CAFC判決

CAFC判決

ZF AUTOMOTIVE US, INC., ET AL. 対 LUXSHARE, LTD. 事件、ALIXPARTNERS, LLP, ET AL. 対 THE FUND FOR PROTECTION OF INVESTORS’ RIGHTS IN FOREIGN STATES 事件

Supreme Court No. 21-401 (June 13, 2022)

米国における訴訟費用が高額になる一因に、ディスカバリーに要する費用が高額であることが挙げられる。この判決は、米国外の仲裁機関での仲裁手続については、政府レベルの権限が付与されていない限り、合衆国法典第28編第1782条に基づくディスカバリー請求は認められない(したがって、ディスカバリー費用の負担が生じる恐れがない)ことを明らかにした点に意義がある。この判例は特許事件にも適用される。

政府レベルの権限を持たない米国外の仲裁機関による仲裁手続は、米国のディスカバリー制度の対象外であることを示した判決

本件は、仲裁手続に関連して提起された2件のディスカバリー請求事件の上告審を併合して審理したものである。

1件目の事件(ZF AUTOMOTIVE US, INC., ET AL. 対 LUXSHARE, LTD. 事件)は、香港を拠点にするLuxshare, Ltd.(以下「Luxshare」)とミシガン州に拠点をおく自動車部品メーカーであるZF Automotive US, Inc.(以下「ZF Automotive」)との間の紛争に関する。ZF Automotiveは、ドイツ企業の子会社である。両者は販売契約を結び、全ての紛争を、ドイツ仲裁協会(German Institution of Arbitration, DIS)の仲裁規則に基づいて3名の仲裁人の裁定により解決することに合意していた。ドイツ仲裁協会は、ベルリンにある民間の仲裁機関である。仲裁手続きに使用するため、Luxshareは合衆国法典第28編第1782条に基づき、ZF Automotiveとその役員についての情報を求めて連邦地裁にディスカバリーを請求した。ZF Automotiveは、DISは第1782条が定める「外国の又は国際的な法廷(foreign or international tribunal)」に該当しないのでディスカバリー制度の対象外であると主張したが、地裁及び高裁(第6巡回区控訴裁判所)はこの主張を斥け、Luxshareによるディスカバリー請求を認めた。ZF Automotiveは連邦最高裁に上告した。

2件目の事件(ALIXPARTNERS, LLP, ET AL., PETITIONERS 対 THE FUND FOR PROTECTION OF INVESTORS’ RIGHTS IN FOREIGN STATES 事件)は、リトアニアの銀行であるAB bankas SNORAS(以下「Snoras」)が破綻して国有化されたことが関係している。ロシアの法人であるThe Fund for Protection of Investors’ Rights in Foreign States(以下「Fund」)は、ロシアの投資家がSnorasに対して持つ債権を譲り受けた。Fundは、投資した資産がリトアニアにより収奪されたと主張して、リトアニアとロシアの二国間投資協定に基づき、国連国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade Law, UNCITRAL)の仲裁規則によるアドホック仲裁を求めた。このアドホック仲裁では、各当事者により1名ずつ仲裁人が選ばれ、選ばれた2名の仲裁人により3番目の仲裁人が選ばれる。仲裁手続きの開始後、Fundは、第1782条に基づき、Snorasの暫定管財人と、暫定管財人がCEOを務めるニューヨークのコンサルティングファームであるAlixPartners, LLP(以下「AlixPartners」)についての情報を求めて連邦地裁にディスカバリーを請求した。AlixPartnersは、アドホック仲裁の合議体は第1782条が定める「外国の又は国際的な法廷(foreign or international tribunal)」に該当しないのでディスカバリー制度の対象外であると主張したが、地裁及び高裁(第2巡回区控訴裁判所)はこの主張を斥け、Fundによるディスカバリー請求を認めた。AlixPartnersは連邦最高裁に上告した。

連邦最高裁は、これら2つの事件を併合して審理した。連邦最高裁は、tribunalという単語だけを見ると、裁判所(court)を意味する場合もあれば、より広く任意の裁定組織(adjudicatory body)を意味する場合もあるが、第1782条が定める「外国の又は国際的な法廷(foreign or international tribunal)」については、単数又は複数の国によって政府レベルの権限が付与されたものを意味すると判断した。

その上で連邦最高裁は、1件目の事件について、DISは政府が関与していない私的な紛争解決組織であるので、DISの合議体は第1782条の法廷(tribunal)に該当しないと判断し、Luxshareによるディスカバリー請求を認めた高裁判決を覆した。

また、2件目の事件について、連邦最高裁は、二国間投資協定によればロシア及びリトアニアはアドホック仲裁の合議体に政府レベルの権限を与えてはいないので、この合議体は第1782条の法廷(tribunal)に該当しないと判断し、Fundによるディスカバリー請求を認めた高裁判決を覆した。