CAFC判決

CAFC判決

In re: HTC Corporation 事件

CAFC No. 18-130,2018,8,9-May-18

この判決の少し前に出たTC Heartland事件の最高裁判決は、米国企業を被告とする特許訴訟の裁判地が、被告企業の設立地、又は被告が侵害行為を行いかつ正規の確立した営業所を有する地に制限されることを判示した。一方CAFCはこの判決で、外国企業を被告とする特許訴訟では、被告が訴状の適切な送達を受けることのできる任意の米国連邦地方裁判所において提起可能であることを判示した。

TC Heartland判決(裁判地の制限)が外国企業には適用されない旨を示した判決

CAFCはこの判決(以下、「HTC事件」と呼ぶ)で、昨年のTC Heartland事件の最高裁判決(TC Heartland LLC v. Kraft Foods Grp. Brands LLC, 137 S. Ct. 1514 (2017))を踏まえて、非米国企業に対する特許侵害訴訟における適切な裁判地の問題を扱った。TC Heartland判決は、?米国企業?に対する特許侵害訴訟における適切な裁判地の問題を扱っているが、?外国企業?に対する裁判地の問題については明示的に扱ってはいなかった。

HTC事件において、3G Licensing, S.A., Orange S.A.及びKoninklijke KPN N.V. (まとめて「被控訴人」と呼ぶ)は、デラウェア地区においてHTC Corporation及びHTC America, Inc.に対して訴訟を提起し、特許侵害を主張した。HTC Corporationは、主たる営業地を台湾とする台湾企業であり、HTC America, Inc.は、HTC Corporationが所有する米国の完全子会社であって、ワシントン州において設立されそこを主たる営業地としている。

HTC Corporation及びHTC Americaは、規則12(b)(3)に基づき裁判地が不適切であることを理由に事件を却下するか、若しくは、28 U.S.C. §1404(a)又は§1406(a)に従って事件をワシントン州西部地区へ移送するように申立てを行った。2017年12月18日、地方裁判所は、HTC Americaに関しては裁判地が不適切であると判断したが、HTC Corporationに関しては裁判地が適切であると判断した。HTC Corporationに関して裁判地が適切であると判断するに際して、地方裁判所は、Brunette判決(Brunette Machine Works, Ltd. v. Kockum Industries, Inc., 406 U.S. 706 (1972))に依拠した。

地方裁判所の決定の後に、被控訴人は、HTC Americaに対する訴訟について権利放棄を伴わない自発的な取り下げを行った。続いて、HTC Corporation(「HTC」と呼ぶ)は、裁判地が不適切であることを理由に2017年12月18日の決定を破棄して訴えを棄却する職務執行令状(writ of mandamus)を発行するように、CAFCに対して申立てを行った。

CAFCはHTCの申立てを却下した。そのような申立てを判断するに際して、職務執行令状を発行するためには次の3つの条件が満たされなければならない。(1)申立人が所望の救済を得るための適切な手段を持っていないこと。(2)申立人が令状の発行に関して「明白かつ議論の余地のない」権利があることを立証すること。(3)たとえ条件1及び2が満たされたとしても、その状況下で令状を発行することが適切であると裁判所が自身の裁量において確信しなければならないこと。CAFCは、HTCが条件1及び2を満たしていないと判断し、それゆえ、職務執行令状の申立てを却下することが適切であると判断した。

HTCが所望の救済を得るための適切な手段を持っているか否かを検討する際に、CAFCは、HTCが申立ての根拠とした28 U.S.C. § 1406(a)に基づいて職務執行令状の発行の申立を認めたことが稀であると述べた。その理由は、不適切な裁判地であると主張する被告が、終局判決に対する控訴という適切な救済を利用可能であることである。CAFCは、Bankers事件の最高裁判決(Bankers Life & Cas. Co. v. Holland, 346 U.S. 379, 383 (1953))を引用して、「たとえ遅延や不必要な審理による不都合が生じる可能性があるとしても、特別令状を控訴の代替手段として用いることはできない」と述べた。控訴審ではHTCに適切な救済を与えることができないことを示すものは他に存在しなかったため、HTCは、職務執行令状を発行するのに必要な条件1を満たすことができなかった。

次にCAFCは、HTCが職務執行令状の発行に関して「明白かつ議論の余地のない」権利を有するか否かの問題に移った。HTCは、地方裁判所がBrunette判決に依拠したことに異議を唱え、(i)Brunette判決が28 U.S.C. § 1391(c)(3)のもはや存在しないバージョンに依拠していること、及び(ii)本件の裁判地について依拠すべき適切な法令は28 U.S.C. § 1400(b)であることの両方を主張した。CAFCはHTCに同意せず、「外国人に対する訴訟は、一般法であれ特別法であれ連邦の裁判地に関する法の作用の完全な範囲外にあるという、長年にわたって確立した規則」(Brunette判決, 406 U.S. at 714)を支持した。

CAFCは、外国人の被告が裁判地に関する法令により保護されるか否かに関する長い歴史を検討した。最初の検討対象は、Hohorst判決(In re Hohorst, 150 U.S. 653 (1893))である。Hohorst判決においては、当時存在していた裁判地に関する法令は1887年3月3日の裁判所法のch. 373, § 1, 24 Stat. 552であり、これは「どのような始審令状又は手続を用いたとしても、ある者(person)が居住していない地区においては、その者に対して(地方又は巡回)裁判所における民事訴訟を提起することはできない」と規定していた。最高裁判所は、この法律において使用される「person」は米国の居住者を意味し、それゆえ、米国において提訴された外国人又は外国企業には該当し得ず、このような主体に対しては、その主体に対して有効な送達を行うことができる任意の地区において提訴可能であると判断した(Hohorst判決, 150 U.S. at 662)。

次に、前述したBrunette判決において、最高裁判所は、Hohorst判決に依拠して、特許訴訟における裁判地を定めた§ 1400(b)の存在にも関わらず外国人の裁判地に関する規則は存続していると判断した。その当時、28 U.S.C. § 1391(c)(3)はまだ28 U.S.C. § 1391(d)であり、「外国人に対しては任意の管轄区域において提訴可能である」と規定されていた。最高裁判所は、外国人の被告に§ 1400(b)を適用すると「裁判地のギャップ」(連邦裁判所が裁判管轄を持つが、そのような裁判管轄を行使する適切な裁判地が存在しない状況)を生み出すことになるが、これは議会の意図したことであるはずがない、と述べた。更に、§ 1400(b)は、§ 1391(d)における広範な原則を外国人の被告に適用することに対する「シールド(盾)」として使用可能なものではないと判断された。

本事件において、HTCは、Brunette判決及び外国人の裁判地に関する規則は共に、§ 1391(c)を改正した2011年のFederal Courts Jurisdiction and Venue Clarification Act(以下、「2011年改正」と呼ぶ)によって無効化されたから、本事件の状況において§ 1400(b)を適用可能であると主張した。CAFCは、この主張を却下した。第1に、Brunette判決(これは依然として有効な判例法である)によって確立されたように、§ 1400(b)は外国人の被告に適用するためのものではない。TC Heartland事件の最高裁判決は、この結論を変更してはいない。TC Heartland判決において引用された判決は、Brunette判決においても引用されており、Brunette判決は、普通裁判籍に関する条項を特許訴訟に適用することを最高裁判所が過去に拒絶していたことを認識していたが、それでもなお外国人の裁判地に関する規則を特許訴訟に適用した。本来、§ 1400(b)は、この規定が無い場合に適用される裁判地の基準を置き換えるためにのみ使用されるものであって、外国人の裁判地に関する規則の場合のように裁判地の基準が存在しない場合における基準としての役割は持たない。

加えて、普通裁判籍に関する法令に対する2011年改正は、特許訴訟における外国人の裁判地に関する規則の適用を変更するように§ 1400(b)の意味を変更してはいない。2011年改正に付随する報告書は、裁判地に関していかなる特許訴訟にも言及していないし、特許訴訟のために外国人の裁判地に関する規則を変更しようとする議会の意図のようなものをいかなる形でも示してはいない。

最後に、CAFCは、2011年改正がBrunette判決の背景にある論理的根拠を置き換えたというHTCの主張を扱ったが、やはり、外国人の被告を裁判地に関する法令の枠内で一般的に扱おうとする議会の意図は存在しなかったと判断した。2011年改正における外国人の裁判地に関する規則に対する1つの明らかな変更は、永住資格を持つ帰化した外国人に裁判地に関する保護を与えるために自然人の定義を調整したことである。2011年改正の中には、これが外国企業やその他の帰化していない外国人にも適用可能であることを示すようなものは何もない。実際、2011年改正の§ 1393(c)(3)は、「外国企業を除外することなく、『米国内に居住していない』あらゆる『被告』に対する裁判地に関する保護を否定する広い文言を使用している」。更に、2011年改正に付随する報告書は、外国人の被告が裁判地に関する抗弁を持たないままであることを強調している。それゆえ、本事件において適切な裁判地を決定するためにBrunette判決ではなく§ 1400(b)が適用されるとするHTCの主張は、無意味である。

HTCが最後に行った1つの主張は、HTCの子会社がワシントン州に置かれた米国企業であるから、本事件においては裁判地のギャップは存在せず、親会社の裁判地は子会社にとって適切な裁判地がどこであるかに基づくことができるというものであった。CAFCは、仮にこの主張が受け入れられたとしても、外国企業については依然として裁判地のギャップが存在する場合があるであろうと述べた。HTCの主張は、抜け穴を塞ぐために更に大きな抜け穴(「§ 1400(b)に含まれる居住地を問わない条項に関しても対象外である外国人の被告に対して、特許権者が侵害の訴えを提起することが完全に不可能」になる結果をもたらすであろうもの)を作ろうとするものである。それゆえ、HTCは、令状の発行に関して「明白かつ議論の余地のない」権利があることを立証できておらず、職務執行令状を発行するための要件のうちの条件2を満たせていない。HTCは条件1及び2を満たせていないため、CAFCは、条件3に基づく裁量を行使する理由を見いだすことがなく、職務執行令状の発行の申立てを拒絶することが適切であると判断した。

HTC判決は、国内企業の特許訴訟における裁判地に関する規則を明確化した最近のTC Heartland判決を踏まえてなされたものである。しかしながら、HTC判決は、特許訴訟における国内企業のための裁判地選択と外国企業のための裁判地選択との間に明確な線引きを行い、外国人の被告が米国の法体系において普遍的に受ける特有の扱いを再度強調した。それゆえ、この判決は、非米国企業が訴状の適切な送達を受けることのできる任意の米国連邦地方裁判所において、非米国企業に対する特許侵害訴訟を提起可能であることを明らかにしたという点で、重要である。

情報元:

Michael P. Sandonato

Brian L. Klock

Venable LLP