特許出願の優先日と電子メールによるオン・セール・バーの関係を論じた判決,この事件においてCAFCは、特許権者の製品の仕入先が特許発明の優先日の1年以上前に特許の商業的実施となる製造の受注をしていることを理由に、地方裁判所のオン・セール・バーに基づく特許無効の略式判決を支持した。この判決により、商業的販売申出は、契約に至る前段階の電子メール等のコミュニケーションによっても成立することが明らかなった。
特許出願の優先日と電子メールによるオン・セール・バーの関係を論じた判決
ハミルトンビーチ(Hamilton Beach Brands, Inc.)は、サンビーム(Sunbeam Products, Inc.)のクック&キャリー・スロークッカーが米国特許第7,947,928号(928特許)の特許権を侵害していると主張し、2011年5月24日、サンビームに対してバージニア州西地区地方裁判所へ提訴した。
ハミルトンビーチとサンビーム両社は、スロークッカーを販売する小型調理家電業界における競合会社である。ハミルトンビーチのポータブル・スロークッカーが商業的成功を収めた後、サンビームは、スロークッカーの本体ではなく蓋に密閉クリップを装着したポータブル・スロークッカーを発表することで、ハミルトンビーチの有効な特許発明に類似したスロークッカーの設計を試みた。
サンビームは、ハミルトンビーチが928特許の優先日の1年以上前にスロークッカーの販売申出をし、公にそのスロークッカーを使用したと主張して、地方裁判所へ特許無効の略式判決を申し立てた。
地方裁判所は、ハミルトンビーチの仕入先に対する注文書は、オン・セール・バーに基づき928特許のクレームを無効とするに十分な商業的販売申出であったと認定し、サンビームの申立てを認める特許無効の略式判決を下した。
控訴審においてCAFCは、928特許のクレームはオン・セール・バーに基づき無効であるとした地裁判決を支持した。CAFCはまず、基準日以前に(1)クレームされた発明が商業的販売申出の対象であった場合、および(2)発明が特許を受けられる状態にあった場合にオン・セール・バーが適用されると説明した。
第一の要件の審理においてCAFCは、商業的販売申出とは、申出を受けることにより契約を結ぶことを可能とするコミュニケーションであると述べた。ハミルトンビーチは2005年2月8日付で、約2000個のスロークッカーの製造を依頼する注文書を仕入先に対して発行した。注文書には単価、納品日、納品場所、および品番が明記されていた。2005年2月25日、仕入先は電子メールにて、注文書を受領したこと、およびハミルトンビーチの製品発表後に製造を開始する旨を回答した。
これらの事実に基づき、CAFCは、仕入先の電子メールはオン・セール・バーに基づくハミルトンビーチに対するスロークッカーの商業的販売申出であると認定した。
CAFCは、仕入先の電子メールは、ハミルトンビーチの製品発表を条件にしていたことから、製品は基準日後まで提供されなかったというハミルトンビーチの主張を退け、製品発表のタイミングと当事者が契約を結んだ日付は無関係であると判断した。
CAFCによると、ハミルトンビーチは契約を結ぶためにいつでも仕入先の申出を受けることができたはずであるから、ハミルトンが回答した電子メールは商業的販売申出を十分構成するものである。
ハミルトンビーチはさらに、地方裁判所が製品を928特許のクレーム要素毎に比較分析しなかったことから、注文書に書かれた製品は特許を受けられる状態にあったと地方裁判所が結論付けたのは誤りだと主張した。
CAFCは、ハミルトンビーチの主張を複数の理由から拒絶した。第一の理由としてCAFCは、ハミルトンビーチのスロークッカーが928特許の商業的実施形態であることは争点ではなかったと認定した。第二の理由としてCAFCは、ハミルトンビーチが、当業者による発明の実施を可能にするスロークッカーを描いた詳細なCAD図面を配布していたと説明した。第三の理由としてCAFCは、ハミルトンビーチは少なくともいくつかの試作品を所有しており、その所有した日が基準日になると判断した。
CAFCは、この証拠は特許を受けられる状態にあるという要件を満たしていると結論付けたのである。
レイナ判事は合議体の多数判決に対し反対意見を述べた。レイナ判事は、ハミルトンビーチの仕入先からのスロークッカー購入は本質的に商業的なものではなく、オン・セール・バーの規定における試験的使用による例外によって保護されるべきであったとの見解を述べた。
ハミルトンビーチ判決では、オン・セール・バーは仕入先も例外ではないことを確認した。この判決は、オン・セール・バーの分析において重要なことは、商業的販売申出を構成する出来事が基準日以前か否かであることを注意喚起している。
商業的販売申出は、契約成立の有無または契約成立時期には関係なく、申し出を受けることによって契約締結を可能にする電子メール等のコミュニケーションによって成立することを明らかにした。
Key Point?この事件においてCAFCは、特許権者の製品の仕入先が特許発明の優先日の1年以上前に特許の商業的実施となる製造の受注をしていることを理由に、地方裁判所のオン・セール・バーに基づく特許無効の略式判決を支持した。この判決により、商業的販売申出は、契約に至る前段階の電子メール等のコミュニケーションによっても成立することが明らかなった。