この判決は、アニメメーションのキャラクターの口の動きと音声の会話とを同期させるリップシンクの自動化に関する発明について、アリス判決を前提に特許適格性を肯定したCAFCの数少ない判決である。地方裁判所は抽象的概念の適用に過ぎないとして特許適格性を否定したのに対し、CAFCは、クレームを全体的に観察しつつ個別のステップの要件を考慮して特許適格性を肯定した。
ソフトウェアに関する特許の特許適格性を認めたCAFC判決
CAFCは、アニメーション・キャラクタのリップシンク(口合わせ)を提供するプロセスの自動化に関する2つのソフトウェア特許の特許適格性(patent eligibility)を審理した。
以前、カリフォルニア中央地区連邦地方裁判所は、その2つの特許について、Alice Corp. v. CLS Bank Int’l, 134 S. Ct. 2347 (2014)(以下、「アリス判決」)のテストに基づき、特許は特許保護適格性を欠くものとして無効であると判断した。
CAFCはその地裁判決を覆し、クレームは抽象的概念に関するものではなく、特許適格性を有する発明主題を記載していると判示した。
McRO(McRO, Inc.)の特許は、会話をしているキャラクターの3Dコンピュータ・アニメーションを作成するプロセスを自動化する技術に関するものである。CAFCは、この特許発明以前は、アニメメーション・キャラクターのリップシンクは一般的にアニメータの手作業によりなされており、時間のかかる、主観的なプロセスであったと述べた。
アニメータは、音声トランスクリプトにおける特定の重要時点(「キーフレーム」)に合わせて、コンピュータ生成の顔面表情に関する数値を手動で設定し、そのようにアニメータに設定された複数のキーフレームの間については、コンピュータ・プログラムが補間を行っていた。
McROの発明は、この手動かつ主観的なプロセスを、アニメーション・キャラクタの現実的な話し方を表現するようにキーフレームを設定するルールに基づき自動化したものである。
地方裁判所は、特許クレームは先行技術に対してルールの適用を加えたものの、具体的なルールに限定していないので、クレームは「ルールを使用する」という抽象的概念の適用に関するものであると認定した。そして、クレームはアニメーション・キャラクタのリップシンクに関する分野において、ルールの自動適用を先取りして独占するものであるため、特許適格性を欠くと結論付けた。
控訴審の審理において、McROは、クレームは、記録された音声を語るアニメーション・キャラクタの映像という有形(tangible)なものを生成するため、抽象的なアイディアに関するものではないと主張した。クレームに係るプロセスは、事前に記録されたダイアログに同期して会話するアニメーション・キャラクタの映像を、アニメータの手作業を必要とせずに、コンピュータで自動的に生成する方法を提供すると述べた。
一方、被告は、クレームの趣旨は、汎用コンピュータでリップシンクを自動化することにより、既存のプロセスを単に高速化したにすぎないと反論した。クレームは有形なものを提供しておらず、代わりに、映像のような有形なものを生成せずにリップシンクしか生成していないと主張した。
CAFCは、McROに有利な判決を下した。地方裁判所の判決を覆す際に、CAFCは、特許クレームは全体的に検討する必要があることを強調した。同時に、CAFCは、クレームをおおまかにみて過度に単純化し、クレームの具体的な要件を考慮しないことに対しては警告をした。
CAFCは、問題のクレームは「特定の性質」を有するルールに限定されるものであり、クレームの方法に利用される一群のルールについて、クレームは有意な要件を提示していると述べた。
具体的には、CAFCは、クレームは音素シーケンスの数値セットと、その音素シーケンスに関連づけられた時間を定義していると認定した。また、CAFCは、時限音素のシーケンスの各部分に対してルールを適用することをクレームは要求していると判断した。
CAFCは、裁判所は、個別のステップの要件を無視せずに、クレームを順序付きの組み合わせとして検討すべきであると説明し、このような検討は、アリス判決のテストの2ステップのうちのいずれのステップの一部として行ってもよいと述べた。
さらに、CAFCは、特許クレームが「関連技術を改善する特定の手段または方法」を提供するか否かについて検討した。CAFCは、これを抽象概念である結果、あるいは、「一般的なプロセスや機械」を導いているにすぎない結果に関するクレームと区別し、クレームは既存の行為を自動化するための道具として汎用コンピュータを使用しているという被告の主張を退けた。
CAFCは、アニメータが従来利用していたプロセスがクレームに係るプロセスと同じであることを示す証拠を被告は何も提供していないと認定した。CAFCによると、先行技術は、コンピュータの使用ではなく、クレームしたルールを導入することで改善される。
また、CAFCは、クレームはアニメーション・キャラクタの自動化されたリップシンクを実現するあらゆる方法を先取りして独占するものではないと認定した。クレームに係るプロセスは、同期されたアニメーション・キャラクタの所望のシーケンスを生成するために適用される、具体的なフォーマットで情報を提供するために、具体的なルールを利用していると説明した。
CAFCは、クレームに係る発明に加えて、リップシンクと顔面表情を自動的にアニメーションにするためのルールに基づく方法は他に存在すると観察し、クレームに係る方法は、特許適格性を有するために、有形である必要はなく、また、機械に結びつけられている必要はないと結論付けた。
本判決は、有効性が争われたクレームの特許適格性を肯定した、アリス判決以降の数少ないCAFC判決の1つであるため、重要である。特許適格性が争われているソフトウェア特許の特許権者がこの判決を引用する可能性は大きいと思われる。
具体的なクレーム文言に注目するため、この判決は、明白なクレームの限定を欠くことを理由とする特許無効の主張に対して、特許権者の対抗の助けとなり得る。また、この判決は、特許適格性の検討において、先行技術のプロセスとクレームに係るプロセスとの差別化を試みる特許権者に対して、ガイダンスを提供するだろう。
Key Point?この判決は、アニメメーションのキャラクターの口の動きと音声の会話とを同期させるリップシンクの自動化に関する発明について、アリス判決を前提に特許適格性を肯定したCAFCの数少ない判決である。地方裁判所は抽象的概念の適用に過ぎないとして特許適格性を否定したのに対し、CAFCは、クレームを全体的に観察しつつ個別のステップの要件を考慮して特許適格性を肯定した。