この事件において、CAFCは米国特許法第291条に基づく事実上の抵触が存在しないことを理由にジェネティクスの訴訟を棄却した地方裁判所の判決を支持しました。CAFCはまた、より大きなタンパク質を作る動機づけが先行技術の中には存在しないとして、ジェネティクスの特許権はノヴァルティスの特許権に対して自明でないと判断しました。
事実上の抵触が存在しないことを理由に、訴えを棄却した地方裁判所の判決を支持
ジェネティクス(Genetics Institute, LLC)対ノヴァルティス(Novartis Vaccines and Diagnostics, Inc.)事件において、CAFCはジェネティクスに譲渡された米国特許第4,868,112号(以下、112特許もしくはジェネティクス特許)の特定のクレームと、米国特許第6,228,620号及び第6,060,447号(以下、620特許及び447特許、まとめてノヴァルティス特許)の特定のクレームとのあいだに事実上の抵触が存在しないことを理由に訴訟を棄却したデラウェア州地方裁判所の判断を支持した。
2008年に、ジェネティクスは米国特許法第291条に基づく発明の優先権の認定のためにこの訴訟を提起した。米国特許法第291条に基づく「抵触特許」訴訟は、「抵触特許の所有者は、抵触する相手の特許権者に対して民事訴訟により救済を求める」ことを認めている(注)。
この事件は、血液凝固必須タンパク質である第Ⅲ因子と呼ばれるタンパク質の欠失型に関する特許権に関係する。ジェネティクス特許は1985年の優先日を有し、アミノ酸740と1690の範囲で581から949アミノ酸が欠乏しているタンパク質の型に関するクレームを包含する。
ノヴァルティス特許は1986年の優先日を有し、アミノ酸1から740と1649から2332を保持するタンパク質の型に関する。
CAFCはまず、自身がジェネティクスの上訴を審理する裁判権を有していると判断した。ノヴァルティスは、112特許は地方裁判所が最終的な判断に入った三日後に失効したことを理由に、事物裁判権が欠如しているとしてジェネティクスの上訴を却下するよう申し立てた。
ノヴァルティスは、CAFCが特定のクレームの放棄は抵触訴訟の争訟性を喪失させると認定したAlbert 対 Kevex Corp.事件729 F.2d 757 (Fed. Cir. 1984)を基に、特許権の失効は抵触訴訟の争訟要件を喪失させると主張した。
CAFCは、特許権の失効はその特許が全く存在しなかった法的な効果を持たらすことはないので、Albert事件の適用を否定した。一方、特定のクレームの放棄は事実上それらのクレームを本来の特許権から除外するので、特許権はあたかもそのクレームが全く存在しなかったかのように取り扱われる。
次にCAFCは、地方裁判所が112特許の特定のクレームとノヴァルティス特許が抵触するかどうか判断する裁判権を有すると判決した。ノヴァルティスは、特許の存続期間の延長は争点となっている特定のクレームには適用されないことを理由に、地方裁判所には裁判権がないと主張した。
CAFCは、第156条に基づく特許の存続期間の延長は請求項ごとを基準に適用されるとしたノヴァルティスの主張を却下した。CAFCはまた、第156条に基づき延長された特許権は、第291条の抵触特許訴訟の根拠を形成することができないとしたノヴァルティスの主張も却下した。
CAFCは次に、抵触特許訴訟を却下した地方裁判所の判決に対するジェネティクスの上訴のメリットについて検討した。米国特許法第291条に基づく抵触特許訴訟は、「抵触特許の所有者は、抵触する相手の特許権者に対して民事訴訟による救済を求める」ことを認めている。
第291条の抵触特許訴訟の最初の段階は、二つの特許権のクレームのあいだに事実上の抵触が存在するか否かの判断となる。第291条に基づく事実上の抵触には、二つの特許権が同一もしくは、実質的に同一である主題をクレームすることが必要とされる。二つのクレームが抵触するためには、それぞれのクレームはもう一方に対して同一か、もしくは自明でなければならない。
そこでCAFCはジェネティクス特許のクレームが、ノヴァルティス特許のクレームに対して自明であるか否かに焦点をあてた。CAFCはジェネティクス特許とノヴァルティス特許においてクレームされているタンパク質のあいだには顕著な構造上の差異があるので明白な自明性の審理の一部として、地方裁判所が、研究者らがクレームされた化合物に想到するために特定の方法で先行技術の化合物を変更するような何らかの理由を求めていたことに注目したのである。
CAFCはジェネティクスがそのような理由の立証を怠ったと認定し、更に、当時のあらゆるモチベーションはより大きなタンパク質よりむしろより小さなタンパク質を作ることにあり、ノヴァルティス特許はジェネティクスによってクレームされたものより大きいタンパク質をクレームしていたので、ノヴァルティスの発明は自明でないと判断した。
CAFCはさらに、特許出願の後まで効果が明らかではなかったにもかかわらず、ノヴァルティスの発明の予期されない有用な効果を引用して判決の裏付けとした。
ダイク判事は異議を唱え、予期されない特性は明細書において説明されているか、もしくは発明者が出願時に知っていなければならないと述べた。彼は、もし特許権者が後に発見された特性について独占権を持つことが認められたら、他人の将来の研究への障害となる問題点を提起した。
ジェネティクスインスティテュート事件において、多数派は後に発見された特性は自明性の分析と関連があると判断した。判決において、多数派は、非自明性の二次的考慮事項に関するテストと非常に類似すると思われる「予期されない効果」の自明性の分析を行った。そのような「予期されない効果」が商業的成功をもたらす場合、これらの効果は自明性の問題と関連があるが、そのような特性が、もし当時既知であったら、出願時の特許明細書に含まれるべきであったのである。
Key Point?この事件において、CAFCは米国特許法第291条に基づく事実上の抵触が存在しないことを理由にジェネティクスの訴訟を棄却した地方裁判所の判決を支持した。CAFCはまた、より大きなタンパク質を作る動機づけが先行技術の中には存在しないとして、ジェネティクスの特許権はノヴァルティスの特許権に対して自明でないと判断した。