CAFCはこの判決で、(1)パテントプールの契約内容によっては、プールのメンバは、他のプールのメンバがプールに入れている特許を無効にすることについての利害関係人となりうること、(2)文献が先行技術として公に利用可能になったというためには、技術的な利用可能性以上の事情があったことを示す必要があること、を示した。
パテントプールのメンバー間において特許無効を訴えることの適格性を認め、先行技術の利用可能性を判断したCAFC判決
CAFCはこの判決で、(2(1)パテントプールのメンバであるSamsung Electronics Company(「サムスン」)が別のプールメンバであるInfobridge Private Limited Company(「インフォブリッジ」)が当該プールに所有する特許の有効性に異議を唱える立場にあったかどうか、および(2)文献が先行技術として公に利用可能になったときについての基準、に対処した。サムスンとインフォブリッジの両方がパテントプールに属し、インフォブリッジ特許の有効性がサムスンにとって経済的な意味を持っていたため、CAFCは、サムスンがインフォブリッジを訴える立場にあったと判断した。公の利用可能性に関して、CAFCは、セクション103の下での公の利用可能性が、インデックス化されていないウェブサイトが含まれるような技術的アクセス可能性以上のものを必要とする、と繰り返し、また、特許審判部(「審判部」)がリストサーブ(listserve)に電子メールで送付された文献の公の利用可能性を判断するために使用した基準は正しくないと判じた。
サムスンは、インフォブリッジに譲渡された米国特許第8,917,772号(「772特許」)のすべてのクレームの特許性に異議を唱えて、審判部に当事者系レビューを求める2件の申し立てを提出した。問題となった先行技術文献は、ビデオ符号化で使用される標準であるH.265標準に関するワーキングドラフト4(「WD4」)であった。WD4は、2011年7月に開催された「JCT-VC(Joint Collaborative Team on Video Coding)」と呼ばれる標準策定機関の会議中に開発され、2011年11月のJCT-VC会議で最終的に承認された。この間、JCT-VCは、各種JCT-VC文書類を掲載するウェブサイトを運営していた。2011年10月4日、JCT-VCおよびJCT-VCの親組織であるMPEG (Moving Picture Expert Group)に属するウェブサイトにWD4文書がアップロードされた。そのファイルがウェブサイトにアップロードされたのと同じ日に、WD4ファイルは、JCT-VCリストサーブに電子メールで送信され、リストサーブは、JCT-VCの254人のメンバ、ならびにリストサーブに参加した他の「関心のある個人」に、その文書を配布した。
審判部は772特許のクレームの有効性を維持した。なぜなら、772特許の基準日(これは2011年11月7日であった)より前にWD4が公にアクセス可能であったことをサムスンが証明できなかったと認定したからである。この結論に到達するにあたり、当業者がJCT-VCおよびMPEGのウェブサイト上でWD4文書を見つけることができたとするのは合理的ではないと、審判部は判じた。また、審判部は、リストサーブを介したWD4文書の配布は公のアクセス可能性を確立し得ないと判じた。特に、審判部は、リストサーブにアクセスした個人が「関心のある当業者のかなりの部分を表した」かどうかを判断できないと述べ、したがって、審判部はリストサーブの電子メールを、WD4が「関心のある当業者に一般に広められた」ことを示さない「限定的な配布」であると考えた。
サムスンはCAFCに控訴し、その冒頭陳述でサムスンは、サムスンが772特許の有効性に異議を唱える立場にあったかについて主張した。インフォブリッジはサムスンの立場に異議を唱えなかったが、CAFCはこの立場の問題に対処することが適切であると判断した。争いのない事実は、サムスンとインフォブリッジの両方が共通のパテントプールに属し、そこでは、ロイヤリティはメンバがプール内に所有する特許の数に基づいて分配されることを示した。パテントプールの条項に従って、プールの特許が無効にされた場合、その特許はプールから削除され、他のメンバは、より高い割合のロイヤリティ分配を受け取る。これに基づいて、サムスンは、無効な特許がプールに残っていることにより、サムスンは、そうでなければ受け取れたであろうロイヤリティを奪われたから、772特許の有効性に異議を唱える立場にあったと主張した。CAFCは、本パテントプール契約の特定の条項の下では、インフォブリッジの特許の有効性に直接起因し得る、サムスンに有利な判決によって救済される損害があったことに同意した。これは、サムスンに、772特許の有効性に異議を唱える立場を与えるのに十分であった。
公の利用可能性の問題に関して、サムスンは、(i)WD4がJCT-VC会議で議論され、(ii)WD4がJCT-VCおよびMPEGウェブサイトにアップロードされ、かつ(iii)WD4がリストサーブを介して配布されたため、WD4は公にアクセス可能であったと主張した。会議における議論について、CAFCは、2011年7月の会議の後になるまで当該文書は作成されなかったと判断し、したがって会議自体は公知の原因ではないと判じた。ウェブサイトに関して、CAFCは、文献の公のアクセス可能性が技術的なアクセス可能性以上のものを必要とすること-公のアクセス可能性はまた、文献が「合理的な注意を払う関心のある当業者がそれを見つけたであろう」ような方法でインデックス化され、またはカタログ化されることを必要とすることを強調した。JCT-VCウェブサイトに関して、どこで/どのようにWD4文書にアクセスするかについての特定の事前知識なしに、利害関係者がWD4文書を見つけることを可能にするインデックス化または他のメカニズムは存在しなかった。文書にアクセスするために、ユーザは少なくとも以下の4つのステップを実行する必要があった:(1)ユーザが対応するウェブサイトにナビゲートしなければならなかった;(2)ユーザがメニューから「すべての会議」に関する情報を見るためのオプションを選択しなければならなかった;(3)ユーザが利用可能な会議オプションのリストから会議「Torino」(2011年7月のJCT-VC会議の場所)を選択しなければならなかった(および、主題の表示はなかった);および(4)ユーザは対応する主題なしに、識別番号によって並べられた文書のリストを見ることになり、そこから、ユーザは、「WD4:高効率ビデオ符号化のワーキングドラフト」と題されたWD4文献を選択する必要があった。MPEGウェブサイトについて、プロセスは同一であったが、ユーザはウェブサイトにアクセスするためにログインおよびパスワードを有する必要があった。ウェブサイトは意味のあるインデックス化を提供していなかったため、CAFCは、JCT-VCのメンバでなかった利害関係者はWD4文書を見つけることができなかったし、どこを探すかさえも知ることができなかったのであって、したがってウェブサイトは公のアクセス可能性を構成しないと結論づけた。この結論に到達するにあたって、CAFCは、「作業物を見つける方法を知っている唯一の人々がその作業物を作った人々である場合、その作業物は公にアクセス可能ではない」と述べた。
最後に、リストサーブを介したWD4文書の配布に関して、控訴においてサムスンは、審判部が「アクセス」と「アクセス可能性」とを混同したと主張した。CAFCはそれに同意し、公のアクセス可能性の基準は当業者が合理的な注意を払った後に、文献にアクセスできたかどうかであると述べた。テストは、そのような個人が実際に文献にアクセスしたかどうかではない。したがって、アクセス可能性が証明された場合、公衆の特定のメンバが実際にその情報を受け取ったことを示す必要はなく、サムスンは、公衆の特定のメンバが実際にその情報を受け取ったことも、特定の割合の利害関係者が実際にそれを受け取ったことも、示す必要はなかった。したがって、審判部は、WD4が「一般的に」または「広く」知られていることをサムスンが立証しなかったことを繰り返し責めた点で過ちを犯した。したがって、CAFCは、「サムスンの証拠が、リストサーブの電子メールに基づき、合理的な注意を払った後に、当業者がWD4文献にアクセスできたことを立証した」かどうかを検討するために、審判部に事件を差し戻した。
この判決は、特許のロイヤリティがパテントプールのメンバに、それぞれがプールに有する特許の数に基づいて分配される状況において、プールのメンバがプール内の特許の有効性に関して他のメンバを訴える立場にあることを確立するので、重要である。企業は、パテントプールに加入する前に、パテントプール契約の条項を見直す際にこの可能性を考慮すべきである。さらに、この判決は、文書が公にアクセス可能になったときについての基準を繰り返し、文献の公のアクセス可能性についての基準は、その文献が実際にアクセスされたかどうかやその文献にアクセスした人の数には依存しないが、その代わりに、当業者が合理的な注意を払った後に、その文献にアクセスすることができたかどうかに依存することを強調した。
情報元:
Michael P. Sandonato
Brian L. Klock
Venable LLP