CAFC判決

CAFC判決

Star Scientific, Inc. 対 R.J. Reynolds Tobacco Company事件

No. 2010-1183,2011,11,26-Aug-11

この事件においてCAFCは、争点の特許の基準日は仮出願日ではなく、その後の通常出願の日付であるとした地方裁判所の判決を破棄しました。CAFCは、仮出願に含まれる明細書の記載により、当業者は通常の出願中のクレームされた発明を実施することができることを理由に、仮出願日を出願日として適用すべきであると判決しました。

仮出願日を出願日として適用すべきであると判決したCAFC

スター(Star Scientific, Inc)対 RJレイノルズ(R.J. Reynolds Tobacco Company)事件においてCAFCは、メリーランド地区地方裁判所が、特許出願の優先日を、仮出願ではなく通常出願日に認定した略式判決を破棄した。

CAFCはまた、スターの特許の有効性の争点に関する法律問題としての判決を求めたスターの申し立てを地方裁判所が却下したことについても破棄し、一方で、侵害に関する法律問題としての判決を求めたスターの申立を却下したことについてはこれを追認した。

この事件は、スター及び RJレイノルズによって開発された、従来のたばこの乾燥工程において発生する発がん性物質であるたばこ特有のニトロソアミン(TSNAs)の生成を最小限にする、たばこの2つの乾燥工程に関するものである。

スターは1998年9月15日に仮出願を提出し、1999年9月16日に通常の出願をし、2011年3月20日に米国特許第6,202,649号(以下、649特許)が発行された。米国特許第6,425,401号(以下、401特許)は、649特許の審査中に継続出願として提出されたものである。仮出願から通常出願の間に、スターの科学者は、発明を実施する上でのベストモードと判断される「StarCure」工程と呼ばれる発明の商業的実施例を開発した。

一般的に、スターの特許は、たばこの乾燥中に有酸素の環境を維持することがTSNAsの形成を防ぐと断定しており、湿度・温度変化率・温度・気流・一酸化炭素レベル・二酸化炭素レベル・酸素レベル・たばこ草の配列、といった条件のいずれかが制御された「制御環境」を作る方法をクレームしていた。

1998年から2011年にかけて、スターはブラウン&ウイリアムソン(Brown & Williamson)と、その特許の工程を用いた低TSNAsたばこの乾燥工程に関する複数の契約を結んでいた。これらの契約は、RJレイノルズがブラウンを買収した時点で終了した。RJレイノルズは、TSNA形成を最小限にする独自の乾燥工程を開発し、1999年4月に特許出願し、それは最終的に2004年10月19日に米国特許第6,805,134号(134特許)として発行された。134特許は、一酸化炭素ガスの発生を伴う火力乾燥工程にたばこをさらすことを避けて、「直火ではない熱源」を用いてTSNAs形成を減少させる方法をクレームしていた。

スターは2001年、RJレイノルズによる649特許及び401特許侵害を主張して提訴した。2011年8月26日、CAFCはこの事件に関する判決を次のように下した。まずCAFCは、地方裁判所による不正行為及び不明瞭性を認定した判決を破棄し、侵害に関する審理のために事件を差し戻した。

侵害の争点に関する陪審裁判において、陪審員は、特許侵害なし、及びスターの特許は新規性・進歩性・ベストモード開示要件の欠如、及び不明瞭性に基づき無効であるとの評決を下した。この陪審評決に続き、地方裁判所はスターの法律問題としての判決の申し立てを棄却した。

CAFCは、仮出願ではない通常出願を優先日と認定した地方裁判所の判決を破棄した。通常出願においてクレームされた発明を当業者が実施可能であることを要求している特許法第112条に基づく記載要件を仮出願が満たしていれば、その仮出願に優先日が認められる。

CAFCは、仮出願はこの基準を満たしており、仮出願日が出願日(優先日)として適用されると判断し、スターの特許の有効性の争点に関する法律問題としての判決の申立を地方裁判所が棄却したことを取り消す一方で、侵害の争点に関する法律問題としての判決の申し立ての棄却については支持した。

CAFCはまず、2つの要素から構成されるベストモード要件に基づく地方裁判所の判断について審理した。第一に、裁判所は、発明者が特許出願時点でクレームされた発明を実施するベストモードを所有していたか否かを判断しなければならない。第二に、発明者が発明を実施するベストモードを秘密にしていたか否かを判断しなければならない。

裁判所が発明の優先日は仮出願日であると判断したのであるから、スターの科学者達が優先日以前にベストモードを所有していたという証拠がないので、スターとその科学者達はベストモード要件に基づく義務を果たしている。

次に、CAFCは地方裁判所によるクレームの不明瞭性の判断について審理した。もしクレーム解釈が解明できないほど曖昧であるならば、それは当業者に対しクレームの範囲を十分に明らかにしていないことを意味するものであり、そのクレームは不明瞭である。

CAFCは、当業者であれば、クレーム中に開示された制御環境を作るための変数を十分に理解できると思われることから、そのクレームは不明瞭ではないと判断した。明細書中で、たばこの乾燥は科学というよりも技術であると記載していることから、クレーム中にリストされた変数に関係する数値は不要であり、当業者であればクレームを実施可能なほど十分に理解することができるとCAFCは判断したのである。

そして、CAFCはスターの特許が非自明であると判断した。米国特許法第103条(a)の下では、「もし、クレームされた発明と先行技術との差異が、その発明全体として、発明時の当業者にとって自明である」ならば特許は無効である。記録はRJレイノルズが主張の根拠とした先行技術引例を組み合わせる何の動機付けも示唆もしておらず、引用例はスターの特許のクレーム中の限定を教示していなかったことから、発明は非自明であると判断した。

記録はまた、非自明性の二次的考慮事項の証拠を示していた。第一に、TSNAsの形成を最小限もしくは排除する乾燥方法に対する産業上の必要性があった。第二に、記録は予期せぬ結果を示していた。第三に、スターの発明は、ブラウンへのライセンスが示すとおり、市場に受け入れられ、商業的成功を収めた。

最後にCAFCは、分別ある陪審員であれば、スターの特許に新規性がないとは判断しない、と述べた。米国特許法第102条(b)の下では、発明が特許の基準日より1年以上前に米国内で公用されていたならば特許付与されない。陪審員が考慮した引例と公用は2つの理由からスターの特許のクレームの先行技術とはならない。その第一の理由は、CAFCは地方裁判所よりも早い優先日を適用し、第二の理由は、引例はスターのクレームの個々の限定を開示していないと判断した。

スター・サイエンティフィック事件は不明瞭性の判断を更に明らかにした。この事件においてCAFCは、明細書がたばこの乾燥は科学というより技術であると記述したことを理由に、湿度・温度などの「制御された環境」という文言を特定するためには不要であると判断した。

Key Point?この事件においてCAFCは、争点の特許の基準日は仮出願日ではなく、その後の通常出願の日付であるとした地方裁判所の判決を破棄した。CAFCは、仮出願に含まれる明細書の記載により、当業者は通常の出願中のクレームされた発明を実施することができることを理由に、仮出願日を出願日として適用すべきであると判決した。