CAFC判決

CAFC判決

Qualcomm Incorporated 対 Broadcom Corp.事件

Nos. 2007-1545, 2008-1162,2009,2,1-Dec-08

この事件から得られる教訓は、標準化団体への参加者は標準化団体に対して自己の特許を開示する義務を負い、これに違反した場合、その特許権が権利行使不可能になるということです。但し、権利行使不可能な範囲は、すべての製品が対象となるわけではなく、あくまで開示義務の対象となった標準を使用した製品に限られます。

標準化団体への特許の開示義務違反による権利行使不能となる範囲

特許権者は標準化団体(例えば、日本ではJIS、国際的にはISO等)に対していくつかの特許の存在を開示する義務があるが、本件では、特許権者が開示義務に違反したと地方裁判所が判断したことについて、CAFCは部分的に同意した。

ただし、CAFCは地方裁判所による権利行使不可能という判決を破棄し、権利行使不可能な範囲を標準に準拠した製品に狭めるための命令とともに本件を地方裁判所に差し戻した。

クォルコム(Qualcomm)は少なくとも2001年から、米国規格協会(ANSI)、国際標準化機構(ISO)、及び国際電気標準会議(IEC)の活動的なメンバーであった。クォルコムはまた、国際電気通信連合電気通信標準化部門(ITU-T)のメンバーであり、2002年1月から、Joint Video Team(JVT)のメンバーであった。2003年5月、JVTよりも上位に位置付けられる2つの標準化団体であるITU-T及びISO/IECは、映像圧縮技術についての公式なH264標準を策定して発行した。

2005年、クォルコムはブロードコム(Broadcom)を相手に訴訟を提起し、ブロードコムがH264に準拠した製品を製造することによって米国特許第5,452,104号(104特許)及び米国特許第5,576,767号(767特許)の各特許権を侵害したと主張した。

地方裁判所は、クォルコムがJVTに対して104特許及び767特許を開示する義務を負っていたがクォルコムは開示義務に違反したと認定した。

また、権利行使可能性に関する暗黙の権利放棄を発見したことに基づき、地方裁判所は、クォルコムの104特許及び767特許は全分野に対して権利行使不可能であると認定した。

控訴に際しての本質的な争点は、クォルコムがJVTに対して自己の特許を開示する義務を負っていたか否か、その義務の範囲は何であるか、クォルコムがその義務に違反したか否か、違反に対する適切な措置は何であったかということであった。

CAFCは、Rambus Inc. 対 Infineon Technologies AG(注)に従って、クォルコムがJVTのメンバーであったことがJVTに対して自己の特許を開示する義務をもたらすか否かを検討した。

そして、CAFCは知的財産権(IPR)の開示に関する明文化されたJVTのポリシーに加えて、JVT IPRポリシーに関するJVTへの参加者の理解を考察した。

明文化されたJVTの「Collection of IPR」ポリシーによれば、「…メンバー/専門家は、(自分自身のまたは誰か他人の)あらゆる標準化の提案に関連する(自分自身のまたは誰か他人の)知的財産権情報を可能な限り早く開示することが奨励される」。

ポリシーはまた、「そのような情報はベストエフォートの原則で提供されるべきである」と述べている。

特許使用料の基準を提供するものとしてのJVTの標準化の目的と、中核特許を開示しないとそのような目的が無に帰するであろうという事実とに鑑みて、CAFCは、サブセクション3.2は少なくとも開示するというベストエフォート基準をもたらすものであると考えた。

さらに、ITU-T及びISO/IECの特許ポリシーは、「ITU、ISO、またはIECの作業に参加しているあらゆる当事者は」検討中の標準内に「完全にまたは部分的に盛り込まれている」特許を特定すべきであると規定している。

両者の明文化されたポリシーを考慮して、CAFCは、クォルコムがJVTとその上位団体の両者に対して知的財産権の開示義務を負っていると結論付けた。

CAFCは、明文化されたポリシーが仮に開示義務をもたらさないとした場合でさえも、JVTへの参加者によるJVT IPRポリシーの理解が開示義務をもたらすものであったか否かを検討した。

JVTの議長及びJVTの参加者からの供述証拠によれば、開示義務が強制的なものであるという理解が示された。JVTの参加者によるJVT IPRポリシーの理解に基づいてクォルコムも開示義務を負っていたと地方裁判所が認定したことは、十分な証拠によって裏付けられているとCAFCは結論付けた。

義務の範囲に関して、JVTのIPRポリシーは、あらゆる標準化の提案に「関連づけられた」、またはJVTの成果物を「使用することに影響を与える」知的財産権情報を開示することに言及している。

Rambus の場合と同様に、この文言はJVTの参加者に対してH264標準の実施に「合理的に必要であろう」特許を開示することを要求していると、CAFCは認定した。

H264標準のリリースよりも前にクォルコムが104特許及び767特許をJVTに対して開示しなかったということについてはいずれの当事者も争わなかったので、次の争点は、H264を実施するためにこれらの特許が合理的に必要であろうか否かということであった。

クォルコム自身の専門家が、H264に準拠した製品は104特許に含まれている請求項に記載された特許発明を実際に実施すると証言した。また、クォルコムの社員が、H264標準に対する「中核」として767特許を説明した。CAFCは、H264を実施するにはクォルコムの特許が合理的に必要であろうと結論付け、それゆえ、クォルコムはそれらを開示しなかったことによって義務に違反したと認定した。

CAFCにとっての次の争点は、「権利放棄による防御」は適用すべき公平な原理であるか否かであった。

CAFCはまず、クォルコムは特許権を意図的に放棄したわけではないので、クォルコムが実際の権利放棄を行ったわけではないと認定した。

CAFCは次に、H264標準のJVTによるリリースよりも前に開示する義務と、104特許及び767特許がH264の実施に合理的に必要であろうということとをクォルコムが知っていたという証拠を再審理した。

CAFCはまた、クォルコムがH264に準拠した製品を製造する者からライセンス料を引き出すことを企図して104特許及び767特許を意図的にJVTの検討から隠蔽したと地方裁判所が認定したことも再審理した。

証拠に基づいて、CAFCは、クォルコムが自分の特許権を行使する権利を言外に放棄したという地方裁判所の結論に同意した。

最後に、CAFCは、権利行使の放棄に対する公平な措置を議論し、特許とH264非準拠の製品との間には明確な結びつきが存在しないと判断し、それゆえ、全分野にわたり権利行使不可能であると地方裁判所が認定したことは過剰であると考えた。

そのかわりに、CAFCは、全てのH264準拠の製品に限り、クォルコムの104特許及び767特許(並びにこれらの継続出願、分割出願、及び他の派生した出願)を権利行使不可能と決定した。

この事件は、標準化団体の参加者がその団体に対する開示義務を負うことになり、標準を実施するのに合理的に必要であろう、参加者の全ての知的財産権に対してそのような義務が及ぶことになるということを確固たるものとしたので、重要である。

この事件はまた、CAFCが、義務に違反した特許権者の特許を、全分野にわたり権利行使不可能とするのではなく、標準に準拠した製品に対してのみ権利行使不可能とした点でも、重要である。