ビジネス方法が特許対象として認められるための基準として、人知及び人間的思考のみが列挙されたクレームは特許の対象とはならいことが明確になった事件です。ビジネス方法に特許を取得するためには、必ず装置もしくは機械との組み合わせでなければなりません。本判決により、今後ビジネス方法特許の取得やその権利行使がより難しくなる可能性があります。
ビジネス方法が特許の対象となる主題であるための要件が争われた事件
コミスキー(Stephen W. Comiskey)事件において、CAFCは、法律関係書類を伴う強制的な仲裁方法の特許発明を無効と認定した。その理由は、人間である仲裁者による「法律論争を解決する精神過程をクレームしている」と判断したからである。
上訴人のコミスキーは、審査官が引用した先行技術に基づく米国特許法第103条の非自明性の拒絶査定を維持した特許審判抵触部(以下、審判部と称す)の拒絶審決を不服とし、CAFCに提訴した。CAFCは、クレームの多くが「101条が規定する基準を満たしていない」とし、審判部が拒絶の根拠とした自明性を論じるまでもないと結論づけた。
コミスキー出願の方法クレームは、文書及びその作成者が記入もしくは登録するステップと、仲裁文言を挿入するステップと、原告の仲裁依頼を可能にするステップと、仲裁的な解決案を導くステップと、証言や立証を提供するステップと、仲裁の裁定を決定するステップとを含んでいた。
また、クレームは「ビジネス方法特許」のカテゴリーに属するものであった。しかしながら、明細書は「ネットワークを通じたコンピュータによる強制仲裁システム」に関するものであり、方法クレームはコンピュータのような機械装置の使用を要件としていなかった。
CAFCは、米国特許法第101条に基づき事件を審理する権限があると決定した後で、ビジネス方法特許の道を開いた画期的な事件であるState Street Bank 対 Signature Financial Group, Inc., 149 F. 3d 1368 (Fed. Cir. 1998)事件を分析して説明した。
CAFCは、「たとえ、ステート・ストリート・バンク事件が一般的なビジネス方法も特許を受けうることの根拠になるとしても、ステート・ストリート・バンク事件は、ビジネス方法にも『他のプロセスもしくは方法と同様に、同一の特許性の法的要件が課される』ことを明確に判示している」と判断した。
さらに、CAFCは『101条に基づく広範囲な特許を受けることができる主題のうち、「抽象的概念」はその例外の1つである』という最高裁の見解を改めて説明した。抽象的概念が実用的な応用をクレームするものでなければ、特許を付与することはできないと述べている。
CAFCは、方法またはプロセスのクレームが101条の法律上の主題とみなされるのは以下の2つの場合だけであると述べている。
プロセスが特定の装置と連携して実行されるものである場合?プロセスが何か異なる状態や物に素材を変化させるように実行される場合
よって、人知による実際問題の解決及びそれ自体は特許の対象とならないと述べた。
アルゴリズムまたは抽象概念がクレームに記載されているときは、他の法律により規定された主題(例えば、機械、生産品もしくは組成物等)に関連してプロセスが使用され、実施され、操作され、もしくは変換される場合にだけ、特許可能な主題に該当すると述べている。したがって、精神過程もしくは人間の思考過程のみでは実際の応用が存在したとしても特許の対象とならないのである。
法律原理を考慮し、CAFCはコミスキー出願の方法クレーム1と32を審査し、コミスキーの独立クレーム1と32の中核が、「争点解決の仲裁を行う」ための精神過程にあること、さらにクレームに記載された「強制」仲裁システムを通じて「争点を裁定もしくは決定」して法律論争を解決する精神過程を利用することにあると判断した。
これらのクレームが機械を必要としないことをコミスキーが認めたため、生産方法もしくは組成物の改良プロセスを明確に記載していないことは明らかであり、CAFCは、本特許の方法クレームは人知もしくはその人自身の利用によるものと結論づけた。そのため、方法クレームは特許対象ではないと判断した。
注目すべき点は、CAFCが登録モジュール、仲裁データベース及び仲裁解決モジュールの構造的限定を列挙したシステムクレーム17を特許可能な主題であると判断したことであろう。特許不可能な精神過程であっても機械と組み合わされた場合、組み合わせにより特許可能な主題になりうるからである。
CAFCは米国特許庁にクレーム17の自明性を判断するよう審理を差し戻すとともに、「特許不可能な発明と近代電子機器とを組み合わせた発明は、典型的に、自明な発明であることの一応の心証を形成する」ことを付言した。
CAFCの判決は、いわゆるビジネス方法特許の特許侵害訴訟と戦ってきた企業にとって好ましい最新の判決となった。一方で、本判決はいわゆるビジネス方法特許の取得及び権利行使をより困難にする可能性がある。