無効理由の要件

Xerox Corp. 対 3Com Corp., et al. 事件においては、CAFCは携帯型デジタルデバイスで使用されている一種の電子文字認識に関する特許の有効性について審理した。

CAFCは、地方裁判所のXerox Corporation(以下、「Xerox」と呼ぶ)の米国特許第5,596,656号(以下、「656特許」と呼ぶ)のクレーム1~3と7~16の無効及びクレーム9と11を不明瞭とする判決を破棄し、差し戻した。656特許はアルファベット文字に対応する「一筆書きの記号」の組を用いた手書きテキストの電子認識方法に関する。

1997年、Xeroxは3Com Corporationと他6社を被告とし(合わせて、「3Com」と呼ぶ)、3Comの「Graffiti」システムを使用している携帯デバイスが特許侵害であると訴訟を提起した。再審査で米国特許商標庁は特許の16クレーム全てを維持した。

地方裁判所は非侵害の略式判決を下した。CAFCは地方裁判所の略式判決に誤りがあると判断し、これを差し戻した。

CAFCは、地方裁判所がGraffitiの記号はそれぞれが完全には「図形的に分離して」おらず、Graffitiシステムは実際に書かれた通りに記号を「最終認識」せず、さらにGraffitiシステムは、文字が画面のいかなる場所に書かれても良い「空間的独立」の特徴を含んでいないと判断したのは誤りであるとした。

差し戻し後、地方裁判所は侵害の略式判決を下し、特許が有効と判断した。控訴審で、CAFCは非侵害の判決を支持したが、特許の有効性に関しては差し戻した。

その後、地方裁判所は、656特許のクレームの構成要素が全て開示されているバー(D.J.Burr)氏の論文とナガヤマタダヒロ氏の日本の特許出願の2つの引例を発見し、特許無効の略式判決を下した。裁判所は、バーの論文は直接記号を認識するシステムであると判断した。しかも、バーもナガヤマも記号を「一組」にして判断していないというXeroxの主張を認めず、両者は文字を一組として認識可能にプログラムされているとした。

さらに、2つの引例は記号が認識表面のどこに書かれてもよく、「空間的独立」があるとした。地方裁判所はさらに、クレーム9と11を不明瞭を理由に無効と判断した。地方裁判所は、クレームが定義付けた「sloppiness space」と言う文言は曖昧であり、その文言は業界で使用されていないと認定した。地方裁判所によれば、二つの記号が「互いにsloppiness spaceにおいて十分に分離」しているかを判断する方法はないとした。

CAFCは地方裁判所の特許無効の略式判決を破棄し、差し戻した。CAFCは地方裁判所の分析のほとんどを支持したが、バーやナガヤマがペン書きの方向に基づいて、文字を区別化する方法を開示していないし、特許明細書を考慮すれば、「sloppiness space」は不明瞭ではないとして破棄した。

バーとナガヤマの開示内容についてCAFCは、これらは文字認識後に単語の「辞書をルックアップ」するステップがあるが、このステップはシステムが 656特許に開示されているようにペンリフトによって認識が完了することを妨げるものではないとした。

Xeroxはさらに、バーが空間的独立を持つ記号を開示しているか否かは重大な争点であるとした。バーによれば、ユーザの筆書きを単語へのグループ分けをしなければならなかった。

地方裁判所とCAFCは、単語のグループ分けは、文字を書く表面上のどの部分に書かれても、文字認識のシステムの能力に影響するものではないとし、空間的独立の限定に適するとした。

Xeroxは、さらに、ナガヤマはテキスト入力ではなくコマンドセットに関するものであり、656特許と同一ではないと主張した。地方裁判所とCAFCはこの主張を認めず、コマンドは文字や記号を入力する機能に位置付けられるとした。

CAFCはバーとナガヤマの引例は文字認識をする際、筆書き方向を利用することを開示しているか否かを分析した。

656特許のクレームのこの要件が開示されているか否かが、重大な事実として残った。

バーとナガヤマのいずれも他の文字と区別するために、筆書き方向と文字の図形認識を使用していないとした。Advanced Display Sys., Inc.対 Kent State Univ., 212 F.3d 1272 (Fed. Cir. 2000)判決を引用し、「新規性の無効は隅々まで検討し、先行技術にその発明のクレーム要素の全ての記載がなければならない」と判示した。

CAFCはさらに、「sloppiness space」の文言がクレーム9と11に使用されているが、明細書を考慮しても、説明のできない不明瞭さではないと判示した。こうして、CAFCは地方裁判所のクレーム9と11の略式判決を破棄したのである。

本件は、先行技術がその発明の多くの点を開示していても、その引例にクレームの構成要素が全て記載されている場合のみ無効とすることを判示した。

バーとナガヤマは656特許の核心的な部分を開示していたが、筆書きの方向認識が記載されていなかったため、本件では略式判決が不適切と認定された。