特許明細書の内部証拠としての価値,この事件では、特許権保護の範囲を定めるのは、明細書に記載された実施例や実施形態ではなく、クレームであることを明らかにしました。また、CAFCは専門家としての証人や証言といった特許明細書外の証拠(外部証拠)は、より説得力のある明細書・クレームに記載されている証拠(内部証拠)を越えることはできず、裁判所は内部証拠と相反する外部証拠は軽視すべきであると明言しました。
侵害訴訟でのクレーム解釈における内部証拠の重要性を強調した事件
米国特許第6,505,179号(以下、179特許)及び米国特許第6,735,575号(以下、575特許)の特許権者であるカラ(Kara Technology Incorporated)は、特許権侵害と契約違反によりスタンプス(Stamps. com, Inc.)を相手取り訴訟を起こした。
カリフォルニア州中部地方裁判所は、スタンプスはカラの特許権を侵害しておらず、またカラとの間の守秘義務契約(以下、NDA)にも違反していないと判決した。カラは控訴した。
179特許及び575特許は、文書に信頼性を与えたり、それを検証したりするための装置と方法に関するものである。その技術は、顧客が事前に印刷されたラベルシートを用い、自宅で保護文書(例えば、切手や航空券)を印刷することを可能にした。
2000年に、スタンプスはカラの技術を共同で使用することをカラに持ちかけた。両当事者は、スタンプスが共同ビジネスの促進以外の目的でその技術を開示、使用しないこと、またスタンプスがその技術をコピーしないように求めるNDAに署名した。その後すぐ、スタンプスはカラに共同でのビジネスに興味がなくなったことを通知した。スタンプスは続いて、独自のPCベース郵便料金製品のベータテストの実施を公表した。
カラは、スタンプスを特許権侵害と契約違反で訴えた。スタンプスは、契約違反の主張に関して略式判決を要求した。地方裁判所は出訴期限が過ぎていたとして、この要求を認めた。
地方裁判所はマークマンヒアリングを行い、関連のある文言を解釈した。それから、特許権侵害と無効の申立及び反訴は陪審員裁判となった。陪審員は、特許権は侵害されていないとし、それゆえ無効反訴については取り扱わなかった。続いてカラはCAFCに上訴した。
CAFCは、まず三つ別々のクレームの文言に対するクレーム解釈について取りかかった。それぞれの文言で争点となっていたのは、その技術によって作られた書類上のセキュリティ印の作成と有効性を記述する文言の意味であった。
カラは、セキュリティ印は書類の有効性を確立するために用いられる特徴的なマークを包含するように解釈されるべきであると主張した。スタンプスは、その特許はデータに組み込まれた暗号化鍵だけがセキュリティ印票の作成、制御、有効化のために開示されていると反論した。
CAFCはカラの解釈に同意した。CAFCは、争点となっているクレームでは『鍵』ではなく、むしろ『印』だけを要求していると言及し、クレームの単純な文言を重要視した。
CAFCはさらに、その一方で他の係争中でないクレームは明確に『暗号化鍵』または『鍵のデータ』を必要とすると言及した。
CAFCはまた、明細書を検討し、明細書では繰り返し組み込まれた鍵について言及されているが、これらの言及は特許権のより広く明瞭なクレームを限定するには不十分であるとした。
同様に、CAFCは特許権の中の詳細な実施例だけが、事前に確立されたデータに組み込まれた鍵に関連しているという事実を却下した。CAFCは、明細書の実施例ではなくクレームが特許権保護の範囲を定めるということを重視した。
CAFCはまた、当事者が提出した専門家の意見を検討した。しかし、CAFCは専門家証言のような外部証拠は、より説得力のある内部証拠を越えることはできず、裁判所は内部証拠と相反する専門家証言は軽視すべきであると主張した。
従って、CAFCがカラの解釈を適切なものと認めたため、CAFCは地方裁判所の特許権侵害の判決を破棄し、今後の訴訟手続については差し戻しとした。
CAFCはまた、カラの契約違反に関する地方裁判所の略式判決を審理した。CAFCはまず、申立てが出訴期限法に基づく制約を受けるか否かを検討し、カラが主張した契約違反のうちのひとつは潜在的に当該制約を受けないと認定し、次にカラ自身が、契約違反に先立って機密情報を公に発表したかどうかを検討した。
CAFCは、タイミングと契約違反の存在性に本件の真正な争点があると考え、CAFCは略式判決を破棄した。
カラ事件におけるCAFCの判決は、クレーム解釈における適切なアプローチに関して教訓的である。特に、外部証拠より内部証拠に重きが置かれ、実施例や実施形態を含む明細書は文脈どおり解釈されることを注意喚起している。