本件は、実施例に記載された限定要件がメインクレームに記載されていない場合、その特許の範囲はその要件に限定されないことを再確認した事件です。また、特許権者が審査の過程で特許のクレーム範囲を限定する意見書を提出していた場合には、特許はその意見によって限定されますが、その件とは別の継続出願で同じクレーム文言を使用していなければ、その意見書の限定は別件である継続出願には適用されないとCAFCは判示しました。
クレーム解釈における関連出願の影響
コンフォートラック(Comfortrac)事件において、CAFCは地方裁判所による特許非侵害の略式判決を棄却し事件を差し戻した。
サウンダース(Saunders)は、軽量型頚椎牽引装置に関する米国特許第6,899,690号(以下、690特許)を所有しており、頚椎牽引装置を販売する被告のコンフォートラックと争っていた。
頚椎牽引装置は、炎症を起こしたり、張りのある患者の首筋の圧力を軽減するために、首を持続した力で上方に牽引するものである。コンフォートラックの装置は圧力によって作動するシールを使用していなかったので、この事件は、690特許が、圧力で作動するシールを使用した頚椎牽引装置に限定されるか否かが争点となった。
争点の690特許の独立クレームは、持続した牽引力をもたらす空気圧シリンダを要件としていた。地方裁判所は、争点の特許は、空気圧シリンダに圧力で作動するシールがあることを、明示的に要件とはしていないが、690特許にクレームされている空気圧シリンダは、圧力によって作動するシールが必要であると判決した。
地方裁判所は次の2つの事実に基づいて判決した。第一に、出願人は、690特許に至る親出願の審査過程において、圧力によって作動するシール以外の全てのシールを放棄していた。第二に、690特許の明細書は、必要とされる持続した牽引力を維持する別の機構を開示していなかった。
サウンダースは、地方裁判所は、争点の独立クレームに述べられた空気圧シリンダには圧力で作動するシールが必要であると誤って認定したと主張し、CAFCはこれを認めた。
CAFCは判決においてクレーム差別化の原則を適用した。クレーム差別化の原則に基づくと、ある特定の限定をもたらす従属クレームの存在は、その限定が独立クレーム内には無いという推定を生ずる。
本件では、690特許の独立クレーム1は空気圧シリンダについて述べているが、圧力で作動するシールを要件としていない。
クレーム1に従属するクレーム6は、圧力で作動するシールを要件とする空気圧シリンダについて述べている。従って、クレーム差別化の原則に基づき、CAFCは、クレーム1の空気圧シリンダは圧力で作動するシールを要件としていないと結論付けた。
次に、コンフォートラックは、690特許の明細書には圧力で作動するシールを持つ空気圧シリンダだけが記載されているので、690特許のクレームは圧力で作動するシールを持つ空気圧シリンダを備えた装置に限定されると主張した。
CAFCはコンフォートラックの主張を認めず、1つの実施例だけを記載した特許は必ずしもその実施例に限定されないと判示した過去の判例に従った。したがって、CAFCは、690特許は1つの実施例だけを開示しているので、特許クレームを限定しなかった。
米国特許法の下では、特許権者が明らかなクレーム範囲の減縮を表明した場合に、裁判所はクレーム範囲を限定する。例えば、圧力で作動するシールを用いることが、必要とされる持続した牽引力を維持する唯一の方法であると、特許権者が述べたならば、裁判所は690特許のクレーム範囲を限定する。
本件では、特許権者はそのような供述をしていないので、CAFCはクレームを限定しなかった。
最後にコンフォートラックは、特許の親出願の審査過程において出願人が提出した供述書は、690特許のクレーム範囲を限定すると主張した。
親出願のクレームは圧力で作動するシールを持つ空気圧シリンダを備えた装置を要件として明記していた。親出願の審査過程において、出願人は、発明を圧力で作動するシールを持つ空気圧シリンダを備えた装置だけに発明を限定する供述書をUSPTOに提出していた。
コンフォートラックは、親特許と690特許には共通の文言が用いられており、親特許の審査過程で提出された供述書にはその共通の文言が使われていた。しかしながら、CAFCは過去の判決において、親出願の審査過程で提出されたクレーム文言に関する供述書は、その子出願にそのクレーム文言が使用されていない場合は子出願には適用されないと判示していた。
本件では、690特許の独立クレーム1は圧力で作動するシールをクレームしていないので、親出願における圧力で作動するシールに関するコメントは、690特許のクレーム1には適用されない。
本件は親出願のクレームより広いクレームの継続出願の特許に関するものである。CAFCは、本件のように出願人が継続出願特許のクレーム範囲に関して明確にしていない事件では、裁判所の判決を覆すのは非常に困難であると述べた。
従って、ある状況下において、親出願のクレームより広いクレームの継続出願をする場合に、出願人は、継続出願のクレームが親出願のクレームよりも広くなることが明らかな文言を含めることは有効であろう。