CAFC判決

CAFC判決

Intel Corp. 対 CSIRO事件

Nos. 2005-1001, -1376,2006,12,Fed. Cir. 2006

本件は、米国の特許訴訟における外国主権国家の事物管轄権の免責の境界線を示すものです。特に本件は、外国の政府関連企業が米国においてライセンス活動もしくは特許の行使に関する訴訟を提起するときの制限を示す事件です。

外国国家機関の米国内における活動に関する米国裁判所の管轄権の取り扱いに関する事件

Intel Corp. 対 CSIRO事件においてCAFCは、豪州科学・工業研究機構(以下、CSIRO)をIntel Corp. (Intel)とMicrosoft Corp. (Microsoft)とが特許侵害で訴えた裁判におけるCSIROの棄却請求を、カリフォルニア州北部地区地方裁判所が拒絶した判決を維持した。

オーストラリアの国立科学研究機関であるCSIROは、28U.S.C. 1602-1611の外国主権免責法(Foreign Sovereign Immunities Act : FSIA)に基づく免責による事物管轄権の欠如を理由に、提訴の棄却を申し立てた。

しかしながら、CAFCはCSIROの米国におけるライセンス交渉の実施は「商業的活動」に相当するとして、28U.S.C. 1605条(a)項(2)のFSIAに基づく免責の適用を撤回すると判断した。

Intel Corp.事件とMicrosoft Corp.事件とは、CSIROを譲受人とする米国特許第5,487,069号(069特許)に関する。それぞれの事件で、CSIROは高速データ通信のための特定の仕様書を本特許がカバーする旨を主張していた。

Intel Corp.事件では、CSIROはDell Inc. (Dell)に接触してライセンス条件を提案する一方、ライセンスオファーの有効期間を限定し、その期間経過後にはCSIROは訴訟を検討する旨を伝えた。

Dellは様々なネットワーク部品を提供するIntelに、Dellを補償するか否か問い合わせたところ、Intelは補償に同意した。DellとIntelとは、ライセンスオファーの有効期間の満了後直ちに非侵害と特許無効に関する確認訴訟を提起した。

Microsoft Corp.事件では、CSIROは同じようにしてHewlett-Packard Company (HP),Netgear,Inc. (Netgear)、及び、Microsoftと2003年4月にライセンス交渉を開始していた。

CSIROはこれらの会社とも同様なライセンス交渉を展開していたが、どの会社にも断られていた。オファーの有効期間が経過した後、Microsoft、HPとNetgearは非侵害、特許の無効性、権利濫用、禁反言、及び、ラッチェスの確認判決を求めて地方裁判所に提訴した。

CSIROは結局、FSIAに基づき訴追の免責を主張し、事物管轄権の欠如を理由にこれらの訴えの棄却を求めた。

FSIAは一般的には外国主権国家は例外が適用される場合以外は、米国おける裁判管轄権から免責されると規定する。しかし、地方裁判所は、各事件においてCSIROが私的企業として商業的活動をしていたため例外が適用され、FSIAに基づく免責は適用されないと判断した。

FSIAの一般原則の「外国主権国家は、特別な例外が適用される場合を除き、米国裁判所の管轄権より免責されると推定され、連邦裁判所は、外国主権国家に対する請求についての事物管轄権を有しない」Saudi Arabia 対 Nelson事件,507 U.S. 349,355 (1993)に基づき、CSIROは控訴した。

両事件の被控訴人は、訴訟が外国主権国家が行った商業的活動に基づく場合は、外国主権国家は、連邦もしくは州の事物管轄権から免責されないとの例外が適用されると主張した。この例外適用は28U.S.C. 1605 (a)(2) に次の通り規定されている。

外国主権国家は、もし外国主権国家の行為が、米国国内における商業的活動に基づくものであった場合、または、外国主権国家が他のどこかで行った商業的活動と結びつけられる米国内での行為に基づくものであった場合、または、外国主権国家が他のどこかで行った商業的活動と結びつけられる米国の領土外における行為であって、米国に直接に影響を及ぼす行為に基づくものであった場合は、いかなる場合でも、連邦裁判所もしくは州裁判所の事物管轄権から免責されない。

本件では、CSIROのライセンスオファーや交渉がこの例外の適用に当たる商業的活動を構成していたか否かが争点となった。CSIROはこれらの交渉が仮に成功していれば、FSIAに基づく免責の適用は受けられないであろう点は認めた。

しかし、特許ライセンス交渉は締結に達しておらず、拘束力のある契約は商業的活動に見なされるべきでないと主張した。もう一方で、CSIROは、二つの確認訴訟は、問題となる商業的活動に基づくものではないと主張した。

CAFCは、CSIROの両方の主張を棄却した。第一に、CAFCはCSIROの活動は実質的に商業的活動であると認定した。この判断をするにあたり、CAFCは最高裁判所の見解を考慮した。

その見解では、主権国家が主権国家に特有の権限を行使せず、一般市民が行使可能な権限のみを行使する場合には、免責の例外としての「商業的活動」が適用される、と述べられている。Republic of Arg. 対 Weltover, Inc.,504 U.S. 607 614 (1992)事件。

更に、CAFCは、Phillips Plastics Corp.対 Hatsujou Kabushiki Kaisha事件で、別の背景において「特許権者がライセンス交渉を行おうとすることは商業的活動である。」と判断された判例を引用した。57 F.3d 1051,1054 (Fed Cir.1995)

第二に、CAFCは商業的活動とみなされるためには、必ずしも契約締結に至っていなくても良いと判断した。裁判所は、1603条(d)項は「特別な商業的取引もしくは行為」についての規定しており、この「行為」との文言により、商業的活動の定義が取引の完了のみに限定されないこととなる、との見解を示した。

最後にCAFCは、2つの訴訟がCSIROの商業的活動に「基づく」ものではないとのCSIROの主張を棄却した。

1605条(a)(2)項の内容の「基づく」との文言を解釈するのに、CAFCはSaudi Arabia 対 Nelson判決を引用した。判例では、最高裁判所は「外国主権国家による商業的活動とみなされるために、必ずしも全ての要素が必要とされる訳ではない」とした。

この基準を適用してCAFCは、CSIROの活動の全ての要素が商業活動ではなかったかもしれないが、そのライセンス活動は全体として例外適用の要件を満たすのに十分に商業的なものであったと認定した。

本判決は、米国の特許訴訟における外国主権国家の免責の境界線を示すものであり、FSIAの商業活動の免責の例外を示すものである。特に本件は外国の政府関連企業が米国においてライセンス活動もしくは特許の行使に関する訴訟を提起するときの制限を示すものである。