本件においてCAFCは、和解契約において実施が禁止された係争品の設計変更品について、特許権を侵害しないと判断し、また、和解契約を拡大解釈することにより設計変更品に対して効力が及ぶことがないと判断しました。
和解契約と和解契約に示された製品の設計変更品との関係
本件において、CAFCはPanduit Corporation(以下、「Panduit」と呼ぶ)の控訴を審理した。
Panduit HellermannTyton Corporation(以下、「HellermannTyton」と呼ぶ)が和解契約(以下、「契約」と呼ぶ)に違反したとして、訴訟を提起したが棄却され、控訴に至った。その和解契約は、米国特許第5,998,732号(以下、「732特許」と呼ぶ)に関する侵害訴訟を終結させるものであった。CAFCは、地方裁判所が重要事実に関して真正な争点が存在しないことを認めてHellermannTytonに有利な略式判決を下したことを支持した。
Panduitの732特許は、建物の1つのダクト中に電力線及び通信線を導入する際に頻繁に使用される種類の、「マルチチャネルの電力・通信配線及び配線管システム」のための「モジュラー分岐電源ボックス及び通信線」に関するものである。
732特許の装置は、例えばコンピュータ、ファックス装置、及び、電話などの装置のためのコンセントを必要に応じて追加したり除去したりすることを補助する。
2001年に、Panduitは、HellermannTytonの「パーツ番号MCR-SEB」が732特許を侵害しているとして、提訴した。その結果、和解契約として、HellermannTytonは、係争品を製造したり販売したりしないことに同意した。このことは、契約の1(b)(i)において「HellermannTytonのマルチチャネルの配線管サイドエレクトリックボックス(HellermannTyton のパーツ番号MCR-SEB)」として規定されており、また、1(b)(i)において「Panduitの特許のいずれかのクレームにカバーされる、現存或いは将来のすべての製品」として規定されていた。
2003年に、Panduitは、HellermannTytonが同様のパーツの販売を開始した際に契約が破られたとして、提訴した。「設計変更」により、分岐ダクトに隣接する壁は、切り込みの無い固体であり、732特許に記載されている切込みのある壁とは異なっていた。
地方裁判所は、新しい設計はパーツ番号MCR-SEBと同一でないのであるから契約の1(b)(i)は及ばないと判示した。控訴審において、地方裁判所が1(b)(i)の文言は明白であって特定のパーツ番号のみに及ぶと判断したことをCAFCは支持した。Panduitは、本件契約は、特許された装置に対してごまかしの変更のみを加えた装置を含むように解釈されるべきであると主張したが、CAFCはその主張を退け、契約に照らせば両当事者の意図は明白であると述べた。
Panduitは設計変更品が特許侵害にあたるため、契約の1(b)(ii)を理由に契約を破棄した。裁判所は新しいHellermann Tytonの装置は、特許で特定された開口部を具備していないことから、非侵害と判断した。
Panduitは、設計変更品にはいくつかの特徴があり、これらは特許クレームの「開口部」として解釈されると主張したが、CAFCは、クレームに記載されている「開口部」に該当しないとし、そのため新装置は非侵害であるとした。
さらに、CAFCは、クレーム解釈に均等論を適用することも認めなかった。
Asyst Techs., Inc.対 Emtrak, Inc., 402F.3d 1188 (Fed. Cir. 2005)の判決を引用し、CAFCはクレームの限定を無効にする場合には均等論は適用されないとした。本件特許において開口部はワイヤが通過する橋脚部分に設けられていることが規定されているが、HellermannTytonの装置ではワイヤが橋脚部分を迂回している。該装置が特許侵害であるとしたら、開口部に関する限定が無視される。
CAFCは、和解契約に関しては、書類の記載範囲以上の解釈をしないとした。契約は文字通りに解釈し、契約は当事者間の多数の交渉の産物であり、厳格な合意内容であるとみなされるとした。本件は、CAFCは極力事案の状況ではなく、交渉書類の隅々を参照してその意味を把握することを示すものである。