本事件では、発明の着想に対する貢献度に基づき、単なる実験協力者と共同発明者との違いが明確に区別されている。Sternは医学研究アシスタント時代に行った実験に関してなされた特許出願の共同発明者としての地位を主張した。しかし、彼が行った実験は、実験依頼者であるBito教授がそれ以前に行っていたものであって、Stern自身は、実験を行うに当たり、何ら新しい着想を提供したわけでもなく、また実験の着想に至る過程で何らの寄与も果たしていないことは明らかであった。従って、彼の主張は退けられ、共同発明者としての地位は与えられなかった。
発明の着想に対する貢献度に基づき単なる実験協力者と共同発明者との違いを取り扱った事件
Stern 対 Trustees of Columbia University事件において、CAFCは、Sternは医学研究アシスタントであった時期に緑内障治療の発明に関する実験を繰り返し行っていたが、発明の概念を実際に着想したわけでもないし、また、そのための寄与もしてはいないと認定し、Sternを特許の共同発明者として加えることを拒絶した。
1980年、SternはColumbia大学の医学生であり、Columbia大学のLazlo Z. Bito教授の研究室において一学期の眼科学研究選択科目の受講を申し込んだ。Bito教授はそれを受け入れ、SternはBito教授の指示に従って、プロスタグランジンの単回投与による猿や猫の眼圧降下を証明するための複数の実験を行った。
SternがColumbia大学を去った後、Bito教授は、眼圧降下を目的として猿にプロスタグランジンを継続投与する技術に関する特許出願を行った。1986年に米国特許第4,599,353号(353特許)が発行されると、Sternは、その特許の独立クレーム1及び従属クレーム3、5、9~12の共同発明者として加えられるべきであるとして提訴した。
事実審裁判所は353特許のクレームを解釈し、Sternには発明者である明確かつ説得力のある証拠がないと認定した。裁判所はColumbia大学側の略式判決の申し立てを認め、州法に基づく悪意の黙秘、受託者義務不履行及び不当利得に関するSternの主張を却下した。
CAFCは、全ての主張に関する事実審裁判所の判断を支持した。裁判所は、SternがBitoの研究室に在籍していた学期以前に、Bitoがプロスタグランジンによる眼圧降下の効果に関する数多くの文献を発行していた点を指摘した。
文献にはウサギやフクロウ等の様々な動物における効果が記載され、猿は更なる研究対象として好適であるとも記載されていた。CAFCは、Sternがクレームされた発明を理解しておらず、また、プロスタグランジンによる眼圧降下の作用を発見しておらず、更に、プロスタグランジンの継続投与により霊長類の眼圧降下が可能となることも発見していないと認定した。
さらにCAFCは、SternとBitoとの間で緑内障治療法の開発に関する共同研究が行われたことはなく、Sternは単にBitoが過去に行っていた実験をしたにすぎないと述べた。
共同発明者には発明の着想に寄与したという重要な立証責任がある。Stern事件が示すように、名を連ねた発明者が過去にその特許発明に関する文献や研究論文を出版していた場合には共同発明を立証することは非常に困難である。