CAFC判決

CAFC判決

Invitrogen Corp. 対 Clontech Laboratories, Inc.事件

Nos. 2004-1039, -1040,2006,4,18-Nov-05

米国特許法第102条(g)(2)は、特許を取得しようとする発明について先発明者がいる場合、例え先願であっても特許を受けられないという、先発明主義を規定しています。先発明であるか否かを判断するに際して重要な点は、先発明者がその発明をいつ着想したかということです。本件では、CAFCは、先発明者による着想が実際に着想と認められるためには、先発明者が実際に最初に発明を行い、発明の主題を含む特徴を持つ自身の創作を発明者が理解している必要があると判断しました。したがって、先発明者が発明を正しく認識していない状態で発明が偶然生まれただけでは、着想とは認められません。

発明の着想日は、偶然に発明が完成した日ではなくそれを明確に発明であると認識した日である

Invitrogenの事例において、CAFCは、米国特許法102(g)(2)の先行技術による新規性欠如に基づく特許の無効判決を破棄して下級裁判所に差し戻した。発明者らが自分達の行った発見を正しく理解できなかった場合における着想日の認定に、地方裁判所が法律を正しく適用しなかったと、CAFCは判断した。

本件特許は、遺伝子組み換えによって修正された逆転写酵素に関するものであった。自然発生し、かつ修正されていない逆転写酵素は、DNAポリメラーゼとリボヌクレアーゼH活性の両方を備えている。DNAポリメラーゼによって、酵素は、メッセンジャーRNA(mRNA)テンプレートのDNAコピー(cDNA)を合成することができる。

また、リボヌクレアーゼHによって、酵素は、cDNA合成に続いてmRNAテンプレートを分解することができる。一方、遺伝子組み換えによって修正された酵素は、リボヌクレアーゼH活性を持たない。

それゆえ、その酵素は、cDNA合成に続いてmRNAテンプレートを分解することができない。これによって、研究者は、追加的にcDNAを生成するために、mRNAテンプレートを再利用することが可能となる。

InvitrogenがリボヌクレアーゼH活性を持たない修正された逆転写酵素を1987年1月に実施に移していたという地方裁判所の考えに、いずれの当事者も異議を唱えなかった。しかし、Invitrogenがその酵素を実施に移す前に、Dr. Stephen GoffとDr. Naoko Tanese(二人ともコロンビア大学の研究者)がそのような酵素について着想していたとする下級裁判所の決定に、Invitrogenは同意しなかった。

Dr. GoffとDr. Taneseは、1984年に、修正された逆転写酵素遺伝子を持つ細菌の突然変異株の集合体を調合していた。この集合体は、2つの突然変異株であるH7とH8を含んでいた。H7とH8は、リボヌクレアーゼH活性を持たない修正された逆転写酵素を持っていることを、これらの研究者達は後に示した。しかしながら、Dr. GoffとDr. TaneseがリボヌクレアーゼH活性を評価するために使用していた検定法には限界があった。そのため、突然変異株の集合体が調合された時点で、彼らは、いずれかの突然変異株が修正された逆転写酵素を持っていることを最終的に立証できなかった。

1987年3月、Dr. GoffとDr. Taneseは、彼らが開発した新しい検定法を用いて、彼らの調合した集合体のうち2つの突然変異株が、修正された酵素を持っていることを最終的に立証した。

地方裁判所は、次のように判断した。Dr. GoffとDr. Taneseは、リボヌクレアーゼH活性を持たない、遺伝子組み換えによって修正された逆転写酵素を着想した。その着想時期は、修正された逆転写酵素を持つ突然変異株を彼らが分離した1984年12月か、これらの突然変異株の中で逆転写酵素の遺伝子を彼らが順序付けた1986年1月である。そして、集合体にある2つの突然変異株が、修正された逆転写酵素を持つということを彼らが立証した1987年3月に、彼らは実際に自分達の発明を実施に移した。

この判断について、InvitrogenはCAFCに控訴した。そして、Dr. GoffとDr. Taneseによる着想が1987年1月以前に行われたと下級裁判所が判断したことについて、CAFCは、地方裁判所が誤っていると判断した。

CAFCは次のように説明した。着想には認識されていない偶然による生成以上のものが求められ、「完成して機能している発明についての明確で恒久的なアイデアが必要とされる」。

また、CAFCは、Silvestri 対 Grant, 496 F.2d 593(CCPA 1974)を引用した。これによれば、「偶然かつ正しく認識されていない発明が重複していたと言う事実だけでは、何が発明の主題を構成するかを後に最初に明らかにした発明者の特許を無効にすることはできない」というのである。

換言すれば、着想と言うには、発明者は自分が何を発明したかを正しく認識している必要がある。

正しく認識されていない偶然の重複が発生した時点で、発明は存在したことになるものの、やはり発明は認識されてはいないのである。

特許無効の判決は、H7とH8がリボヌクレアーゼH活性を持たないがDNAポリメラーゼを持つということをGoffが正しく認識した時期に依存する。

最先性を決定するためには、次の証拠が必要である。すなわち、発明者が実際に最初に発明を行い、発明の主題を含む特徴を持つ自身の創作を発明者が理解している必要がある。

それゆえ、特定の発明が何か新しいものを含むという認識が生まれる過程で、発明者の理解が正しい認識に必要とされる水準に達したのがいつであるかを、裁判所は特定しなければならない。

Dr. GoffとDr. Taneseが1984年に修正された逆転写酵素を生成しようとしたか、あるいは、彼らの突然変異株の集合体が、修正された逆転写酵素を持つ2つの突然変異株を含むということを正しく認識したという地方裁判所の考えは、記録と矛盾するとCAFCは判断した。

むしろ、本件は「認識されていない偶然の重複という事例に完全に合致する」と、CAFCは確信した。

それゆえ、証拠によれば、地方裁判所が提示した2つの着想日は両方とも排除されると、CAFCは考えた。

しかしながら、CAFCは次のようにも考えた。突然変異株のうち2つがリボヌクレアーゼH活性を持たない修正された逆転写酵素を持つかもしれないと1986年の終わりに気付いたという、Dr. Goffによる宣誓証言書による証言によって、着想の問題についてInvitrogenに有利な略式判決を認めることを拒んだ地方裁判所の判断が誤っていたと考えることはできなくなる。

Dr. Goffの宣誓証言書と共に提示された合理的な実情調査によって、研究者達による1987年3月の試験に先立つ証拠が2つの突然変異株に関するDr. Goffの感触を裏付けるのに十分であると結論できると、CAFCは判断した。それゆえ、CAFCは、地方裁判所による無効判決を破棄し、本件をさらに審理するために差し戻した。

Invitrogen事件における決定は、特許実務家に、次のことを示唆している。すなわち、他人による先行した着想に基づいて特許を無効にするためには、先行発明がその発明者によって正しく認識されていたということを示す証拠も提示しなければならないのである。