CAFC判決

CAFC判決

Roche Palo Alto LLC 対 Apotex Inc.事件

No. 2008-1021,2008,10,9-Jul-08

この事件において、CAFCは、被告の「逆均等論」に基づく抗弁を拒絶し、地方裁判所の侵害認定を支持する判決を下しました。この判決において、逆均等論に基づく特許非侵害の抗弁の立証に、どのような証拠が必要であるかが明示されました。さらに、この事件では、同一訴因による複数訴訟の禁止の要件が示されました。

逆均等論の要件と同一訴因による複数訴訟の禁止

ロッシュ・パロ・アルト(Roche Palo Alto PLLC, 以下、ロッシュ)は、目の炎症治療薬に関する米国特許第5,110,493号(493特許)の特許権者である。

この件の争点は493特許のクレーム1の製剤であり、その製剤は、「効果的な量」の非ステロイド抗炎症薬(以下、NSAID)と、「効果的な量」の第4級アンモニウム防腐剤と、「安定化した量」の非イオン界面活性剤、オクトキシノール40(以下、O40)を含んでいた。

493特許の審査過程において、出願人は自明性の拒絶を回避するためにO40を追加し、それは、O3のような他の界面活性剤に比べて予期しない(例えば、澄明な液体になったというような)結果をもたらしたと主張していた。

アポテックスは493特許に基づく2つのジェネリック医薬品のFDA医薬品簡略承認申請(以下、ANDA-1及びANDA-2)を提出した。ANDA-1、ANDA-2の両方共、493特許のクレーム1の範囲のO40を含んでいた。

この控訴審の主題ではないが、ロッシュの権利継承者は、ANDA-1が493特許を侵害していると主張して、アポテックスを訴えた。

ベンチトライアルの後、事実審裁判所は、493特許は有効であり権利行使でき、また、アポテックスはこれを侵害していると認定した。

控訴審においてCAFCは、更なる自明性の分析のために事件を差し戻した。事実審裁判所は再び493特許が非自明で有効であると認定し、CAFCはこれを支持した。

この控訴審の基となる下級裁判所の判決において、ロッシュはANDA-2の処方についてアポテックスを提訴した。後に、ロッシュは、493特許の侵害、及びアポテックスが過去の訴訟から除外された争点に基づくあらゆる特許無効の抗弁ができないことを主張する略式判決の申立をした。

地方裁判所はロッシュの申立を認め、493特許の侵害、及び争点の除外については、主張の除外がなされる自明性の例外を除く、全てのアポテックスによる特許無効の主張を除外した。

CAFCは、略式判決の申立に関する審理の基準を示した。侵害認定するために、CAFCはまずクレームを解釈し、次に侵害被疑品が個々の限定要件に合致するかどうかを判断する。

アポテックスは、ANDA-2製剤は493特許の文言上の範囲内であるけれども、特許権者が発明の「正しい範囲」を超える保護を主張することを防止するため用いられる、公正な抗弁である「逆均等論」に基づき、特許を侵害していないと主張した。

逆均等論に基づいて非侵害の一応の証拠を立証するために、アポテックスは、その侵害被疑品はクレーム文言内に含まれるけれども、「実質的に異なる方法で同一又は類似した機能を果たす、特許製品とは原理上異なるものである」と主張した。CAFCは、この稀有な抗弁に基づく非侵害の認定は決して支持されるものではない、と述べた。

アポテックスは、493特許の「原理」は、NSAIDと第4級アンモニウム防腐剤との相互作用を阻害するミセルの形成を通して、製剤を安定させるために、O40を使用することであったと主張した。

この主張の裏付けとして、アポテックスは自社の専門家証言と493特許の審査過程において出願人が提出した宣誓書を根拠とした。

しかしながら、CAFCは、クレーム・明細書・審査経過の何れにもアポテックスの主張を裏付けるものは見つけられなかった。実際に、アポテックスは略式判決の申立において、493特許の審査経過を提示もしくは根拠とはしていなかった、とCAFCは述べた。

更にCAFCは、ANDA-1のケースにおけるクレーム解釈について、地方裁判所はO40の「安定した量」とは、限定要素というよりもむしろ意図した結果だけを指していると解釈した、と述べた。

従って、CAFCはアポテックスの逆均等論の抗弁を拒絶し、直接侵害を認定した。

CAFCは更に、同じ訴因による連続した訴訟を禁止する原則である、主張の除外の争点について審理した。

この事件はカリフォルニア州第9区地方裁判所から始まっていたので、第9巡回裁判所の主張の除外に関する法律がこの件に適用された。

CAFCは主張の除外の要件として次の点を挙げた。(1)過去の訴訟においてこの件と同じ当事者が関与している(2)過去の訴訟がこの件と同じ訴因によるものである(3)過去の訴訟が終局判決に至っている。

ここでの争点の唯一の要素は「同じ訴因」という項目だけである。CAFCは、「同じ訴因」に関する特許法における検証は、過去の訴訟における対象物がこの件における対象物と「本質的に同じ」か否かというものであると述べた。

アポテックスは、ANDA-2は、ANDA-1における濃度では組成が安定しなかったO40の分量を減らしていたと主張した。更にアポテックスは、2つの製剤が相異なっていたので別々のANDAを提出しなければならなかったという単なる事実も主張した。

しかしながら、CAFCは、製剤の相違は493特許のクレームに関連しており、この件においては、両方の処方共に493特許の範囲内であると述べて、アポテックスの主張を却下した。

ロッシュ事件は幾つかの重要な教訓を示している。まず、被告は抗弁の方針の一部として逆均等論を用いることに細心の注意を払うべきである。

しかしながら、CAFCは完全にこの逆均等論を拒絶してはおらず、完全な逆均等論の抗弁を立証するために、被告にとってどのような証拠が必要であるかを明示している。

さらに、この件は、米国の裁判体制における規判事項の重要性と、他の状況における公正さの主張を切り札として出すことの有効性を明らかにした。