この事件のポイントは、共同侵害の成立要件と、自明性判断における二次的考察です。ソフトウェア特許ではユーザによるデータ入力がしばしば必要とされるので、共同侵害が成立する否かが問題となります。この事件では、共同侵害者の一人が全プロセスを「指揮又は支配する」場合にのみ、その当事者に侵害を認める判断が下されました。また、自明性判断における二次的考察(商業的な成功)については、クレーム中の構成要件に基づくものでなければ、その主張は有効ではないと判断されました。
共同侵害の成立要件と自明性判断における二次的考察
この事件は、市が発行する有価証券の一種である地方債のオンラインオークションに関するものである。ミュニオークション(Muniauction)の米国特許第6,161,099号(以下、099特許)は、額面と償還日がばらばらな多様な債権をまとめてパッケージ化する特許である。
パッケージの購入希望者は、価格及び利率を提示して入札し、インターネットブラウザを用いてオンラインで入札を観察する。
CAFCは、099特許のクレームのいくつかは法律上自明であり、残りのクレームについてはトンプソン(Thomson Corp.)の非侵害を認定し、一審判決を覆した。
099特許の審査過程で、審査官はパリティ(Parity)と呼ばれる公知のソフトウェアシステムに基づき、審査対象のクレームを拒絶した。これに対しミュニオークションは、外部ソフトウェアや通信方法を使用せずに単一のサーバのみを使用することをパリティは開示していないと主張した。その結果、「電子オークション」システムの方法に関するクレームで099特許が許可された。このシステムでは、入札者に自分のコンピュータから入札価格を入力させる。そして、ネットワーク上で入札価格を提示する前に入札価格の金利コスト値を自動的に計算する。その後、入札者に入札価格を表示する。
トンプソンはパリティソフトウェアを購入してこれに自社のビッドペイ(Bid Pay)ソフトウェアを付加し、組み合わせのプログラムを作成した。ビッドペイは、閉じられたネットワークではなくインターネット上で動作する。ミュニオークションはトンプソンのビッドペイが099特許を侵害していると主張して、2001年に訴訟を提起した。
陪審団は、099特許のクレームは自明ではないしトンプソンはこの特許を故意に侵害しており、ミュニオークションは3800万ドルの逸失利益を請求する権利があると考えた。
審理後、トンプソンは法律上の判決を求める申立てを行った。申立ての係属中に、最高裁がKSR事件(127 S. Ct. 1727 (2007))の判決を下した。
この判決では、自明性に関するCAFCの従前のTSM(teaching – suggestion – motivation)テストの適用が制限された。
地裁はKSR事件を考慮したが、依然として099特許は自明ではないと考えた。更に、損害額を7690万ドルに引き上げた。地裁の判決に対してトンプソンは控訴した。
控訴審で、CAFCは最初に099特許の有効性を審理した。このとき、トンプソンは自明性に関して明白で説得力のある証拠を確立することが求められた。
一方ミュニオークションは、商業的成功や「法律上有効な賞賛」といった「二次的要因」が存在するので、例えトンプソンがそのような証拠を提示したとしても099特許は自明ではないと主張した。
自明性は法律問題なので、CAFCは判決を支持する「実質的な証拠」が存在するか否かに基づいて審理を行った。
CAFCは、先行文献の組み合わせが099特許のクレームの全構成要素を開示しているか否かを検討した。
この点についてトンプソンは、ウェブブラウザを使用すること以外は全て先行技術であるパリティソフトウェアに含まれており、しかもウェブブラウザは周知であると主張した。
これに対しミュニオークションは、パリティでは入札者のコンピュータから独立したソフトウェアが金利コストの計算を行っているので、パリティは「自動的に計算する計算機」を含んでいないと主張した。
一審のクレーム解釈では、「自動計算」ステップはユーザからの「更なる働きかけ」を必要としないということだけであり、この計算は入札者自身のコンピュータによって実行されることも含んではいるということであった。
CAFCはこのクレーム解釈に基づき、パリティシステムは「自動計算」ステップを充足しているとした。
099特許のクレームの全構成要素が開示されていたので、CAFCは次にこれらの構成要素を組み合わせることが自明か否かを判断する問題に移った。
CAFCは、「先行技術で確立している機能に従った先行技術の構成要素の予測可能な用途以上の改良がなされたか否か」というKSR事件の判示に従って、自明性の分析を行った。
また、CAFCは出願時の技術水準を吟味して、ウェブブラウザを入札システムに組み込んだオークション特許が099特許以前にもいくつか存在したことを発見した。
この先行技術に基づき、CAFCはこの件をLeapfrog Enterprises, Inc. v. Fisher-Price, Inc(485 F.3d 1157 (Fed. Cir. 2007))の事例になぞらえた。
この事例では、「近代的な電子機器を旧来の機械装置に適用することは近年ではありふれたことになってきている」という理由で裁判所は自明性を認めた。
その結果、CAFCはトンプソンが法律上の自明性に関する挙証責任を全うしたと判断した。
CAFCはまた、ミュニオークションが提示した商業上の成功や「法律上有効な賞賛」といった他の考慮すべき点をクレームの特徴と結び付けるものが存在しないとし、ミュニオークションによる二次的考察の反論を却下した。
CAFCはミュニオークションの「法律上有効な賞賛」を検討したが、この賞賛を099特許の請求項の特徴に結び付けるものは存在しないと判断した。CAFCは、「法律上有効な賞賛」はむしろ、クレームの文言に含まれない発明の構成要素に基づくものであると判断した。
CAFCは099特許の全クレームが自明であると判断したわけではないので、次に残りのクレームに対する侵害の可能性を検討した。
099特許の請求項1の最初のステップは「前記入札者のコンピュータに…データを入力する」というものであるので、侵害に関するミュニオークションの主張は、トンプソンと入札者とによる共同侵害のみであった。
トンプソン自身がこのステップを実施しているわけではないということをミュニオークションは認めていた。
地裁では、On Demand Machine Corp. v. Ingram Industries, Inc.に関するCAFCの判決(442 F.3d 1331 (Fed. Cir. 2006))に照らすと入札者とトンプソンとの間には「重要な結び付き」が存在するとして、共同侵害が認められた。
しかしながら、CAFCはより最近のBMC Resources, Inc. v. Paymentech, L.P.の事例(498 F.3d 1373 (Fed. Cir. 2007))に着目した。
この事例では、複数の当事者が組み合わさって方法のクレームを実行する場合、一人の当事者が全プロセスを「指揮または支配する」場合にのみ、その当事者に侵害の成立を認めている。
BMC Resources の事例に従えば、方法を完結するに際して支配する立場の当事者が他の当事者の取り組みに関して代理で責任を担うことが必要であると、CAFCは述べ、トンプソンは入札者に対して支配を行っていないので099特許を侵害していないと判断した。
ソフトウェア特許やインターネット特許はしばしばユーザーによるデータ入力を必要とするので、このような特許を侵害したと訴えられた企業にとって、この事件は強力な防護壁となるかもしれない。つまり、同じ理由でこの事件を他のソフトウェア特許にも適用できるかもしれないのである。
この事件の他の重要な教訓は、周知の方法やプロセスに対してインターネットの能力を単純に追加しただけの特許は、有効性に関して深刻な問題に直面するかもしれないということである。
最後に、二次的考察はクレームの特定の構成要素に関するものでなければならず、製品に対する単なる一般的な賞賛であってはならないということを、特許の訴訟を提起する者は覚えておかなければならない。