CAFC判決

CAFC判決

Prasco, LLC 対 Medicis Pharm. Corp.事件

No. 2007-1524,2008,11,15-Aug-08

この事件では、特許事件において確認判決を求める訴訟を提起する場合における原告の立証事項が示されました。原告は、十分な「緊迫性と現実性」を有する争訟が存在することを証明する必要がありますが、そのためには被告の行為に起因する現実の損害が存在すること、認容判決によって損害が補償されること等を立証する必要があります。

非侵害等の確認訴訟を提起するための要件について

この事件は確認判決を下すことが可能なCAFCの権限に関するものである。確認判決(宣言的判決)とは、さらなる救済を求められるまたは求めることが可能であるか否かについて、任意の利害関係人が有している権利や他の法的関係を宣言する裁判所の命令をいう(確認判決法、28U.S.C.2201)。

しかし、合衆国憲法は、裁判所が確認判決を下す権限を持つためには、実際の「事件または争訟(case or controversy)」が存在することを要件にしている。

そして、合衆国憲法第3条に規定する事件または争訟に該当するためには、争訟が「明確かつ具体的であり、相反する法益を有する当事者の法的関係に関するもので」、「現実かつ実質的なもので」、かつ「事実の仮説的な状態に対して法がどのように適用されるかについての勧告的意見とは異なり、終局的特性を有する判決によって特定の救済をもたらすもの」でなければならない(MedImmune, Inc. 対 Genentech, Inc. 事件、127 S. Ct. 764, 771(2007), (Aetna Life 事件、300 U.S. at 240-41 を引用))。

この「事件または争訟」の要件は、「事物管轄権(subject matter jurisdiction)」の一要素である。米国最高裁判所は、確認判決を求める訴訟における事物管轄権の有無を判断するための適正な基準は、「全ての状況下において、相反する法益を有する当事者間において、確認判決を下すことを正当化するための十分な緊急性と現実性を有する実質的な争訟が存在することが主張事実によって示されているか否か」であると判示している(MedImmune, Inc. 事件、127 S. Ct. at 771)。

プラスコ(Prasco, LLC)は、メディシス・ファーマシューティカル(Medicis Pharmaceutical Corp.)とイマジナティブ・リサーチ(Imaginative Research Associates, Inc. 以下、両者まとめて「被告」)に対して、プラスコの製品の一つが被告の所有する様々な特許権を侵害していないことの確認判決を求めて提訴した。

プラスコの訴えは合衆国憲法第3条に規定する事件または争訟に該当せず、地方裁判所は事物管轄権がないとして訴えを却下した。CAFCはこの判決を維持した。

メディシスは登録商標TRIAZを付して過酸化ベンゾイル洗剤製品を市販していた。この製品には、米国特許第5,648,389号(以下、389特許)、米国特許第5,254,334号(以下、334特許)、米国特許第5,409,706号(以下、706特許)、米国特許第5,632,996号(以下、996特許)といった4つの特許権により保護されていると記載されていた。

プラスコはジェネリックの過酸化ベンゾイル洗剤製品を製造し、これに商標OSCIONを付していた。この製品はメディシスのTRIAZ(登録商標)製品と直接競合するだろうとプラスコは主張した。389特許の特許権はメディシスが所有していた。334特許、706特許、996特許の各特許権はImaginative Research Associates(以下、IRA)が所有しており、メディシスにライセンスされていた。

2006年5月26日、プラスコは、商標OSCIONを付した製品が389特許、334特許、706特許、および996特許の各特許権を侵害していないことの確認判決を求めて被告を提訴した。

プラスコが確認判決を求めて提訴した時点では、商標OSCIONを付した製品はまだ市販されていなかったが、開発と市販の計画の実質的な準備をプラスコは行っていた。

提訴されるまで被告が商標OSCIONを付した製品の存在を知らなかったことについて、プラスコは主張しなかった。それに代えて、プラスコは訴状の中で、商標OSCIONを付した製品の存在とは無関係な以下の2つの理由に基づいて、合衆国憲法第3条の裁判権の存在を主張した。

米国特許法第287条の特許表示の要件(public notice requirement)を満たすために、メディシスがTRIAZ(登録商標)製品に対して、本訴訟に係る4つの特許表示の印刷を付していたこと。?2005年10月に、本事件と無関係な特許発明の技術的範囲にある別の洗剤製品に関して、メディシスがプラスコと他のジェネリック企業に対し特許権侵害訴訟を提起していたこと。

Key Point?被告は、事件または争訟が存在しないことから事物管轄権が存在しないと主張して訴えの却下を求めた。

Key Point?訴訟の提起と訴え却下の請求がなされた後で、プラスコは、商標OSCIONの製品サンプルと成分表をメディシスとIRAに対して発送し、4つの特許権に基づいて訴えを提起しないことを契約で求めた。

Key Point?被告は、訴訟を提起しないことの契約書にサインせず、「訴え却下の請求を取り下げる予定はない」ことをプラスコに伝えるための手紙を返信した。これに対してプラスコは、この訴訟提起後の行為とプラスコが商標OSCIONの製品の市販を開始したことが記載された「修正訴状」という形で2通目の訴状を提出した。

Key Point?これに対して、地方裁判所は、確認判決を求めるだけの事物管轄権すらも存在しないと判示した。

Key Point?裁判に付すために十分なほどの「緊急性および現実性」を有した争訟をプラスコは提起していないという判決をCAFCは下し、以下の3点をプラスコが立証する必要があると判示した。

現実の損害(injury-in-fact)、すなわち、『「具体的」かつ実際または緊急であり、「憶測」または「仮説」に基づくものではない』損害が存在すること、?被告の行為に「起因すると公平にいえる(”fairly traceable”)」損害が存在すること、および、?認容判決によって損害が補償されること

(Caraco 事件、527 F.3d at 1291(Steel Co. 対 Citizens for a Better Env’t 事件、523 U.S. 83, 102-03, 118 S. Ct. 1003, 140 L. Ed. 2d 210 (1998)を引用)、DaimlerChrysler Corp. 対 Cuno 事件 547 U.S. 332, 342, 126 S. Ct. 1854, 164 L. Ed. 2d 589 (2006)も参照)。

プラスコはこれらの事項を立証できなかったため、即時かつ現実の争訟は存在しなかった。

CAFCは、不利になる可能性がある特許権が単に存在するというだけで、特許権者による行為が存在しないのであれば、権利侵害は成立しないし、権利侵害の緊急の危険も存在しないため、「潜在的な競業者は、相反する特許権が存在しても、法的に自由に製品を販売することができる」と判示した。

このようにして、地方裁判所の判決は維持された。プラスコは、裁判所が司法的判断を下すのに十分な争いの存在を立証することができなかったのである。

CAFCは、被告に起因するプラスコの損害は実際には存在しないし、被告は特許に関するどのような権利もプラスコに対して主張しておらず、プラスコの現在の製品に対してどのような差別的措置もとっていないと認定した。

このようにして、本事件と関連性のない特許権と製品に関する訴訟が過去に一つあり、訴訟を提起しないという契約書に被告がサインしなかったというだけでは、プラスコが被告から危害を受ける緊急の危険性があることを立証するには不十分であるという判決をCAFCは下した。

したがって、確認判決の裁判権を保証するのに十分なほど、緊急性と現実性を有する当事者間の現実の争いは存在せず、また、地方裁判所の判決はいずれも合衆国憲法第3条で禁止されている勧告的意見に該当するだろうとCAFCは判断した。

プラスコ判決は、確認判決において十分な「緊迫性と現実性」を有する争訟であることを原告が立証しなければならない事項に関して、メディミューン(Medimmune)事件以降の重要な分析を行っている。

実際の争訟として認められるためには、不利になる特許権や関係のない訴訟および製品が単に存在するということ以上のことが求められるのである。