CAFC判決

CAFC判決

Lisle Corp. 対 A.J. Mfg. Co.事件

2005,7,2005年2月11日 CAFC判決

CAFCは、Lisle Corporation(以下、Lisle)の特許の侵害を認めた略式判決の地方裁判所の略式判決を支持した。CAFCはさらに、公用に起因する特許無効についての、A.J. Manufacturing Companyによる評決無視の判決(JMOL)の請求を、下級裁判所が拒絶したことを、支持した。JMOLとは、正式事実審理中に証拠が提示された後に申し立てられる、争点を法律問題として判決を下すことを裁判所に求める請求であり、一般的には、陪審が認定を行うために必要な事実争点が存在しないことを主張するものである。,この判決は、正式の秘密保持契約をせず第三者に特許出願前のプロトタイプを提供していた場合の、公用に基づく特許無効の成立性に関するものである。特許権者がいかなる正式の秘密保持契約も無しに、数年にわたって関係のある一般人が発明に係るプロトタイプにアクセスすることを許可していたにもかかわらず、公用を根拠とした特許無効の請求に対抗した点で重要である。

正式な秘密保持契約をせず第三者に特許出願前のプロトタイプを提供していた場合の公用に基づく特許無効の成立性について

2005年2月11日、CAFCは、Lisle Corporation(以下、”Lisle”)の特許を侵害したとする略式判決の地方裁判所による認容を、支持した。

CAFCはさらに、公用に起因する特許無効についての、A.J. Manufacturing Company(以下、”A.J.”)による評決無視の判決(JMOL)の請求を、Lisleが実験的使用の抗弁に関する十分な証拠を示したと考えることにより下級裁判所が拒絶したことを支持した。

JMOLとは、正式事実審理中に証拠が提示された後に申し立てられる、争点を法律問題として判決を下すことを裁判所に求める請求であり、一般的には、陪審が認定を行うために必要な事実争点が存在しないことを主張するものである。

本事件は、自動車に見られるラックアンドピニオン式のステアリングコントロールシステムを提供する、内部タイロッドツールについてのLisleの特許に関するものであった。従来技術では、システムの構成要素であるタイロッドを取り外すことは困難であった。

Lisleの特許に係るツールは、多数のタイロッドツールを不要とすることにより、この工程を簡略化したものである。

Lisleのツールは、レンチディスクと中空管とにより構成される。中空管はディスクとの係合及びその解除が可能で、それにより様々なサイズのレンチディスクを使用できることとなり、この目的が達成された。

1989年、Lisleは4つの別々の自動車修理店にプロトタイプツールを引き渡した。Lisleはいかなる代金も受け取らず、いかなる修理工に対しても正式な秘密保持契約の締結を要求しなかった。1992年、最初のプロトタイプツールが配布されてから30ヶ月以上後に、Lisleは本件の係争特許に関する出願を行なったのである。

2002年、Lisleは、A.J.が類似したタイロッドツールを販売しているとして、A.J.に対する侵害訴訟を提起した。

A.J.は侵害を否定し、特許の無効を主張した。地方裁判所は、侵害の問題についてLisleに有利な略式判決を認容し、A.J.による、不明瞭及び実施不能による特許無効の略式判決の請求を退けた。

次いで、Lisleの特許が35USC §102(b)の下の公用を根拠に無効であるかどうかの争点に関する陪審審理が行なわれた。陪審は、公用を理由としては、特許は無効とはならないと認定した。下級裁判所が、Lisleの特許の無効性に基づくA.Jによる評決無視の判決(JMOL)の請求を退けた後、A.J.は控訴した。

CAFCはまず、A.J.のタイロッドツールがLisleの特許を侵害しているかどうかに関する問題に取り組んだ。控訴審で、A.J.は、下級裁判所が、請求項中の限定事項の解釈について判断を誤ったと主張した。

A.J.は地方裁判所が、「固定器具(retainer)」を、その通常の意味に従って解釈したことに異を唱え、地方裁判所は「ディスク及びそこに係合するタイロッドを回転させるために、前記タブと取り外し可能に協働する前記固定器具」という請求項における通常の意味を適用すべきであったと主張した。また、A.J.は、自身の製品はLisleの特許の構成要件の1つを満たしていないため侵害ではないと主張した。

CAFCは、軽微な修正はしたものの、下級裁判所の請求項の解釈について両方とも同意し、Lisleの特許の目的は、様々な異なるタイロッドに使用可能な一つのツールを提供することであり、特許の固定器具は、その目的の一部であると考えた。

さらに、特許自体が固定器具の構造を変更できると述べていたので、CAFCは、「固定器具」の語の狭い解釈を適用することを拒否し、第2の請求項の解釈につき、特許明細書に示される意味から外れることになるいかなる解釈も拒絶した。

A.J.の製品がLisleの特許の構成要件を満たしていると考え、それゆえ、A.J.の非侵害の主張を退けた後、CAFCは、文言侵害の略式判決を認めたことを支持した。

CAFCは次に、Lisleの特許が公用を根拠に無効であるかどうかについて検討した。A.J.の主な主張は、Lisleがプロトタイプを与えた修理工に対し正式な統制を行ったことをほとんど示していないので、Lisleは実験的な使用の抗弁をすることができないというものであった。

Lisleによる実験的な使用の抗弁が失敗すれば、プロトタイプの配布は公用の証拠に変わる点に注目して、裁判所は、実質的な証拠が陪審によるLisleに有利な結論を支持していると考えた。

CAFCは、Lisleのエンジニアによる証言を再度採り上げた。そのエンジニアは、彼と他の従業者は実験のフィードバックを受けるためにプロトタイプを有する修理工に2乃至4週おきに接触し、そのフィードバックに従って改良を行なったと述べた。

さらに、Lisleはその修理工達と重要な仕事上の関係があり、タイロッドプロジェクトの進捗に関する会議を毎週行なっていた。

CAFCはまた、Lisleはプロトタイプの使用に関して修理工に料金を請求してこなかったことに言及した。全体としての証拠を考慮して、CAFCは、公用に基づく特許無効についてのA.J.に一応有利な事件に対し、合理的な陪審であればLisleが反駁したと認定できたであろうということについてLisleに同意した。

CAFCはまた、TP Laboratories, Inc. v. Professional Positioners, Inc.事件, 724 F.2d 965, 971(Fed. Cir. 1984)に判示されるように、Lisleには実験的な使用について「説得力のある証拠」ではなく「証拠」を提示することが求められることを陪審に指示したという地方裁判所の誤りは、無害であると判断した。

CAFCは、もし特許の有効性を争う当事者が、公用に基づく一応有利な事件を提示した場合は、「特許権者はその提示に反論するために実験的な使用の『説得力のある証拠』を進んで提示しなければならない」と述べた。

しかし、裁判所は、TP Laboratories事件判決における「説得力のある証拠」の語は、特許権者が十分な反証を提示することができるという意味であり、「特許を無効にするために要求される明確で説得力のある証拠に匹敵する証拠の提示負担を課す」ものではないことを強調した。

それゆえ、CAFCは、地方裁判所がA.J.によるJMOLの請求を認めなかったことを支持し、実験的な使用の「説得力のある証拠」が提示されていたと結論付けた。

本件は、特許権者がいかなる正式の秘密保持契約も無しに、数年にわたって関係のある一般人が発明に係るプロトタイプにアクセスすることを許可していたにもかかわらず、公用を根拠とした特許無効の請求に反駁することに成功したという点で重要である。