CAFC判決

CAFC判決

In re Mouttet 事件

No. 2011-1451,2012,10,26-Jun-12

この事件において、CAFCは米国特許審判抵触部による事実認定を支持し、クレームされた発明を自明とした審判部の判断を支持しました。ある引例が発明を阻害する示唆を有すると認定するためには、その引例には出願人がとった経路とは異なる方向に当業者を導くような記載が必要です。

モウテ事件(In re Mouttet)において、CAFCは、モウテ氏(Mouttet)のクレームされた発明は当業者にとって自明であるとした米国特許審判抵触部の判断を支持した。

モウテ氏の発明は、ワイヤのクロスバーアレイで構成されるコンピュータデバイスに関する発明である。この発明ではワイヤの交点において物質の抵抗が変化する。ワイヤの両端に電圧を印加することにより、複数の各交点は高い抵抗(導電性がない)となったり、低い抵抗(導電性がある)となったりする。

この二つの状態は「0」および「1」の2進数を表し、データを格納するために用いられる。クレームされた発明はアナログ・デジタル(A/D)変換器を含む、データを入出力するためのいくつかの構成要素を備える。

審判部は、(1)クロスバーアレイ、(2)プログラム可能な状態の交点、および(3)アナログ信号の出力をデジタル出力ビットパターンに変換する変換部を除き、フォーク(Falk)氏の先行技術文献がモウテ氏の請求項1にある構成要件を示唆すると認定した。

フォーク特許は、電子ワイヤの代わりに光パスを用いたプログラム可能なコンピュータデバイスを開示していた。審判部は、ダース(Das)氏による第2の文献がクロスバーアレイにおける電気の使用および導電性がある状態にするようにプログラム可能な交点を示唆し、さらにテレピン(Terepin)氏の第3の文献がA/D変換器の使用を開示していると認定した。

フォーク氏の光クロスバーアレイとダース氏およびテレピン氏の示唆との組み合わせに基づき、審判部はモウテ氏のクレームした発明は米国特許法第103条(a)に基づき自明であると判断した。

発明が自明か否かということは、根本的には事実認定に基づく法律問題である。CAFCは、先行技術の範囲および引例がクレームされた発明を阻害する示唆を有するかを含む事実認定は、実質的証拠により立証されていることを条件として、支持されるべきであると述べた。

控訴審において、モウテ氏は審判部の事実認定に異議を唱える以下の三つの反論を行った。

フォーク特許において電子部品を光学部品に置換することはその動作原理を損なう?構成要素を置換することはフォーク氏の物理的構造を損なう?フォーク氏はクレームされた発明を阻害する示唆をしている

モウテ氏の最初の反論に関して、CAFCは、組み合わせによって動作原理が変更されてしまうことは非自明性を示すとの意見に同意した。しかし、CAFCは、プログラム可能なクロスバーアレイの中への入力を受信する機能こそが、フォーク氏の動作原理であると認定した。したがって、CAFCは信号の種類(電気と光学)の違いはフォーク氏の動作原理を損なわないと判定した。

モウテ氏の二番目の反論に関して、CAFCは非自明性を目的とした文献の組み合わせは、「実際の、物理的な要素の置換」を必要としないと認定した。CAFCは、当業者であればダース氏の電気部品の示唆がフォーク氏の光クロスバーアレイと組み合わされうることを想定できたか否かを基準とすべきであると説明した。CAFCは、この組み合わせは当業者にとって自明であったとした審判部の判断は実質的証拠に裏付けられていると判断した。

最後に、フォーク特許がクレームされた発明を阻害する示唆をするか否かについて、モウテ氏は電子回路に対する光回路の利点を説明するフォーク特許の一節に注目した。フォーク特許は、双方のあいだには「根本的な違い」があり、それら二つの技術では光がより速いと記載していた。

審判部は、フォーク氏はただ好適な実施例を記載したに過ぎず、フォーク氏がその発明は電気部品では動作しないことを示唆するものではないと判断した。CAFCはモウテ氏によるフォーク特許の解釈は一見妥当であると認定したが、実質的証拠の基準を覆すものではないとした。したがって、CAFCは審判部の事実の判断および、発明は自明であるとの認定を支持した。

モウテ事件は、引例がクレームされた発明を阻害する示唆を有していると認定するためには、その引例がある他の技術よりも優れている点を論じているだけではおそらく十分ではない。むしろ、実質的証拠の基準を覆すために、引例が阻害要因となるためには、その引例自体が、出願人がとった経路とは異なる方向に当業者を導くようなものであることが必要となる。

Key Point?この事件において、CAFCは米国特許審判抵触部による事実認定を支持し、クレームされた発明を自明とした審判部の判断を支持した。ある引例が発明を阻害する示唆を有すると認定するためには、その引例には出願人がとった経路とは異なる方向に当業者を導くような記載がなくてはならない。