CAFC判決

CAFC判決

Powell 対 Home Depot U.S.A. Inc.事件

Nos. 2010-1409, -1416,2012,1,14-Nov-11

この事件でCAFCは、故意による特許権侵害、及び損害賠償について法律の問題としての判決を認めなかった地方裁判所の判決を支持しました。陪審員による損害賠償額の算定は、特許権者又は訴えられた侵害者の予測していた利益が上限ではなく、侵害品により削減できたと推定される費用も基準のひとつとなることが改めて明らかになりました。

この上訴審は、文言上の特許権の故意侵害が陪審評決され、フロリダ州南部地方裁判所が増額した損害賠償額と代理人費用を課し、法律の問題としての判決を求める申立を棄却し、不正行為の抗弁を却下して、およそ2400万ドルの賠償を命じた終局判決に対する控訴審である。

パウエル(Mr. Michael Powell)は、米国内で最も大きなホームセンターチェーンのひとつであるホームデポ(The Home Depot U.S.A., Inc.)と取引関係があった。ホームデポは、その店舗内で標準の木材を顧客のリクエストに合わせたサイズに切断するための電動丸鋸を使用していた。

ホームデポの従業員は電動丸鋸を操作中に重い怪我を負うことがあり、ホームデポは従業員の怪我の申告に対して数十万ドルを支払っていた。それでもやはり、ホームデポは店舗内に電動丸鋸を設置しておくメリットは、鋸がないことで営業機会を失うといったリスクに勝ると判断していた。

ホームデポは鋸を使用しつつ、従業員の怪我を最小限にするための解決策についてパウエルの協力を求めた。2004年に、パウエルはソーガードの試作品をホームデポに示し、いくつかのソーガードをテスト用としてホームデポの店舗に販売した。パウエルは自身のソーガードに関する特許出願を行い、それはのちに特許付与された。

その一方で、ホームデポは試作品のガードのためにパウエルに支払ったよりも低い単価で、ほとんど同一のソーガードを別の会社に作らせた。パウエルは、ホームデポが要求した安い価格でソーガードを提供することに合意しなかった。ホームデポは、代わりにおよそ2000ドルのソーガードを他の会社に作らせ、店舗に設置したので、2007年5月にパウエルは特許権侵害でホームデポを訴えた。

上訴審において、ホームデポは地方裁判所による2つのクレーム文言の解釈と、これら2つの文言に関連した特許権侵害の認定に異議を唱えた。

ホームデポは「粉塵収集構造」という文言は、米国特許法第112条第6パラグラフに基づくミーンズプラスファンクションの要素として解釈されるべきであったと主張した(注)。

CAFCは、明細書がこのクレーム要素に対して十分な構造を記載していること、及び明細書がこの構造とほかの構成要素とのあいだの相関性を説明していることを理由に、この主張を却下した。

特許権侵害の問題について、ホームデポは異なるクレーム要素である「粉塵収集構造」と「切断ボックス」は、侵害とされている装置において別々の構造を必要とすると主張した。

CAFCは、明細書がそれらの要素を完全に別々の構造として記載していないので、明細書はホームデポの主張を採用しなかった。

ホームデポはまた「テーブル面」という文言は、切断される木材を支える機能的限定を含むべきであると主張した。

CAFCは、クレームが「テーブル面に備え付けられた作業面」に言及しており、主張された機能的制限は「作業面」及び「テーブル面」の役割を合体させたものであろうことを理由に、ホームデポの主張を退けた。

特許権侵害の問題について、CAFCはホームデポの主張は自身のクレーム解釈に依存していると認め、特許権侵害との陪審員評決を裏付ける実質的証拠を認定した。

ホームデポによる不正行為の申立は、ホームデポが別の会社のガードを使用することを決めた後、パウエルにはソーガードの提供義務がないと明らかになったときに、パウエルがUSPTOに提出した早期審査の請願書の更新をしなかったことに関連する。

そして、CAFCは、早期審査の請願書を裏付ける状況がもはや存在しなくなったことをUSPTOに知らせるのを怠ったことは、それがbut-for重要性基準でなく「積極的な甚だしい不正行為」でもないために、Therasense 対 Becton, Dickinson & Co.事件によって示された基準に基づく不正行為を構成しないと判断した。

故意の問題について、ホームデポは、要求された暫定的差し止め命令が認められなかったこと、及び不正行為の抗弁への密接性は、ホームデポが責任のない立場にいることの客観的な妥当性を証明するものであると主張した。

CAFCは、暫定的差し止め命令が認められなかったことはのちに地方裁判所が修正したクレーム解釈を前提としたものであり、審査経過におけるパウエルの行為は明らかにTherasense事件後の不正行為には当たらないとして、ホームデポの主張を退けた。

ダイク判事は、ホームデポの立場は自身が主張したクレーム解釈の意見に基づいて客観的に合理的であると考えたため、故意の認定について反対意見を述べた。

最後に損害賠償額の問題について、ホームデポは、パウエルが予測していたホームデポに販売するソーガードから得る利益よりも多い合理的な特許料を、パウエルが回収することは妥当でないと主張した。

CAFCは、仮定の交渉分析に基づく合理的な特許料の上限は、特許権者及び訴えられた侵害者の予測していた利益のどちらでもないと言及し、賠償額は裁判で他の証拠によって裏付けられているので、製品単価7736ドルで陪審員が認定した1500万ドルの賠償額は、原告の専門家が主張した予測利益の4倍以上であることは非合理的であるとの主張を支持しなかった。

例えば、ホームデポは2005年にいくつかの店舗にあったソーガードと互換性のない鋸を設置するために1セットにつき8500ドルを支払っている。また証拠では、ホームデポは、従業員の怪我の申告に対して年間約100万ドル費やしていたが、侵害者のソーガードにより従業員の怪我の予防に完全に成功したことが示されている。

CAFCは、これらの推定される費用の削減は、陪審員による合理的な特許料の認定において頼りにすることができると結論づけた。

パウエル判決は、特定の状況において個人の発明者である原告が、大企業である侵害者に対して多額の損害賠償を得ることが可能であることを示している。

この判決は、最近の判例では損害賠償額を控えめに認定するようになった後も、侵害品を使用することにより推定される削減できた費用に基づいて、多額の合理的な特許料が認定される可能性を明らかにした。また、Therasense事件の後で、審査経過における情報開示の怠慢に基づく不正行為を証明することの難しさを実証した。

この事件でCAFCは、故意による特許権侵害、及び損害賠償について法律の問題としての判決を認めなかった地方裁判所の判決を支持した。陪審員による損害賠償額の算定は、特許権者または訴えられた侵害者の予測していた利益が上限ではなく、侵害品により削減できたと推定される費用も基準のひとつとなることが改めてわかった。