CAFC判決

CAFC判決

MercExchange, L.L.C. 対 eBay, Inc.事件

2005,8,2005年3月16日 CAFC判決

特許権侵害は終局的に止めてもらわなければありません。そこで、侵害行為は終局的な差止め命令の対象となります。例外的に公益保護のため、終局的な差し止めを認めず、ライセンスで事件を解決することもあります。本件では、地方裁判所は終局的差止め命令を棄却しましたが、CAFCは例外を認めず、地方裁判所の判決を覆しました。

終局差し止め命令の原則と例

MercExchangeは3つの特許(米国特許第5845265号、第6085176号、第6202051号)の特許権者である。これらの特許は、委託販売店のコンピュータネットワークを介して商品を販売するシステムを対象とする。

MercExchange, L.L.C. (以下、”MercExchange”と呼ぶ)は、eBay, Inc. 及び Half.com, Inc. (以下、まとめて”eBay”と呼ぶ) 及び ReturnBuy, Inc. (以下、”ReturnBuy”と呼ぶ)がその特許を故意に侵害していると主張して、訴訟を提起した。

eBayのウェブサイトにおける、固定価格での購入という特徴が争点となった。それは、顧客がeBayのウェブサイトにリストアップされている商品を固定の価格で購入することを可能にするものである。

審理に先立って、ReturnBuyは破産申立てを行い、MercExchangeと和解した。

略式判決の申請に対して、地方裁判所は、051特許の請求項は実施可能要件を欠くので無効であると判決した。

本訴訟の残りが陪審によって審理され、陪審は、eBayが故意に265特許及び176特許を侵害し、また、ReturnBuyが265特許を侵害するように教唆したと判断した。

陪審はさらに、残りの特許は共に有効であり、eBayは侵害に対して2950万ドル、ReturnBuyの侵害教唆に対して550万ドル、支払う義務があると判断した。

審理に続いて、地方裁判所は教唆侵害に対する損害を退け、MercExchangeによる終局差止め命令、3倍損害賠償、及び弁護士費用の申立てを棄却した。

2005年3月16日、CAFCは265特許に関する陪審による侵害の評決と、有効性の判決を支持したが、教唆侵害の判断を覆した。

次いで裁判所は、176特許のクレームは新規性欠如のために無効であり、MercExchangeによる終局差止め命令の要求の棄却を覆し、地方裁判所が弁護士費用を拒絶したことを支持し、略式判決の命令を無効とし、さらに審理するように差し戻した。

eBayは265特許侵害の判断に対して控訴し、地方裁判所のクレームの解釈指示(”Markman order”)に鑑み、クレームの文言に関する陪審の指示の正確性に対して異議を申し立てた。

特に、eBayは、地方裁判所は陪審の指示においてMarkman orderの陳述を含めることを誤ったと主張した。しかし、CAFCは、地方裁判所のMarkman orderは当事者に対するクレーム解釈の理由の説明であり、含めることは不要であると判断した。

MercExchangeは陪審がeBayのシステムが265特許を侵害していると判断するのに十分な立証を行ったため、CAFCは、侵害の判決を支持した。

CAFCはまた、265特許の有効性の判断を支持した。そもそもの問題として、裁判所は、地方裁判所でのeBayの主張は自明性にのみ基づいていたためeBayは控訴審において新規性に基づく無効の主張を行う権利を放棄しているとする、MercExchangeの主張を退けた。

CAFCは、新規性は自明性の一形態であるため、被告による自明性の主張は、新規性に基づく無効を主張する権利を維持させると判断し、さらに265特許は無効でないと判断した。

なぜなら、クレームは支払いに続くデータレコードの修正を説明しており、電子決済を規定しており、端末の認証に異なる識別コードを使用しており、構成と方法において従来技術と異なるからである。

教唆侵害の法理に関しては、地方裁判所はeBayがReturnBuyによる265特許の侵害を教唆していないということを法律問題として適切に判断したと、CAFCは結論付けた。

特許法271条(b)の下での教唆侵害を主張するためには、原告は、少なくとも教唆の被疑者が侵害行為を知っていたことを立証して、故意の証明を示さなければならない。

故意を証明するために、MercExchangeは、eBayがReturnBuyに200万ドル投資し、ReturnBuyの取締役会に「オブザーバー」を参加させ、ReturnBuyがeBayに食料を出品する権利を認め、ReturnBuyにとって最初の開催地であり、エンジニアを供給することによりeBayに出品する手助けをしていたことを指摘した。

しかし、CAFCは、これらの証拠ではeBayの故意を十分に立証することができず、単に2つの企業間のビジネスの関係を示すに過ぎないと判断した。

CAFCはまた、176特許は無効であると判断し、法律問題として地方裁判所による判決を覆した。

裁判所は、ある文献がその特許を自明にすると判断していた。なぜなら、その文献はクレームの各々の限定を開示しているからである。

その文献は、購入及び販売というよりは、参加者がマーケットで購入することが可能なシステムを意図しているにすぎないが、CAFCは、これは請求項の「購入又は販売」要件を開示するのに十分であると判断した。

次に、CAFCは、記載不備により051特許は無効であると判断した略式判決の命令を無効にした。

この判断に関連して、CAFCはまた、その特許のクレームの解釈に3つの誤りがあることを指摘した。

eBayは、これらのクレームの解釈は最終的な判断に関係しないとして、地方裁判所はその解釈を扱うべきではないと主張したが、CAFCは、略式判決を無効にしたため、「その条件の下においてのみ行われうるそのようなさらなる審理を要求する」という規定(28 USC §2106)の下での法定権限の一部として、地方裁判所は差し戻しにおいて発生しうる問題を扱う権限があると指摘した。

次いでCAFCは、地方裁判所がeBayに対する終局差止め命令を拒絶したことについて誤りがあったかどうかを扱った。

原則では、有効な特許が侵害されたと一度判断されると、終局差止め命令を発行することが出来るものの、裁判所は稀な状況において、公益保護のために差し止めによる救済を拒絶するという独自の判断を行ってもよい。

本件では、地方裁判所は、ビジネス方法特許の発行に対して高まっている懸念に言及して、終局差止め命令を拒絶した。

しかし、CAFCは、この懸念は終局差止め命令を拒絶するという異例の方針を正当化するような重要な公衆の要求という種類のものではないと強調した。

CAFCはまた、eBayが特許を回避しようとする企てを試みるという高い可能性により、軽々しい尋問が起こりやすくなるという、地方裁判所の意見を重視していなかった。

CAFCは、そのような連続的な論争は異例ではないと指摘し、終局差止め命令は、ライセンスすることを選択する特許権者と対比される形で、特許を実施しようとする特許権者のためのみに用意されているわけではないと指摘した。これは仮差し止めを求める者にとっても同様である。

CAFCはさらに、差し止め命令に由来するあらゆる追加的な効力は、「独占排他権の当然の結果であり、潜在的な侵害者とマーケットで争うことを希望しない当事者にとっての不適切な保護ではない」と判断した。

したがって、CAFCはMercExchangeによる終局差止め命令の申請を地方裁判所が拒絶したことを覆した。

本件は、例え特許権者が実施を意図しておらず、むしろその権利をライセンスすることを望むとしても、有効な特許が侵害された場合に終局差止め命令を認めることは例外なき原則であるということを確認したため、重要である。