この判決では、先行技術を回避するための補正が均等論の適用の障害となるかどうかが争点となった。CAFCは、その補正に均等論の主張を放棄する意図があったことは推定できないと判決した。このCAFCの判決は、Festo事件における最高裁判所判決後のCAFCでの最初の判決であるので、特に重要である。
Festo II 事件の最高裁判決後における最初の均等論判断事件
2004年10月4日、CAFCは、CAT Contracting, Inc. 及びその共同被告(合わせて”CAT”)が、Insituform Technologies, Inc. 及びその共同原告(合わせて”Insituform”)に対して均等論に基づく侵害をした、という地方裁判所の判決を維持した。
本件の技術は、壊れたり漏水したりしやすい下水管のような埋設管の修理方法の改良に関するものであった。これらの破損を修理するための従来方法では、パイプを掘り起こして壊れた部分を新しいものに交換しなければならなかった。
争点の特許の発明者は、パイプが地中に埋まった状態で修理することを可能にした埋設管補修方法を発明した。特許方法は、壊れた地中パイプ内に柔軟なチューブライナーを入れて、ライナーを樹脂に含侵させて構造的に元の状態にするものであった。
争点の特許がUSPTOに出願された時点では、地中のパイプを切り込んで窓を作り、そこから吸気することで真空にする方法が記載されていた。これによると、カップの一端を窓の外側に取り付け、次にカップの他端を真空発生装置に接続することで真空状態が作られるものであった。
出願時のクレームには、真空状態を作るために使用するカップの数についての限定はなかった。審査官は、先行技術に、埋設管内を真空に保つ用途、および、埋設管の遠端に設置された真空の発生源から真空状態にすることが教示されていることを考慮し、出願時のクレームを拒絶した。
拒絶理由に対する応答時に、特許権者は、先行技術の方法は、真空の発生源を埋設管の遠端に設置しなければならず、非常に強力な真空発生装置を使用しなければならないことから、その方法には欠陥があると説明した。
特許権者は、自己の発明はカップを窓の近くに設置することから、弱い真空源の使用を可能にするものであると主張した。
こうして、特許権者は真空源が窓の近くに設置されることを要件とするように出願クレームを補正したが、その補正の過程で、単一のカップを使用するようにクレームをさらに限定した。その結果、争点の特許は、このように補正された状態で特許付与された。
訴状の中でInsituformは、4から6個のカップを、パイプの外壁に作られた対応する数の隙間に使用して真空を作り出す、地下のパイプを修理する方法を実施することにより、自己の特許を侵害しているとしてCATを訴えた。
CATは、複数のカップの使用は、明確に単一のカップの使用を要求するInsituformのクレームを文言上侵害しないと主張して、反論防御した。
CATは、また、単一のカップの使用を要求する限定を加えるクレーム補正により生じた出願経過禁反言のため、Insituformは均等論に基づく侵害の主張をすることができないと主張した。
第一審裁判所は、文言侵害に関するCATの主張に同意したが、Insituformは均等論の下での侵害を主張することを禁じられるということには同意しなかった。
地方裁判所は、複数のカップを使用するというCATの方法は、単一のカップを要求する特許方法とは実質的に異ならないと考え、Insituformに有利な判決を下した。
CATはCAFCにこの判決の再審理を求めた。CAFCは最初に、均等論の下での侵害に関する判決を支持し、他の争点に関する再度の決定を求めて地裁に差し戻した。
差し戻し審において地方裁判所が他の争点について判決した後、事件は再びCAFCに控訴された。
2度目の控訴の係属中に、CAFCによりFesto Corp. 対 Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Ltd., 234 F.3d 558(Fed. Cir. 2000)(en banc)(“Festo I”)事件の判決が下された。
この事件でCAFCは、特許性に関する実質的な理由によりなされたクレームを減縮する補正は、その補正されたクレーム限定に関する均等論に対する完全な障害(Complete bar)となると判示した。
次にCAFCは、Festo I 事件におけるCAFCの判決を考慮して最初の控訴審における判決で扱った争点を再び取り上げるという当事者の要求を受け入れた。そしてCAFCは、クレームを単一のカップに限定した補正は、特許性に関する補正であったと決定し、Insituformは複数のカップの使用を含むいかなる範囲の均等物も主張できないと結論付けた。それゆえCAFCは、地裁の判断を覆した。
翌年、最高裁判所はFesto I 事件におけるCAFCの判決を再審理し、完全な障害(Complete Bar)は裁判所が均等論を適用した特許訴訟で伝統的に採用してきた柔軟なやり方と矛盾すると結論付けた。Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 525 U.S. 722 (2002) (Festo II)。
最高裁判所は、補正時に均等物が予見不可能であるか、補正に内在する理論的根拠が均等物に対する周辺的な関係を持つに過ぎない場合は、特許権者はいわゆるFesto推定に反駁することができると考えることにより、より特別な意味合いを持った見解を採用した。
この推定によれば、特許性に関する理由によりなされた減縮補正は、最初のものと、補正されたクレーム限定との間の全領域に属すると考える。その結果、最高裁判所は、Festo I 事件におけるCAFCの判決と併せて本件の2度目の控訴審で言い渡したCATに有利な判決を覆した。また、最高裁判所は、出願経過禁反言の問題を再度審理するために両訴訟をCAFCに差し戻した。
本件控訴審の係属中に、CAFCはFesto II 事件における最高裁判所の判示を考慮に入れて自己のFesto I 事件における考えを再度審理した。Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., 344 F.3d 1359(Fed. Cir. 2003)(en banc)(“Festo III”)。
CAFCは、特許権者がFesto推定に反駁することのできた3つの方法について念入りに検討した。3つある方法の1つは、減縮補正に内在する理論的根拠が、問題となる均等物に対してわずかに触れる程度の関係以上のものを持たないことを特許権者が立証することである。
本件の最高裁からの差し戻し審で、CAFCは、Festo III 事件で明らかにしたルールを考慮に入れて、Insituformが均等侵害を立証することを禁じられる程度のものかどうかを、再度審理した。
特に重要なことは、争点クレームの減縮に関する理論的根拠が、複数のカップを用いた侵害被疑方法に対してわずかに触れる程度の関係を持つかどうかであった。
CAFCは最初に、減縮補正についてわずかに触れるに過ぎないことの理由を特許権者が立証したという認定は、主として特許出願経過においてなされた認定であるため、存在する履歴に基づいて問題を認定することは適切であったと判断した。
出願経過を再審理した後、CAFCは、減縮補正と、Insituformが侵害の主張を通して捕捉しようとする均等物である複数のカップを使用する方法との間に、いかなる関連も見つけられなかった。
代わりに裁判所は、地下のパイプの遠い端に真空源を設置することを示唆する先行技術のために必要であった強力な真空発生装置を使用しなければならないことを避けるために補正がなされたということを、出願経過は示していると結論付けた。
その結果、裁判所は、クレームされた発明を複数のカップから単一のカップへと減縮する補正は主張する均等物にほとんど障害がないということをInsituformがうまく立証したため、Insituformに有利な判決を下した。
特許性に関する理由によりクレームに対する減縮補正をした場合であっても、特許権者は均等クレームの適用範囲を放棄することを意図したという推定を覆すことができることを認めたFesto II 事件の判決を最高裁判所が下して以来最初のものであるため、本件は重要である。