この判決では、日本で言えば、査定系の審決取消訴訟ではあるが、特許のクレームの解釈におけるcomprisingとconsistingとの意味の違いを、そしてそれに起因する新規性、非自明性の問題に絡ませて解釈している。
クレームにおける”comprising”と “consisting”
2004年12月21日、CAFCは、米国特許商標庁(以下、「PTO」)の審判部が特許法第102条(b)項の自明性に基づいて特許出願の特定のクレームを拒絶した決定を支持した。
Lourie判事による判決の中でCAFCは、公知物質の特性を発見してもそれは新規性を有さないと判示した従前の判例法を展開した。CAFCは、公知技術の物質の特定と特徴づけは新規性を有さないと判示した。
クレームされた発明は、human involucrin gene (hINV)の促進作用を持つ、精製したDNA分子に関するものであった。
Involucrinとは、細胞の原形質膜を強化する死んだ細胞の中の交差結合された膜のためにケラチンと他の細胞内保護物質の間で相互作用するたんぱく質である。
Crishは特許出願し、プラスミドpSP64λ1-3 H6BからhINVのプロモータ配列を分離し、順序付けたことを開示した。Crishはその配列をSEQ ID NO:1と呼んだ。
特許の3つの独立クレームが問題となった。代表的なクレームは次のように示される。
少なくともヌクレオチド配列の一部分を含む(comprising)精製されたオリゴヌクレオチドであって、前記一部分はSEQ ID NO:1の521から2473の前記ヌクレオチド配列から成り(consist)、SEQ ID NO:1の前記ヌクレオチド配列の前記一部分はプロモータ機能を備えることを特徴とするオリゴヌクレオチド。
審査の過程で、審査官は、先のCrishによる刊行物及び先のWelterによる刊行物から自明であるとしてそれらのクレームを拒絶した。Crishの刊行物は、胚形成期にhINVを微量注入されたマウスの表現型を分析していた。
微量注入されたhINVは特許出願で言及されていた同じプラスミドpSP64λ1-3 H6Bから分離されていた。
Crishの刊行物はまた、プロモータの正確な大きさを含むhINVの完全な構造を開示しており、どのようにしてpSP64λ1-3 H6Bプラスミドを得るかを開示する先行文献に言及していた。
Welterの刊行物は、hINVの促進領域の結合部位を特定することに関係していた。CrishとWelterの刊行物はどちらも、クレームされたhINVプロモータのヌクレオチド配列を明確に開示してはいなかった。
Crishはそこで、審査官の拒絶査定を維持したPTOに対して審判請求を行い、クレームは接続語”consists”を使用しているのでSEQ ID NO:1のいくつかのヌクレオチドのみに限定されると主張した。
PTOは、接続語”comprising”は、クレームが、全てのinvolucrin geneに加えて、クレームで列挙されるSEQ ID NO:1の特定の部分に含まれる遺伝子である限り他のプラスミドの部分をカバーすると解釈されると判断した。
審判部はまた、CrishとWelterの刊行物に基づく審査官の102条(b)による拒絶を支持した。
裁判において、CAFCは最初にクレーム解釈の問題について焦点をあてた。Crishは、クレームされたオリゴヌクレオチドを全SEQ ID NO:1と対比される促進領域の特定のDNA配列に限定するために追加された、クレームの2番目の接続語である”consists”をPTOが無視したと主張した。
CAFCはPTOの解釈を支持し、そのクレームは、他の構成を包含することを許容する”comprising”を含んでいると述べた。
Genentech, Inc.対 Chiron Corp. 112 F. 3d 495, 501(Fed. Cir. 1997)を引用して、CAFCは、”comprising”という語はクレーム解釈で用いられる「法律用語」であることは確立していると述べた。
その語は、「指定された要素は不可欠だが他の要素も追加されうるものであり、クレームの範囲内で構成概念を形成する」ことを意味する。
CAFCは、”comprising”と”consists”の両方を含む請求項の合理的な解釈は、”consists”の語は「言及された部分」の言葉をそれ以降に列挙される番号の付されたヌクレオチドに限定するが、その前の”comprising”の語は請求項はその部分に加えて他のヌクレオチドを含みうることを意味すると述べた。
CAFCはそこで、審判部が確立したクレーム解釈の観点から自明性の問題に取り組んだ。CAFCは、Crishの刊行物はhINVのプロモータ領域を順序付けていないのでクレームは自明でないとするCrishの主張を拒絶したのである。
CAFCは、さらに遺伝子の性質としての遺伝子のヌクレオチド配列に関するPTOの特徴づけを拒絶し、配列は遺伝子の構造そのものであり、単なる特性の一つではないと結論付けた。
CAFCは、新しい性質や公知構造の用途の発見は新規性が無いことは確立していると述べた。ここで、hINVは新たに発見された遺伝子ではない。さらに、hINVの促進領域は公知であり、先行文献において明確に特定されている。
CAFCは、「公知物質の特性を発見してもそれは新規性を有さないように、従来技術における物質の特定と特徴づけは新規性を有さない」と述べた。
CAFCはまた、本件をGlaxo Inc. v. Novapharm Ltd., 52 F. 3d 1043(Fed. Cir. 1995)と区別するために、さらに続けた。Glaxoの件では、裁判所は、化合物を製造する従来技術の方法が、多形体に関するクレームと本質的に同一であるかという問題を扱った。
CAFCは、従来技術の方法が常に多形体をもたらすわけではないため、そのクレームは本質的に同一ではないと述べた。
このことは、従来技術の言及はhINVの促進領域の特定のDNA配列をもたらしたりもたらさなかったりする方法ではないため、係争中の本件と区別可能であった。先行技術の言及は実際に、hINVの促進領域を含む物質を開示している。
本件は、2つの点で重要である。第1に、本件は限定の無い用語と限定のある用語の両方を含むクレームが、そのクレームのどの位置付けに基づいてどのように解釈されるかを明らかにしたこと、第2に、遺伝子配列の特定は、その機能、大きさ、位置が既に公知の場合、新規性が無いということをCAFCが判示したということである。