CAFC判決

CAFC判決

Merck KgaA 対 Integra Lifesciences I, Ltd.事件

2005,10,2005年6月13日 米国最高裁判決

新薬開発のために特許化合物を使用することは、米国特許法第271条(e)(1)により、侵害が免除されています。この事件のポイントは、侵害の免除が「特許化合物を使用」のどの範囲にまで及ぶかというところにあります。これについて、最高裁判所は、特許されている化合物に関する実験がIND又はNDAに関係する情報を生み出すであろうという合理的基礎がある限り、第271条(e)(1)は適用可能であると考え、侵害を免除される活動の境界を明確にし、拡張しました。

臨床試験前の研究のための特許発明の使用と米国特許法271条(e)(1)における免責事項との関係

2005年6月13日、米国最高裁判所は、臨床試験前の研究のために特許発明を研究者に供給することは特許法271条(e)(1)に規定される侵害の免責事項に該当しないとするCAFCの判決を取り消し、差し戻した。

特許法第271条(e)(1)は、「医薬品の使用等に関する連邦法の下での開発及び情報提供に合理的に関係する使用のためにのみ、特許発明を合衆国内で・・・使用・・・又は輸入することは侵害行為」ではないと規定している。そのような法律の一つとして、1938年の連邦食品・医薬品・化粧品法(以下 FDCA)があり、該法律において、医薬品製造者には、治験許可申請(investigational new drug application、以下 IND)及び新薬申請(new drug application、以下 NDA)のための臨床試験を行う許可を得るため、研究データを米国食品医薬品局(以下 FDA)に提出することが求められている。

本件の係争特許は、Integraが所有しており、「RDGペプチド」と称されるトリペプチド配列に関するものである。

1988年、Merck(ドイツの会社であり、アメリカの製薬会社とは関係がない)は、Scripps研究所(Scripps)においてDr. Chereshにより行われる新しい血管形成の研究に資金の提供を始めた。Merckはまた、Dr. ChereshにRDGペプチドを提供した。1994年、RDGペプチドを使い、Dr. Chereshは、鶏の胚において新しい血管形成を抑制することにより、腫瘍の成長を食い止めることに成功した。

1995年、Merckは、INDの被験者用の潜在的な薬化合物の同定を目的として、ScrippsがRGDペプチドに関する研究を拡張することに対し、出資に合意した。Dr. ChereshはMerwickから提供されたRDGペプチドを、適切な薬剤候補の発見を目的として生体内実験及び生体外実験において使用した。Dr. Chereshはまた、臓器類似体(organic mimetics)の基礎研究において、ペプチドをRDGペプチドと同様の方法で新しい血管形成を抑制するための「ポジティブコントロール」として使用した。1996年11月までに、Merckは、そのRDGペプチドのうちの一つについて、合衆国及びヨーロッパにおいて認可を得るための正式な計画に着手した。

1996年7月、IntegraはMerck、Scripps及びDr. Chereshに対して特許侵害訴訟を起こした。Integraは、Merckの故意の侵害、及び、ScrippsにRDGペプチドを提供することにより、他人の侵害を誘発したことを主張した。

さらにIntegraは、Scripps及びDr. Chereshが、ペプチドを実験に使用したことは特許侵害であると主張した。IntegraはMerckからの賠償金支払い及び、Scripps及びDr. Chereshに対する宣言的判決を求めた。

これに対しMerckは、RDGペプチドを使用した研究はIntegra特許を侵害してはおらず、その研究行為は合衆国コモンローにおける研究の例外及び特許法271条(e)(1)によって保護されていると答弁した。

正式事実審理の結果、地方裁判所は、Merckの1995年以前の行為はコモンローにおける研究の例外によって免除されるが、1995年以降のMerckのRDGペプチド使用が特許法271条(e)(1)に定める「免責条項(safe harbor)」によって保護されるかどうかに関する事実問題は残ると判示した。

地方裁判所は陪審に、Merckは「特定の行為によって集められた情報がFDAに実際に提出されているかどうかを証明する必要はないが」、Merckの行為を特許法271条(e)(1)によって保護しようとするのであれば、Merckは「MerckやScrippsのような状況におかれた当事者であれば、訴えに係る行為が比較的直接に、FDAが問題の製品を認可するか否かを決定するプロセスに関連する情報の生成に貢献できるという、相応の見通しを抱くことに客観的な合理性がある」ことを証明しなければならないと指示した。

そして、陪審はMerck、Scripps及びDr. Chereshの特許侵害、及びMerckの行為は特許法271条(e)(1)によって保護されないと認定した。陪審はまた、1500万ドルの賠償金を認めた。

正式事実審理後の申立について、地方裁判所はIntegraのScripps及びDr. Chereshに対する訴えを退けたが、Merckの賠償金支払いは認め、侵害とされるScrippsによる実験と、FDAにおいて行われるであろう審査との関係は、特許法271条(e)(1)における免責に値するほど直接的なものではないと述べた。

CAFCは地方裁判所の判決を、一部維持、一部棄却し、Merckが出資したScrippsの研究は、「FDAに情報を提供するための臨床試験ではなく、新しい調合薬化合物を同定するための単なる一般的な生物医学的研究である」ため、特許法271条(e)(1)を適用できないと理由付けた。

米国最高裁判所は、法令文より特許法271条(e)(1)における免責が様々な活動における特許発明の幅広い使用にまで及ぶことは明らかであると述べた。その様々な活動とは、FDCAに規定されている、開発とあらゆる情報の提供に合理的に関連しているものであり、臨床段階前の研究も含まれている。

最高裁判所は、薬の効能に関係する臨床段階前の研究は特許法271条(e)(1)における免責に該当しないというIntegraの主張を却下した。

最高裁判所は、FDAが臨床試験に関して間違った査定をしないようINDを要求して十分な情報提供をさせることで、FDAが臨床試験が「不合理な危険」をはらんでいないかどうかを判断すると述べ、そのような情報には、ある結果を導く時の薬の効能に関する臨床前の研究も含まれると判示した。

最高裁はまた、仮にFDAが臨床前の研究を考慮したとしても、Merck、Scripps、及びDr. Chereshの研究は、FDAの「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(GLP)」に従って行われてはいないので、免責の適用を受けるのにふさわしくないとする、Integraの主張を退けた。

さらに最高裁は、GLPは薬の「安全性を判断するための」実験に適用されるものであり、薬の効能、作用メカニズム、薬理学、薬物動態学を研究するための臨床前の研究には適用しないという理由で、この主張を退けた。

最高裁はまた、GLPに従って行われていないものであっても安全性に関連する実験であれば、法律に従わない理由についての短い陳述を添付すればINDにおける提出に適していると指摘した。

そして最高裁は、特許法271条(e)(1)の範囲に関するCAFCの解釈に言及した。

CAFCは、Scripps-Merckの実験はFDAに情報を提供するものではなく、むしろ、FDAの規制プロセスに耐えうる最良の薬の候補を同定するものであったと判断していた。

CAFCは、FDAは後日行われる臨床試験を受けたり受けなかったりする様々な薬の探求には関心がなく、IND申請における薬の特徴以外の薬の情報を要求してはいないと述べた。

それゆえ、CAFCによれば、Scripps及びMerckによって行われた研究は、特許法271条(e)(1)の下で要求されるような、FDAの臨床試験に「合理的に関連する使用のみを目的としたもの」ではない。

最高裁は、CAFCのこの判決を破棄した。最高裁は、製薬会社と研究者は潜在的な薬の候補が一連の実験においてうまく機能するかどうか知る術もないということを重視し、研究中の試験は試行錯誤の過程であると考えた。

また最高裁は、特許薬化合物が生理学的効果を生み出すように機能するであろうと製薬会社が合理的に信じており、成功すればFDAに提出する情報につながるような実験においてその化合物を使用する限り、「合理的に関連する」との語は失敗を許容する概念として解釈した。

さもなくば、最高裁によれば、CAFCによる特許法271条(e)(1)の狭い解釈は、既に認可され特許されている薬に対して潜在的なジェネリック薬を比較することが要求されるジェネリック薬製造業者に対する免責を事実上制限することになるのである。

最高裁はまた、特許された化合物をFDAの「開発及び情報の提供」のために使用することは、単にそのようなデータがFDAに提出されなかったからといって、より希釈化されるわけでもより合理的でなくなるわけでもないと指摘した。最高裁は、特許されている化合物に関する実験がINDまたはNDAに関係する情報を生み出すであろうという合理的基礎がある限り、特許法271条(e)(1)は適用可能であると考えた。

本件は、新たな薬化合物の開発及び同定を助けるために特許されている化合物が使用される際に、侵害が免責される活動の境界を明確化し、かつ、拡張した点で、注目に値する。

しかしながら、連邦薬物規正法の下で要求される開発と情報の提供に合理的に関連する使用のための特許化合物の使用と、そのような化合物の「基礎科学研究」のための使用とを区別することに、注意が払われなければならない。