侵害事件で外部ソフトのインストールと組み込みソフトのアクティベートを区別してクレームを解釈した判決,この判決は、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせを必要とする特許クレームの侵害成否の基準に関する指針を作った。CAFCは、外部ソフトウェアをインストールすることと、既にハードウェアに組み込まれているソフトウェアをアクティベートすることとを区別し、侵害被疑品は外部ソフトウェアをインストールすることでクレーム要件を備えるので非侵害と判断した。
侵害事件で外部ソフトのインストールと組み込みソフトのアクティベートを区別してクレームを解釈した判決
2010年、ナゾミ(Nazomi Communications, Inc.)は、ウェスタン・デジタル(Western Digital Corporation及びWestern Digital Technologies, Inc.)及びスリングメディア(Sling Media, Inc.)を被告として含む様々なテクノロジー企業を相手に侵害訴訟を提起した。
ナゾミは、ジャバ(Java)仮想マシンを用いずに、スタックベースの命令を処理すること、及びレジスタベースのアプリケーションを実行することの両方が可能なハードウェアベースのジャバ仮想マシンの2つの関連特許で出訴した。
ウェスタン・デジタル及びスリングメディアは、ARM(ARM Limited)が設計したプロセッサチップを備える製品を販売するコンシューマ製品メーカーである。
ARMは、自社のプロセッサデザインをサードパーティーのチップメーカーにライセンスしている。1つのチップデザインの特定のハードウェアコンポーネントはジャゼル(Jazelle)と呼ばれ、これは、ジャバプログラミング言語において使用されるバイトコード処理のアクセラレータとして設計されている。
侵害被疑品は、ジャゼルハードウェアを備えたARMプロセッサコアを含んだ中央処理装置(CPU)を有している。しかしながら、ジャゼルハードウェアは、ジャゼルTechnology Enabling Kit(JTEX)と呼ばれるソフトウェアもインストールしなければ、ナゾミの特許に記載された機能を実行することができなかった。
被告はARMからJTEXソフトウェアのライセンスを受けることができたかもしれないが、侵害被疑品についてはライセンスを受けていなかった。
ウェスタン・デジタル及びスリングメディアは、略式判決の申し立てを行い、クレームされた機能を侵害被疑ハードウェアデバイス自体が実行することを必要とするものとしてクレームは解釈されるべきであると主張した。
ウェスタン・デジタル及びスリングメディアは、侵害被疑品がクレームされた機能を実行するのに必要なJTEXソフトウェアを含んでいないことを理由に、この解釈の下では、侵害被疑品は訴えられた特許クレームを侵害していないと主張した。
ナゾミは、略式判決の申し立てに反対し、クレームされた機能を実行するのに必要なハードウェアコンポーネントだけをクレームは記載していると主張し、また、侵害被疑品は、たとえJTEXソフトウェアが無かったとしてもジャゼルハードウェアだけの存在に基づいて侵害を構成していると主張した。
地方裁判所は、ウェスタン・デジタル及びスリングメディアに同意し、侵害被疑デバイス自体がクレームされた機能を実行可能でなければならないと判断し、また、対象特許クレームを、レジスタベースの命令とスタックベースの命令の両方を処理可能なハードウェア及びソフトウェアの組み合わせを必要としていると解釈した。
ジャゼルハードウェア自体は、レジスタベースの命令を処理するだけであり、スタックベースの命令を処理するためにはJTEXソフトウェアを追加することが必要である。地方裁判所は、侵害被疑品がジャゼルハードウェアを含むだけでありJTEXソフトウェアを含んでいないことを理由に、侵害被疑品は侵害を行い得ないと判断した。従って、地方裁判所は、非侵害の略式判決の申し立てを認めた。
CAFCは、クレームされた機能を実行可能なハードウェアだけを必要としているとクレームを解釈すべきであるというナゾミの主張を却下し、クレームの文言が、限定的に解釈すべき特定の機能を必要とすると判断した。
例えば、CAFCは、ハードウェアプラスソフトウェアの組み合わせを実装することを必要とする特定のクレーム機能に関係するクレーム部分を引用した。クレームは、レジスタベースの命令とスタックベースの命令の両方を処理するCPUを記載していた。
CAFCは、ハードウェア単体ではこれらの限定を充足することができないので、クレームの限定を実行可能なハードウェア及びソフトウェアの両方を含んだ装置をクレームしているものとしてクレームを解釈するのが適切であると判示した。それゆえ、CAFCは、地方裁判所によるクレームの文言解釈に同意した。
侵害の分析に関して、ナゾミは、機能的表現でクレームされた、コンピュータに係る装置クレームは、ユーザーが装置を変更することなく機能を利用できるように製品が設計されている限り、侵害はあると主張した。
また、ナゾミは、JTEXソフトウェアのインストールは、変更に該当しないと主張した。CAFCは、法律に関するナゾミの一般的な主張については同意したが、ナゾミの主張とは反対に、JTEXソフトウェアのインストールは侵害被疑品の変更に該当すると判断した。
CAFCは、JTEXソフトウェアをインストールすると、それ以前には存在しなかった新たな機能が追加されるので、JTEXソフトウェアのインストールは変更に該当すると説明した。
この判断に際して、CAFCは、外部ソフトウェアをインストールすることと、既にハードウェアに組み込まれているソフトウェアをアクティベートすることとを区別した。それゆえ、CAFCは、侵害被疑品は変更無しには侵害を行い得ないことを理由に、地方裁判所による非侵害の判決を支持した。
この事件の判決は、ハードウェア及びソフトウェア機能の組み合わせを必要とする特許クレームの侵害を成立させるために必要な立証に関する更なる指針を示した。侵害被疑品が変更無しに装置クレームの機能的要件を充足するか否かの評価に際して、CAFCはハードウェア及びインストール済みソフトウェアの現在の機能に注目する可能性を示唆した。
Key Point?この判決は、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせを必要とする特許クレームの侵害成否の基準に関する指針を作った。CAFCは、外部ソフトウェアをインストールすることと、既にハードウェアに組み込まれているソフトウェアをアクティベートすることとを区別し、侵害被疑品は外部ソフトウェアをインストールすることでクレーム要件を備えるので非侵害と判断した。