通常、特許法285条の「例外的な場合」のハードルは高いが、この事件では、原告の侵害訴訟の提起が特許権の濫用と考えられる。この事件では、原告が同じ製品に対して、2度にわたる特許侵害侵訴訟を提起したことについて、連邦地裁は、「客観的に根拠がない」「原告の侵害理由が度々変わったこと」「クレーム解釈後に不当に訴訟を引き延ばした」「顧客への不合理な提訴」「原告の不正確な宣誓供述」という理由をあげて、「例外的な場合」に該当すると判断し、これらの項目について、CAFCは判例を根拠に詳細に検討している。
2011年にAmazonのS3製品を特許侵害で提訴し、クレーム解釈によりS3製品の非侵害が明らかになったにもかかわらず、2018年に、S3製品を使用するAmazonの顧客に対して特許侵害訴訟を提起し、さらに、クレーム解釈により非侵害が明らかになった後も訴訟を引き延ばした原告に対して弁護士費用を含む賠償金支払いが命じられた事例
PersonalWeb(原告)は、5,978,791、6,928,442、7,802,310、7,945,544、8,099,420の5件の特許(以下、True Name特許)の特許権者である。2011年にAmazonのS3技術が原告の特許を侵害するとしてAmazonをテキサス州東部地区連邦裁判所に提訴した。地裁はクレーム解釈を行い、原告の敗訴の判決を行い、請求を棄却した。
原告は2018年、AmazonのS3技術を使用する顧客85社をTrue Name特許の侵害で提訴した。Amazonは訴訟参加を行い、非侵害の確認判決を求めた。Amazonの確認訴訟と顧客に対する侵害訴訟は併合され、カリフォルニア州北部地区連邦裁判所が指定された。連邦地裁は、Twitchに対する訴訟と確認訴訟を継続し、他の侵害訴訟は停止した。原告は反訴を行い、AmazonのS3製品による侵害を申立て、後にAmazonの別の製品であるCloudFrontを侵害で追加的に訴えた。
連邦地裁は、S3製品については、特許クレームの対象外であるとして原告敗訴の略式判決を下した。同様に、CloudFront製品についても非侵害の略式判決を下し、AmazonとTwitchに有利な判決を下した。連邦地裁はさらに、勝訴当事者に弁護士費用を与えることができる「例外的な場合」(特許法285条)と認め、被告の弁護士報酬と費用を含む約540万ドルの賠償金の支払いを命じた。連邦地裁はその理由として、(1)原告の請求は、客観的に根拠が乏しく、提訴された時点では合理的ではなかったこと、(2)原告の侵害理由が度々変わったこと、(3)クレーム解釈により侵害問題に決着が着いたにも拘わらず訴訟をいたずらに引き延ばしたこと、(4)Amazonの顧客に対する侵害訴訟の提起は不合理であること、(5)正確でないことを知った上で宣言書を提出したことを挙げた。
原告は地裁の「例外的な場合」の認定に誤りがあるとして控訴したが、CAFCは連邦地裁の認定に裁量の逸脱はなく、連邦地裁における弁護士費用に関する裁量権の行使を支持した。