CAFC判決

CAFC判決

Robert Bosch LLC 対 Pylon Manufacturing Corp.事件

No. 2011-1096,2011,12,13-Oct-11

この事件においてCAFCは、特許権者が回復不可能な損害を示さなかったことを理由に終局的差止命令の申し立てを却下した地方裁判所の判決を破棄し、差止命令の4つの要因をテストして終局的差止命令を認める判決を下しました。

ボッシュ(Bosch)対パイロン(Pylon)事件は、「ビームブレード」として知られる、車のフロントガラスのワイパーにおける、比較的新しい技術に関する特許侵害事件である。

ビームブレードは、従来のワイパーと比較して、ワイパーの長さ全体に、より均一に力が配分され、悪天候下においてもより良好に機能する。ボッシュとパイロンはビームブレードを販売し、ウォールマートのような小売店との取引において競合している。

ボッシュは3つの特許権を主張して、デラウェア州地方裁判所にパイロンを提訴した。ボッシュは複数の特許クレームの有効性と特許侵害を認めた略式判決を勝ち取った後で、終局的差止命令の申立をした。

地方裁判所は、差止されなかった場合の「回復不可能な損害」を被る可能性をボッシュが立証しなかったことを理由に、その申立を却下した。

また地方裁判所は、ボッシュが関連する市場を特定しなかった点を指摘し、他の競合他社の存在、及びボッシュのワイパーの販売が、ボッシュの事業全体からすると主力事業ではないという点において、差止は不当であると述べた。

さらに地方裁判所は、終局的差止命令の要件の中の、他の関連する衡平法の要因を扱うことも拒絶した。この事件は賠償額の裁定段階に進んでいたが、ボッシュは直ちに控訴した。

控訴審においてCAFCはまず、地裁には連邦民事訴訟法第1292条(a)(1)及び(c)(1)に基づく管轄権があったと判示した。第1292条(a)(1)は、差止命令を発令、継続、修正、拒絶、或いは解除する中間判決からの控訴審の管轄権について規定している。

また、第1292条(c)(1)は、第1295条(特許に関する地方裁判所の最終的な判決に関する管轄権をCAFCに与える規定)に基づき妥当であると考えられる控訴審の管轄権を与える規定である。

次にCAFCは、裁量権の濫用の基準に基づく終局的差止命令の却下について審理した。これは、地方裁判所が法律の瑕疵、もしくは明らかに誤った事実認定に基づいて判決を下したか、あるいは明らかに誤った判決を下したことを意味している。

CAFCは次いで、良く知られている終局的差止命令の4つの要因テストについて説明した。その4つの要因とは、(1)回復不可能な損害、(2)法律による十分な救済がないこと、(3)原告・被告間の困難のバランスを考慮した公平な救済が保障されているか、及び、(4)終局的差止命令によって公共の利益が損なわれないことである。

最近まで、CAFCと地方裁判所は、有効な特許が侵害されたと認定されたならば、回復不可能な損害有りの推定を認めていた。しかしながら、eBay Inc. 対 MercExchange, LLC事件(547 U.S. 338 (2006))の最高裁判決により、そのような断定的な規定は不適切であると説示された。

CAFCは、eBay判決はこれまでの回復不可能な損害の推定を完全に除外した、と述べた。しかしながら、そのような推定はもはや妥当ではないが、eBay判決は、特に特許権者と侵害者の両者が特許発明を実施していた場合において、「従来の要因と全く反対の指針を示したわけではない」と、CAFCは説明した。

回復不可能な損害の項目に関し、CAFCは、市場に他の競合他社が存在する事実、及びワイパーの販売がボッシュの主力事業ではないという事実に地方裁判所が過度に重きを置いたことは、裁量権の濫用であると判示した。

さらに、地方裁判所は以下の、ボッシュによる確かな証拠を無視していると述べた。その証拠とは、(1)当事者間における直接競争、(2)パイロンによる侵害行為を起因とするボッシュの市場シェア及び潜在的顧客の損失、及び、(3)パイロンに金銭判決に応じる支払能力がないことである。これらの事実を前提とすると、ボッシュが回復不可能な損害を示さなかったと地方裁判所が合理的に結論付けた根拠はない、とCAFCは判示した。

CAFCは次に、残りの3つの要因も結局、終局的差止命令を認めるものであると認定した。まずCAFCは、パイロンが終局的に使用差止されない限り、ボッシュは市場シェア、商機、及び価格下落による回復不可能な損害を受け続けることになる、と判断した。重要なことは、パイロンの財務状態に問題があり、その親会社が損害賠償額の不足分を補っていることである。

さらにCAFCは、本来であれば自社の特許発明と競争しなくてもよいはずであるボッシュの方が困難な立場にあると判断した。そして、侵害者の方が小さな会社であるという理由だけで、使用差止を免れることはできないと述べた。

CAFCは、残りの要因である公共の利益に関しては中立であるが、他の要因は、ボッシュに終局的差止命令の権利があるという「唯一の合理的な結論」を示している、と認定した。

ブライソン判事は、地方裁判所が終局的差止命令を却下したことは裁量権の濫用であることには同意したが、差止命令が下されるべきであるとした多数派の判決には反対した。

ブライソン判事は、eBay判決の4つの要因全て関する事実に徹した分析を行うために事件を地方裁判所へ差し戻すことを意図していた。

ボッシュ対パイロン事件の判決は、終局的差止命令に関する法律をさらに明らかにした。CAFCは、特許侵害及び特許の有効性の認定を受けた後に回復できない損害の推定額の支払いを受けるという、これまで普及していた概念を明瞭に解消した。特許権者は今後、他の衡平法上のeBay判決の要因に加えて、差止命令がなかった場合の回復できない損害を示す必要がある。

この事件はさらに、両当事者が発明を実施していた場合に、どの要因が重要であるかを明らかにした。最後に、この事件は、連邦民事訴訟法第1292条に基づく終局的差止命令の認可もしくは却下に対し直ちに控訴することが可能であることを、特許権者及び侵害被疑者双方に思い起こさせた事件である。

Key Point?この事件においてCAFCは、特許権者が回復不可能な損害を示さなかったことを理由に終局的差止命令の申し立てを却下した地方裁判所の判決を破棄し、差止命令の4つの要因をテストして終局的差止命令を認める判決を下した。