CAFC判決

CAFC判決

Juno Therapeutic 対 Kite Pharma事件

CAFC No. 2020-1758,2021,8,26-Aug-21

この事件は、クレームをサポートする実施例の記載要件に関する事件である。

少ない実施例だけでは発明の範囲をすべて開示していないので明細書の記載要件不備を理由に特許が無効とされた事例

特許クレームは機能的な記載であり、多数の構成が含まれる一方で、明細書には2つの例の言及しかなく、その2つの例も名前が記載されているだけでその構造・機能等の記載はなかったところ、発明者がクレームに含まれる全ての発明を把握していたとは認められず、記載要件を満たさないと判断された。

June Therapeutic(原告)は、疾病治療に用いられる生物活性化合物の機能特性に関する特許(7,446,190)を所有する。同特許は、キメラT細胞受容体をエンコードする核酸ポリマーをクレームするもので、このT細胞受容体が特定の治療標的に結合する特性をもつ「単鎖可変領域フラグメント」(scFv)である「結合要素」を有することが特定されていたが、その構造は特定されていなかった。また、明細書にも具体的な核酸配列の記載は存在しなかった。

Kite Pharma(被告)は、がん治療用の標的scFvを含む生物活性分子を開発した。被告の開発した生物活性分子が本件特許を侵害するとして、原告はカリフォルニア州中部地区地裁に侵害訴訟を提起した。被告は、クレームされた発明の範囲が出願時にすべて明細書に記載されていないとして、特許法112条の記載要件不備を理由に特許無効の抗弁を主張した。地裁の陪審は、被告の記載要件不備の主張を退け、特許有効、故意侵害を認め、総額12億ドルの損害賠償を評決した。被告はCAFCに控訴した。

CAFCは、次のように述べて地裁判決を破棄した。明細書は、発明者が発明を所持していたことを理解できるように十分に記載されていなければならない。本件のクレームは任意の標的に結合する任意のscFvを対象としている一方で、本件明細書には、2つの標的の名前が記載されているにすぎず、その特性及び構造に関する詳細はないから、どのscFvがどの標的に結合するのかを当業者が理解することはできない。scFvが公知だったという事実だけで記載要件を充足することはない。したがって、明細書からは、発明者がクレーム発明の全体を把握していたとは認められないから、記載要件を充足しない。