CAFC判決

CAFC判決

Primos, Inc. 対 Hunter’s Specialities, Inc.事件

Nos. 2005-1001, -1376,2006,11,14-Jun-06

クレーム補正の理由や補正個所が侵害被疑製品とは無関係な場合、審査経過の禁反言は適用されないことを示した事件です。また、特許を無効とするための先行技術を口頭審理の終結までに提示しなければ、証拠として採用されない可能性が高いことを示す事件です。

ディスカバリー手続の終結後に発見された無効資料が証拠として採用されなかった事件

Primos事件において、CAFCは、地方裁判所による請求項の文言「engaging」の解釈を支持した。CAFCは、補正の理由付けが、主張した均等物に無関係な場合、審査経過禁反言は適用されないと判断し、地裁における均等論の適用は適正であったと結論付けた。

Primos事件は、米国特許第5,520,567号(以下、567特許)と5,415,578号(以下、578特許)に関するもので、両特許ともPrimosを譲受人とする「狩猟用呼び笛装置」に関する特許であった。

567特許と578特許はハンターが狩猟動物の鳴き声を真似するための振動板を使用した笛に関するものである。Primosは競合先であるHunter’s Specialtiesに対して訴訟を提起した。

Primosは、争点となったHunter’s Specialties の装置がTone Troughとして知られており、567特許と578特許の特許権を侵害すると主張した。争点のTone Troughは、振動板を使用した口笛装置であり、他の特徴の中でも、Primos特許に記載された薄膜の上に、シェルフやプレートの代わりにドームを使用していた。Primosはその後、請求項を補正し、David Forbesを含む複数の被告人がそれぞれ特許侵害を誘引したと主張した。

Primosは、Hunter’s Specialtiesに対し文言侵害と仮差止命令の略式判決を申し立てた。Hunter’s Specialtiesも、文言上及び均等論上の両方に基づく非侵害の略式判決を含む幾つかの反訴を提起した。

地方裁判所は、両者の申立てを棄却した。なぜなら、Tone Troughの「プレート」の有無、及び、Tone Trough装置が使用者の口蓋に触れているときに動作するか否かによって、合理的な解釈が変わってくるからである。

Hunter’s Specialtiesは、マークマンヒアリングで、567特許の請求項21における「engaging」についての文言解釈を要求した。

Hunter’s Specialtiesは、「engaging」を「連結する」と解釈すべきと主張していたが、裁判所は、この主張を却下した。代わりに、裁判所は、「engaging」を「接触する」という意味であると解釈した。

Hunter’s Specialtiesは、審査経過の禁反言が578特許に均等論を適用する上での阻害事由になるという論理のもと、再度略式判決を申し立てたが、地方裁判所はこの申立てを棄却した。

最終的に、Primosは審理において、Alminium Flap Callとして知られている第三者の装置を、証拠として提出することは認められるべきでないと申し立てた。

裁判所は、Hunter’s Specialtiesが、ディスカバリー手続の終了後数ヶ月経つまで、特許を無効とする先行技術としてAlminium Flap Callを認識していなかったことを理由に、Primosの申立てを認めた。

裁判において、陪審員は、Hunter’s Specialtiesに対し、Tone Troughが567特許を文言上侵害し、均等論に基づき578特許を侵害すると認定した。陪審員は更に、Hunter’s Specialtiesが故意に567特許を侵害し、David Forbesが特許侵害を誘引したと認定した。

陪審評決後、被告人Hunter’s Specialties及びWayne Carltonは、法律問題としての判決(JMOL)を求めて提訴した。被告は、地方裁判所が請求項の文言の「engaging」の解釈を誤り、さらに、「オール・リミテーション・ルール」及び審査経過の禁反言が、578特許に均等論を適用する上での阻害事由となるべきであった、と主張した。被告はさらに新たな申立てを行った。地方裁判所はこれらの申立てを棄却した。

控訴審において、CAFCは、地方裁判所の判決を全て維持した。第一に、CAFCは、請求項の文言「engaging」を「接触する」とした地方裁判所の解釈を支持した。

Hunter’s Specialtiesは「engaging」は「シーリング」もしくは「連動する」と解釈されるべきであると主張した。しかし、CAFCは、そのような解釈は、請求項中の他の文言に余分な意味を与えるおそれがあると判断した。

具体的に、裁判所は、請求項中には「engaging」と「シーリング」とが別々に使用されているため、「engaging」が「シーリング」と同じ意味を持つはずがないと考えたのである。

CAFCは、この解釈が、発明の好適な実施例によりサポートされているのに対し、Hunter’s Specialtiesの主張するユーザの口蓋に連動する手段は特許に記載されていないと認定した。

第2に、CAFCは、審査経過が均等論の適用を除外していないと判断した地方裁判所の判決を支持した。請求項が審査過程で特許性に関する理由で補正されている場合、補正請求項の限定と出願時の請求項の限定との間にある範囲は、特許権者が放棄したとものと推定される。しかしながら、特許権者が主張する均等物とは無関係な理由で補正が行われていた場合は、この推定が覆される。

578特許の請求項2の文言「プレート」は、2個所が補正された。(1)プレートには「長さ」があるということ、及び(2)プレートが薄膜の上に「空間を隔てられて配置されている」ことが補正により限定された。

CAFCは地方裁判所の(1)「長さ」の文言の追加は請求項の範囲を狭めるものではないとの判断を支持した。なぜなら全ての物体には長さがあるからである。

また、(2)プレートが薄膜の上に「空間を隔てられて配置されている」ことの追加も請求項の範囲を狭めるものではなく、薄膜の上に空間を隔てることなく配置されたプレートを放棄したにすぎないとの判断を支持した。

CAFCは争点となった装置のドームは薄膜上の空間も含んでいるとした。そのため、CAFCは争点となった装置に無関係な補正がなされたとした。そのため、審査経過に基づく禁反言が均等論を阻害することにはならないと判断した。

第3に、CAFCは、均等論がオール・リミテーション・ルールによって除外されることはないとの地方裁判所の判断を維持した。均等論に基づき、争点となった装置と特許発明との間に均等関係が存在すれば、装置が特許権を侵害していることになる。

CAFCはオール・リミテーション・ルールが均等論の適用を阻害するのは、請求項の限定が無効となってしまうような場合であると判断したのである。

Hunter’s Specialtiesは均等論に基づき侵害はしていないと主張した。なぜなら、請求項はプレートを要件としたが、争点となった装置はドームを使用していたからである。Primosはこれに対して、「プレート」がある特定の幾何学的構造に限定されることはなく、「ドーム」も「プレート」と均等のものであると反論した。

Hunter’s Specialtiesが「プレート」の代わりの均等物は侵害被疑装置には存在しないと主張したものの、CAFCはこの均等論の適用が不適当だと判断した。

第4に、CAFCは地方裁判所が第三者のAlminium Flap Callを証拠から除外したのは、基準の乱用に当たらないとした。CAFCは、ディスカバリー手続の終結から数ヵ月後、審理の始まる3ヶ月前まで、無効の根拠となる先行技術を提示しなかったのに、その証拠の採用を認めるのは不公平であるとして、地方裁判所の判決を支持した。

最後に、CAFCは被告人(Wayne Carlton)が秘匿特権を利用して弁護士の助言を明かさなかったことは不利な推定を陪審員にもたらすことになるが、Hunter’s Specialtiesに損害を被らせるものではないとした。CAFCによれば、弁護士の助言を開示し、陪審員の判断であるHunter’s Specialtiesによる侵害を通知していなかったため、Hunter’s Specialtiesは損害を被るはずはなかったのである。

本件は、秘匿特権を主張している一人の被告人に対して、秘匿特権を放棄した被告人が必ずしも不利な推定を受けないと言うことを判示する事件である。本件はさらに、侵害被疑者が無効資料を勤勉に探し出して特定するための最善の努力をしなければならないことを判示している。

無効資料は、ディスカバリー手続の終結前までに提出されなければ、審理で採用することが難しい場合があることを忘れてはならない。