102条(g)と103条の先行技術に該当するための要件を判断した判決,この判決は、102条(g)の規定による先行技術がその時点では出願人又は当業者に知られていない秘密の先行技術であっても、102条(g) 及び103条双方で先行技術となることを判示している。また、先行技術として利用するためには、着想の先行と勤勉性に関する十分な証拠とが、その後の実施化よりも重要であることを示している。
102条(g)と103条の先行技術に該当するための要件を判断した判決
タイコ(Tyco Healthcare Group)及びサージカル(United States Surgical Corp.)(以下、まとめて「タイコ」)は、米国特許第6,682,544号(544特許)、第6,063,050号(050特許)、及び第6,468,286号(286特許)の特許権を侵害したことを理由として、コネチカット地区においてエチコン(Ethicon Endo-Surgery Inc.)に対して訴訟を提起した。
対象特許は、概ね、組織を切断して凝固させるために超音波エネルギーを使用する外科手術デバイスを開示している。
非陪審審理の後、地方裁判所は、102条(g)に基づき、対象特許発明に先行して着想されたエチコンのプロトタイプにより26個の請求項が新規性を欠くと判断した。
地方裁判所はまた、プロトタイプは103条に基づく先行技術としては使用できないと結論付けた。その結果、地方裁判所は、286特許の請求項15と544特許の請求項6及び8(以下、まとめて「カーブドブレードクレーム」)が有効であり、その特許権が侵害されたと判断した。
地方裁判所は更に、エチコンが050特許の請求項11及び12と286特許の請求項8(以下、まとめて「デュアルカムクレーム」)の特許権を侵害したと判断した。
続いて、地方裁判所は、タイコに対して1億7600万ドルの損害賠償請求を認めた。エチコンは地方裁判所の判決に対して控訴し、タイコは交差上訴した。
控訴審で、CAFCは、地方裁判所の102条(g)に基づく無効判断を支持した。しかしながら、CAFCは、103条に基づく先行技術としてプロトタイプを除外したことを覆した。正しい自明性分析に基づき、CAFCは、カーブドブレードクレーム及びデュアルカムクレームがプロトタイプに基づいて無効であると判断したのである。その結果、CAFCは、地方裁判所による損害賠償請求の認定を破棄した。
102条(g)に基づく新規性に関して、CAFCは、原告の優先日以前にエチコンのプロトタイプが着想されていたこと、及び、その実施化及び特許出願についてエチコンが勤勉であったことを、エチコンが立証したと判断した。
タイコは、プロトタイプが数回の設計変更を経ていることを理由に、エチコンが着想日を立証できていないと主張した。
CAFCは、全てのクレームエレメントに合致すると共にタイコの出願日に先行する実施形態の詳細な図面をエチコンが用意したことを理由に、タイコの主張を棄却した。
CAFCは、図面及び証言に基づき、超音波外科手術デバイスに関する「明確で不変のアイデア(definite and permanent idea)」があったと判示し、したがって、26個の請求項の無効を支持した。
自明性に関して、地方裁判所は、プロトタイプが先行技術として利用可能でないと判示した。地方裁判所は、エチコンのプロトタイプの実施化がタイコの発明の実施化の前に行われたことをエチコンが立証しておらず、プロトタイプは公知でなかったと判断した。
地方裁判所は、102条(g)の先行技術がその時点で出願人及び当業者に知られていない場合にはその先行技術は103条に基づく先行技術として使用できないと述べた判例法に依拠した。
控訴審で、CAFCは、102条(g)及び103条のいずれも、102条(g)に基づく先行発明が発明時に当業者又は特許権者に知られていなければならないという要件を含んではいないと判示し、102条(g)の下では先行する実施化という要件は存在しないと述べた。
CAFCは、プロトタイプが最初に着想されたこと、及び、エチコンがプロトタイプを実施化することについてそれなりの勤勉さを示す証拠があると判断した。
CAFCは、地方裁判所が依拠した先行する判例法が既に以前の判決によって破棄されているということを明らかにし、また、102条(g)の先行技術が自明性の目的で使用できない場合という例外を規定する103条(c)に依拠した。
CAFCは、法律上の例外が存在しない場合には、102条(g)の先行技術が自明性の目的のための先行技術を構成することを法律が一般的に認めていると判示した。したがって、CAFCは、103条の先行技術としてエチコンのプロトタイプを地方裁判所が除外したことを覆した。
続いて、CAFCは、残ったカーブドブレードクレーム及びデュアルカムクレームがプロトタイプ及び他の先行技術に基づいて無効であるか否かを分析した。
カーブドブレードクレームについては、CAFCは、当業者がプロトタイプ及び他の引例からの先行技術の要素を組み合わせて、カーブドブレードクレームに規定されているようにクランプアームに固定されたカーブドブレードに想到することは可能であったと結論付けた。
CAFCはまた、デュアルカムメカニズムにより組織を掴むクレーム発明の可動ジョーに類似した構造を開示する他の先行例に鑑み、エチコンのシングルカムデザインをデュアルカムデザインに変更することは自明であったと判断した。
それゆえ、CAFCは、本件においてはカーブドブレードクレーム及びデュアルカムクレームの両方がプロトタイプ及び他の先行技術に基づいて無効であると結論付け、タイコの損害賠償請求の認定を取り消した。
タイコの判決は、新規性及び自明性の両方の目的での102条(g)の先行技術の適用を再確認するものである。この判決は、102条(g)の先行技術がその時点では出願人又は当業者に知られていない秘密の先行技術であってもよいことを明らかにした。
この判決から、102条(g)の先行技術の対象には、先行する着想と勤勉性に関する十分な証拠とが、その後の実施化よりも重要であるということがわかる。
Key Point?この判決は、102条(g)の規定による先行技術がその時点では出願人又は当業者に知られていない秘密の先行技術であっても、102条(g) 及び103条双方で先行技術となることを判示している。また、先行技術として利用するためには、着想の先行と勤勉性に関する十分な証拠とが、その後の実施化よりも重要であることを示している。