CAFC判決

CAFC判決

Roche Diagnostics Corp. & BioVeris Corp. 対 Meso Scale Diagnostics, LLC事件

CAFC, No. 21-1609 (April 8, 2022)

同一特許のライセンシーが原告と被告に別れて争った事件。企業買収に伴い権利関係が複雑に入り組んでいる。ライセンス契約の文言ドラフトの重要性を示す好例であると共に企業買収や特許権の移転によっても既存契約関係は影響されないことが確認された事例と言える。

「ビジネスの全利益に相当する」金額を侵害に対する損害賠償として認定した地裁の判断を不当であるとして差し戻した判決

USP6,808,939他2件は溶液中の電気化学反応によって生じる発光現象「エレクトロケミルミネッセンス」(ECL)に関するものであり、当初の特許権者はIGEN International Inc.であった。ECLはガンや肺結核の検査技術である。

Boehringer Mannheim GmbHは1992年、IGENからECLアッセイの開発・製造・販売のための特許ライセンスと特定分野での試薬販売権を得た。しかし、1998年にRoche DiagnosticsがBeohringer Mannheimを買収したため、Boehringerの特許ライセンスと試薬販売権はRoche Diagnosticsに移転した。

1992年の特許ライセンス契約が2003年に終結したため、契約当事者は改めて「非排他的な」ライセンス契約を締結した。ライセンス許諾分野は「病院、血液銀行および臨床ラボ」に限定されており、「ECLアッセイの患者向けの使用」は許諾されていない。

特許権者のIGENは1995年、Meso Scale Technologiesと合弁契約を結び、Meso Scale Diagnosticsを設立した。Meso Scale Technologiesは、IGENのもつECL特許についての「独占的ライセンシー」である。

その後、IGENはECL関連特許をBioVeris Corp.に譲渡し、2007年にRocheの子会社がBioVerisの事業を買収した。買収完了後、RocheはECL技術についての特許を完全に所有していることを新聞で公表し、ライセンス契約の許諾制限にかかわらずライセンス対象製品の販売を開始した。

Mesoは2010年、Rocheが2003年の新ライセンス契約で指定されたライセンス対象分野を超えて事業を行ったとして契約違反でRocheをデラウエア衡平法裁判所に提訴した。衡平法裁判所は、Mesoが2003年の新ライセンス契約の当事者ではないのでRocheの契約違反を主張する権利がないとしてその主張を退けた。

Rocheは2017年、Mesoの権利が1995年の合弁契約から派生したものであり、Rocheによる権利侵害は生じないとする確認判決を地裁に求めた。それを受けてMesoは、Rocheを特許侵害で訴えて対抗した。

地裁陪審は、①Mesoは本件特許についての独占的ライセンスを保有する、②Rocheが1つの特許クレームを直接侵害した、③他の3つの特許クレームを侵害するよう誘引(induce)した、④Rocheによる侵害は故意である―と認定してRocheによる特許侵害を認め、1億3725万ドルの損害賠償を評決した。しかし、Rocheが評決後のモーション(JMOL)により判事による審理を申立て、地裁はその申立てを認めて侵害の故意を否定し、加重損害賠償を求めるMesoのモーションを認めなかった。この判決を不服として両当事者がCAFCに控訴した。

CAFCでの争点は、(1)Mesoのライセンスの範囲、(2)他の特許クレームの誘引侵害の存否、(3)損害賠償額の妥当性―である。争点(1)について、Rocheが1995年の合弁契約の条文の限定的な解釈を主張し、Mesoが広義の解釈を主張した。しかし、CAFCは直接侵害を認めた地裁判決が妥当であるとして地裁判決を支持した。争点(2)について、地裁が「Rocheの侵害の意図」を認めたのは誤りであるとして誘引侵害判決を破棄した。争点(3)について、損害賠償額は侵害寄与相当額とするのが判例の趣旨であるとして、地裁の認めた賠償額が「ECLビジネスの全利益に相当する」不当なものであるとした。