CAFC判決

CAFC判決

Poly-America, L.P. 対 API Indus., Inc. 事件

No. 2016-1200,2017,1,Fed. Cir. October 14, 2016

この判決において、特許権者が審査手続きにおいて争点となるクレーム範囲の否定となる、クレーム文言の範囲を限定する主張をしていたため、CAFCは地裁による非侵害判決を支持した。この判決は、クレーム文言が特許全体およびその審査経過と一致する解釈に限定されるという、クレーム範囲の否定の原則が採用された一例を示した。

クレーム範囲の否定の原則を採用した判決

ポリ・アメリカ事件においてCAFCは、クレーム範囲の否定の原則を採用し、争点のクレーム文言を、特許全体およびその審査経過と一致する解釈に限定した。

係争特許は、伸縮性のある引きひも付きごみ袋の改良された構造に関するもので、内側に向かって延在するように短く(袋の開口部の両端を)シールすることにより、袋の上部開口部を狭くしている。短いシールは、伸縮性のある引きひもを一緒に貼り付けてあり、他のごみ袋と比較してより確実にごみ箱の縁を包み込むことを可能にする。

ポリ・アメリカ(Poly-America, L.P.)は係争特許クレーム10の権利侵害を主張し、API(API Industries, Inc.)を相手取り、デラウェア地区連邦地方裁判所へ提訴した。地裁および控訴審において鍵となった争点は、クレーム10の「短いシール(short seal)」の地方裁判所での文言解釈であった。

重要なことは、特許クレーム10には、短いシールや狭くした開口部のサイズに関する限定が明記されておらず、第1、第2の短いシールからなる引きひも付きごみ袋について述べているだけであった。狭くした上部開口部に関する特定の限定事項は、後述の従属クレームに明記されていた。

クレーム10の解釈において、ポリ・アメリカは「短いシール」を「第一、第二の伸縮性のあるひもと、第一、第二の袋の側面とを分離できない状態に溶着もしくは結合させる」意味に解釈されるべきであると提案した。

対照的に、APIが提案する解釈は、「サイドシールに隣接し、実質的にはサイドシールにつながっていないが、サイドシールの内側の角から内側に向かって延在した伸縮ひもの固定用シール」というものであった。APIの提案した解釈の下では、侵害被疑品が侵害していないことを容認することになるので、この2つの解釈の違いは重大である。

地方裁判所は、2つの主な理由からAPIの解釈を採用した。第一に、特許明細書には「本発明の特徴の一つは、内側方向に延在する短いシールにより(中略)上部の幅を狭くする」と記載しており、先行技術には内側に向かって延在した短いシールが無いと述べていた。

第二に、ポリ・アメリカは、審査手続きにおいて、袋の上部開口部の幅を狭くするために内側に延在しない短いシールを否定することにより拒絶理由を解消していた。特に、ポリ・アメリカは、袋の幅と同じ幅の開口部の先行技術引例と区別し、クレームは袋の幅よりも狭い開口部を要件としていると供述していた。

このクレーム解釈に基づき、特許権を侵害していないと認定し、APIの勝訴とした地裁判決に対し、ポリ・アメリカは控訴した。

控訴審において、ポリ・アメリカは、地方裁判所の「短いシール」の文言解釈を否定し、裁判所は明細書に記載された個別の実施例から不適切に限定事項を取り込み、審査経過を読み違えており、クレーム識別の原則を無視したと主張した。

CAFCは、発明者は明らかに内側に延在しない短いシールを包含するクレーム範囲を否定していたことから、ポリ・アメリカの主張する特徴を否定した。審査経過と同様、個々の実施例および明細書の個々のセクションは、内側に延在した短いシールは発明の特徴であると強調していることを、CAFCは指摘した。

それゆえに、CAFCは、発明は内側に延在しない短いシールを包含しないと認定し、さらに、ポリ・アメリカのクレーム識別性の主張も拒絶した。発明は内側に延在しない短いシールを包含していないので、クレーム識別性により、特許全体、および審査経過におけるクレーム範囲を明確にした供述書に照らして、その文言の意味を超えてクレーム範囲を拡張することはできないとCAFCは述べた。

この判決はクレーム範囲の否定について重要な一例を示している。審査手続の中で行われたクレームを限定する主張に基づくクレーム範囲の否定に関する数多くの判例が存在するが、ポリ・アメリカ事件は、明細書が発明の要部として特別な特徴を記載していた場合には、クレーム範囲の否定を生ずる可能性があることを明らかにした。

この判決はまた、ある実施例の限定を不適切にクレームに持ち込むことと、クレーム文言が特許全体としての開示に一致するように解釈されることを要件とすることを区別する一例を提供した。

Key Point?この判決において、特許権者が審査手続きにおいて争点となるクレーム範囲の否定となる、クレーム文言の範囲を限定する主張をしていたため、CAFCは地裁による非侵害判決を支持した。この判決は、クレーム文言が特許全体およびその審査経過と一致する解釈に限定されるという、クレーム範囲の否定の原則が採用された一例を示した。