一般に、侵害被疑者は、特許侵害を実際に通告された後は十分に配慮する義務があります。もし、これを怠ると故意侵害と判断されるおそれがあります。しかしながら、特許権者が自己の製品に特許表示しただけでは、その配慮義務が生じないことが指摘されています。この事件のポイントは、すなわち、侵害被疑者が実際に特許を認識していたことを表す証拠を提出しなければ、侵害が「故意」であったとは認められないというところにあります。
製品の特許表示は侵害被疑者に故意侵害の回避義務を生じさせるか否かの判断
2005年5月23日、CAFCは、故意侵害及び弁護士費用の賠償に関する地方裁判所の判決を全て維持した。
米国特許4,911,280(以下、208特許)は、コイン式洗濯機に使用されている、コインの直径によってコインを分類するコインセレクタに関する発明である。
280特許には、挿入されたコインが通る落下路が記載されており、その落下路には突起が並んだ面と突起の向かい側にその突起に一致する穴があり、その直径にあったコインが通過するようになっている。
被告は、侵害を申し立てられている競合製品、W2000の製造業者、及びW2000を組み込んだ洗濯機の製造業者であった。原告は故意侵害を主張したものの、被告側はそれを否認した。
クレーム解釈において地方裁判所は、突起が「それぞれのコインに接触する」外面表面であることに注目した。原告側の専門家がW2000では全てのコインが突起と接触するかどうか確実ではないことを認めた。被告らは突起がそれぞれの(全ての)コインに接触しないため、侵害ではないと主張した。
しかしながら陪審は侵害と認定したため、被告は侵害を認定するには証拠が不十分であるという法律問題の判決を求めたが、地方裁判所はこれを棄却した。
故意侵害の認定には、特許の存在を知りながら、侵害ではないという確信もなく侵害しているというような、目に余る侵害者側の行為を示すことが必要とされる。
裁判において、原告は、被告が展示会における様々な展示や特許製品であることを適正に表示した製品、また原告と被告の数社との間で交わされた特許技術の使用に関する文書などから、280特許の存在を通知されていたと主張した。
これに対し被告は、決定権を有する職務権限者に対して通知がなされていなかったため、これらの通知は不十分であると主張した。
また、この提訴によって適切な通知がなされた後で、弁護士から、非侵害であり、故意侵害ではないという意見を得ていたと被告は主張したが、陪審は故意侵害と認定した。
被告は再度、故意侵害と判断するには証拠が不十分であるという法律問題としての判決を求めたが、地方裁判所により再度棄却された。
最終的に地方裁判所は、本件が例外的事件であり、従って被告は原告の弁護士費用を負担しなければならないという判決を下した。
裁判所は、事件が例外的であるという認定において、故意侵害、悪意、訴訟における不公正行為、及び反職業的行為を含む多くの要素について審理した。
事実審裁判所は、その例外的事件の判断において、第一審の陪審評決において原告に有利な判決が下され、被告に対しその判決以降の原告の弁護士費用を負担する義務を課された後も、被告が侵害品の販売を続けていたことを指摘した。
CAFCは、陪審員が侵害を認定するのに十分な法律的根拠があったと判断して、侵害認定を支持し、法律問題としての判決の申立てを棄却した。
故意侵害の問題に関して、CAFCは、特許侵害者には、特許侵害を実際に通告された後は十分な配慮をする義務があると述べている。
例えば、特許の表示を付しただけといった、推定告知では、配慮の義務は生じない。展示会における原告と被告側の社員との間のやり取りを含む、当事者間の様々なやり取り、および、それらの展示会において展示されていた製品に適切に特許表示が付されていたことに基づき、CAFCは、陪審員には実際の侵害の通告があり、したがって故意侵害であると認定する十分な証拠となる根拠があったと判断した。
しかしながら、CAFCは、被告が弁護士の助言を後から請求したことについて、原告が、最近の判例、Knorr-Bremse Systeme Fuer Nutzfahrzeuge GmbH 対 Dana Corp. 383 F.3d 1337 (Fed.Cir. 2004)(全員判決)に照らして、故意侵害を立証するものであると主張していたが、それ以前に弁護士の助言を受けていなかったことによる悪影響は生じていなかったと判断した。
地方裁判所の段階で、原告はまず、侵害品である部品を使用した洗濯機の製造業者からの特許権使用料と同様に、侵害品の製造業者からの逸失利益による損害の賠償を要求した。
しかしながら、裁判の前に原告は洗濯機の製造業者に対する損害の賠償以外の主張を取り下げていた。
原告の主張は、「全市場価格原則」に基づいており、これは、特許付与された部分が製品全体として顧客の需要を生む場合に、組み立て品の特許・非特許部分の両方の利益を回復することを特許権者に認める法理である。
原告は、コインランドリーの顧客がコインセレクターに基づいて洗濯機を区別することから、特許のセレクターは顧客の需要に基づくものであると主張した。
原告は後に、侵害品に帰因する販売の割合のような、損害額の査定に用いられる様々な伝統的要因により、適切に損害を回復することは、特許部品の価値よりも大きいと主張した。
最後に原告は、被告が侵害品のコインセレクターによる収入の割合を算出することは不可能であると主張したため、唯一の公平な解決は洗濯機全体としての価値に基づく損害の回復であると主張した。
事実審裁判所はこれらの理由には説得力がないと判断し、原告の損害額の理論を採用しなかった。その代わりに裁判所は原告に対し、現存する洗濯機へ搭載するための補修部品市場の道具一式として販売された、W2000の装置だけの損害額の主張を採用した。
これを根拠として裁判所は、工場において洗濯機に搭載されたW2000に関する原告側の専門家証言のいくつかを採用しなかった。
陪審員が1030万ドルの裁定をした後で、被告は、原告が工場で洗濯機に搭載されたW2000に基づく意見書の最後に不適切な証拠書類を添付していることを指摘し、裁定額が不当に大きくなってしまったのは、陪審員がこれらの証拠書類に基づいて判断したからであると主張した。
地方裁判所は、裁定額には十分な根拠がないと認定し、被告の主張を認め、損害額の裁定を破棄し、さらに、修理部品として販売されたW2000の需要に基づく、著しく減額された裁定額を認めるか、あるいは損害額の裁定のために新たな裁判を提起するかを原告に選ばせた。
2回目の損害額の審理において、裁判所は、被告が以前にこの数字を正確に出すのは不可能であると主張していたと、原告が異議を唱えていたにもかかわらず、コインセレクターに帰因する収益の割合に関する専門家証言による抗弁を認めた。
CAFCは、原告は特許製品の特性が顧客需要の根拠を形成していることを示す証拠を示していないと認定し、「全市場価格」の理論を排除した地方裁判所の判決を支持した。
CAFCは、裁判記録が、高額な裁定額の評決に導くような採用が許される証拠を何も示していないことから、地方裁判所が陪審の損害額の裁定を棄却し、2回目の裁判を開始したことは裁量権の乱用ではない、と認定した。
この事件は、特許製品であることを表示しただけでは、故意侵害の回避を義務づけるには不十分であり、特許発明が侵害者によって実際に認識されていた証拠が必要であることを明確にした点で興味深い。