CAFC判決

CAFC判決

The Campbell Pet Company 対 Theresa Miale and Ty-Lift Enterprises事件

No. 2008-1109,2008,12,18-Sep-08

この事件は、ある州の連邦地裁の所在地に州外の特許権者が滞在し特許権を行使した場合を扱ったものです。このような行為は、その州の裁判所における州外の特許権者に対する人的管轄権をもたらす可能性があります。

確認訴訟における人的管轄権の基準を明確化した事件

この事件は、ある州の連邦地裁の所在地に州外の特許権者が滞在していてそこで特許権を行使した場合を扱ったものである。この場合、連邦地裁が特許権者及びその会社に対する人的管轄権を行使する要件が満たされているか否かが問題となる。

被告に対する訴訟を進めるためには、裁判所が、被告に対する人的管轄権または事物管轄権を持っていなければならない。人的管轄権を持つためには、裁判所は被告に対して一般管轄権若しくは特定管轄権を行使可能でなければならない。

裁判所の所在地に被告が「関わり」を持っている場合に、裁判所は被告企業に対する一般管轄権を持つ。ここで、「関わり」は、「継続的かつ組織的な一般のビジネス上の関わり」でなければならない(注1)。

裁判所が一般管轄権を持たない場合であっても、被告に対する特定管轄権を行使することによって人的管轄権を持つことができる場合もある。

被告は裁判所の所在地における最低限の関わりを自分の意志で築き上げたと言えるので、次の2つの条件が満たされる場合、特定管轄権が発生する(注2)。

その条件とは

裁判所の所在地である州の「ロングアーム法」が州外の被告に対する訴訟手続の提供を許容していること、並びに、?人的管轄権を行使することが訴訟手続によって許容されていること

である。

また、次の2つの条件が満たされる場合、被告は裁判所の所在地である州における最低限の関わりを持っていることになる(注3)。

その条件とは

裁判所の所在地の居住者に対して被告が「自分の意志で営業活動を行っている」こと、並びに?その営業活動に起因して、若しくはこれに関係して発生した損害の結果として訴訟が提起されること

である。

これらの条件が全て満たされる場合、裁判所は、問題となっている人的管轄権が「フェアプレー及び実質的正義に適合するか否か」を検討する(注4)。

人的管轄権が「フェアプレー及び実質的正義」に適合しないことを被告が証明するためには、人的管轄権の行使が不合理であることを納得できるように主張しなければならない(注5)。

この件では、ワシントン州の企業であるキャンベル(Campbell Pet Company)が、負傷した動物を輸送するために使用する携帯型の折畳式担架を製造・販売している。

キャンベルは、カリフォルニア州の企業でありテレサ・ミエール女史(Theresa Miale)が所有するタイリフト(Ty-Lift Enterprises)と競合している。

タイリフトも、負傷した動物を輸送するための携帯型の折畳式担架を販売している。ミエール女史は、米国特許第6,199,508号及び第6,230,662号を所有しており、これらはタイリフトの動物用担架に関するものである。

2007年6月、キャンベル及びミエール女史は、ワシントン州シアトルにおいて獣医会議に出席し、そこで両者は各自の製品のデモを行って販売した。

会議の最中にミエール女史はキャンベルの従業者を特許権侵害により非難し、特許訴訟になれば高くつくと脅した。また、ミエール女史は会議の管理者に対して、キャンベルの展示物が自分の特許権を侵害しているのでこれを撤去して欲しいと依頼した。

タイリフトも、キャンベルとその製品について、キャンベルの顧客に対して否定的なコメントを出し、キャンベルがミエール女史の特許権をコピーしたと示唆した。

会議の1ヵ月後、タイリフトはキャンベルに対して、キャンベルが特許権を侵害していると非難する手紙を送付した。その後間もなく、キャンベルは、ワシントン州の西部地域を管轄する地方裁判所に対して、テレサ・ミエール女史、及び、タイリフトを相手取って確認訴訟を提起した。

このときキャンベルは、非侵害の確認判決を求めると共に、ミエール女史の特許権を無効にすることを求めた。タイリフトは、人的管轄権が無いことを理由に、キャンベルの訴えを棄却するように求めた。

地方裁判所は、被告に対する人的管轄権を行使するに際して特許権者の行為では不十分であると考え、タイリフトの要求を認めた。しかし、CAFCは地方裁判所の判断を覆した。

CAFCは、被告に対する一般管轄権が存在しないことについては地方裁判所の判断を支持した。その理由は、ワシントン州の顧客に対する被告の関わりは8年間に亘る被告の総売上の2%に過ぎないからである。

即ちCAFCは、そのような最低限の関わりでは、「継続的かつ組織的な」ビジネス上の関わりという、一般管轄権をサポートする要件を満たさないと考えた。

CAFCはまた、特定管轄権について、特定管轄権に関する最初の2つの条件が充足されていると考えた地方裁判所を支持した。その理由は、2007年6月の獣医会議の最中に被告が自分の意志でワシントン州の居住者に対して営業活動を行ったからであり、また、この営業活動に起因若しくは関係して特許非侵害及び特許無効の確認訴訟が提起されたからである。

ところで、地方裁判所は、特定管轄権に関する第3の条件が充足されていないと考えていた。即ち地方裁判所は、被告がキャンベルに対して特許権侵害の可能性を通知すると共に訴訟提起の可能性を持ち出してキャンベルを脅したことは、「フェアプレー及び実質的正義」という要件を満たすには不十分であると考えていた。

ところが、CAFCは地方裁判所のこの判断を覆し、警告書を送付する「だけでは、州外の特許権者に対して人的管轄権を行使するに際して訴訟手続の要件を満たすのに不十分である」という、特許紛争に関する人的管轄権のルールを繰り返した(注6)。

しかしながらCAFCは、「特許権者が特許権の存在並びに訴訟を通してその権利を行使する意図について、第三者に対する単純な通知の範囲を超えて十分に追加的な行為を行った場合は」州外であっても特許権者がその行為を行った州の裁判所において提起された確認訴訟に対しては、特許権者は保護されないと付言した。

さらに、CAFCは次のように説明した。2007年6月の獣医会議の最中に行われたミエール女史の行為は、キャンベルに対する特許権侵害の可能性の通知に留まらなかった。

むしろ、被告は第三者の支援を得てキャンベルに対する不利益行為によりキャンベルの営業活動を妨害したので、「追加的な行為」を行ったといえる。具体的には、被告は、キャンベルの製品展示を撤去させようとし、また、キャンベルがミエール女史の特許権を侵害していることを、キャンベルの顧客に通知した。

そこでCAFCは、ミエール女史が裁判所の所在地に物理的に滞在している間にそのような試みが行われたことは、人的管轄権を行使するための十分な追加的な行為になるとの結論を下した。

この件の判決は、確認判決を求める特許紛争について人的管轄権の基準を更に明確にしたという点で、重要である。特に、ある州の裁判所の所在地に州外の特許権者が滞在していてそこで特許権を行使することは、その州の裁判所における州外の特許権者に対する人的管轄権をもたらす可能性がある。