この事件でCAFCは、テキサス州東地区地方裁判所は裁量権を乱用し、カリフォルニア州在住の被告らに対し事件をカリフォルニア州北地区に移転することを認めなかったことは誤りであると判示しました。この事件は、CAFCが、裁判移管の条件の1つである「裁判の過密」は、他の条件を超越するような最重要の条件ではないことを示しました。
裁判所間での事件の移管を認めるための条件について
カリフォルニア州サンフランシスコに本社を持つジェネンテック(Genentech, Inc.)とサンディエゴに本社を持つバイオジェン(Biogen Idec Inc.)は、CAFCに対し、被告の裁判移管の申し立てを却下したテキサス州東部地区地方裁判所による2009年3月19日付の判決を破棄し、テキサス州裁判所からカリフォルニア州北部地区に事件を移管する職務執行令状の発付を求める請願書を提出した。
サノフィ(Sanofi-Aventis Deutschland GmbH)はドイツの企業で、2つの特許権の侵害を主張して、被告らを2008年10月27日、テキサス州裁判所に提訴した。
同日、被告らはサノフィに対し、同特許を無効とする確認判決を求めてカリフォルニア州北部地区地方裁判所に提訴した。裁判の移送は米国民事訴訟法第1404条(a)によって定められており、裁判当事者の利便性のために民事訴訟を他の裁判所に移送することを認めている。
テキサス州裁判所は、以下の点を挙げて、裁判の移送は裁判当事者の利便性に反していると認定し、被告らの移送の申し立てを拒絶した。
カリフォルニア州在住の証人を被告は「重要証人」として位置づけていない。?テキサス州は海外及び米国内の証人および裁判当事者にとって物理的に中央に位置する。?確認判決においてカリフォルニア州北部地区地方裁判所がサノフィに対し人的管轄権が無い可能性がある。?ジェネンテックは、テキサス州東地区地方裁判所の別の関連しない事件において、原告として過去に出廷している。?証人の過半数が居住していることが、裁判移送を容認する唯一の理由である場合に、カリフォルニア州北部地区への移送を強制執行することが可能であるか??特許の手続書類を含む他の書類が、裁判地外にあり、簡単にテキサスに移送可能であるならば、カリフォルニア州北部地区にいくつかの書類が物理的に存在していることが、唯一の中立的要因である。?テキサス州東部地区のほうが事件は早く解決に至ると思われる。
CAFCは職務執行令状を発付する際に、テキサス州の裁判所による要因の評価を否定した。証人の利便性について、CAFCは、テキサス州の裁判所が、被告が裁判地の移送を提案する上で、関連情報の証人を単純に示すのではなく、「重要証人」を示すことを明確に被告に対し要求したことを、否定した。
CAFCは、このような要求は被告に対し法律が要求するよりも高い基準を要求するものであり、証人の重要性を早い段階で裁判所が評価することを容認するものであると説明した。
CAFCはさらに、かなりの数の証人が裁判移送先に居住し、関連書類も物理的に裁判の移送先に存在するならば、テキサス州東部地区は中央の位置ではない、と判示した。さらに、CAFCは、移送が「全ての」証人にとって便利である場合のみ、利便性が認められるとした地方裁判所の判断を否定した。
CAFCは、ジェネンテックが、テキサス州東部地区における過去の裁判で原告として訴訟提起していることは、裁判移送の分析における一要因である、というサノフィの主張は不適切であると認定した。
裁判移送の申し立てはケースバイケースの分析が必要であると説明した。同様に、カリフォルニア州北部地区地方裁判所に、サノフィに対する人的管轄権があるかどうかを移送の分析要因とすることは、不適切であると判示した。裁判移送の判断に関係するのは原告ではなく、被告の管轄権だからである。
特に、地方裁判所は裁判移送に反対する重要な要因として「裁判の過密」を考えていた。裁判所は、テキサス州東部地区の9.7カ月よりも、カリフォルニア州北部地区の7.4ヵ月の方がより早く事件が解決に至っているけれども、裁判に進展した事件の解決までの時間は、テキサス州東部地区の18.4ヵ月の方が、カリフォルニア州北部地区の25.5か月よりも短く、テキサス州東部地区は、カリフォルニア州北部地区よりも、平均裁判期間は遥かに短いことを示す統計を引用した。
被告は、「裁判の過密」要因は不適切であると主張した。仮に過密が事実であったとしても、「解決よりも公判を過度に強調することは不適切である」と主張した。さらに、その分析が認められたとしても、『裁判が過密であったとしても、裁判移送は最新の「ロケット・ドケット(迅速な裁判手続を行う)地区」に対してのみ認められるべきである』と述べて、「裁判の過密」に基づく要因は裁判移送を望む他の要因の全てに勝るものではない、と主張した。
しかしCAFCは、「裁判の過密」に基づく要因は関連性があり、裁判移送申し立ての要因となり得るとして、地方裁判所に同意した。しかしCAFCは、他の裁判所では、裁判所の取扱件数の考慮をせずに、より少ない事件数で、どれだけ迅速に裁判が行われるかを重視した。
この事件は、CAFCが、裁判移送の要因としての「裁判の過密」の重要性を明らかにした点で興味深い。CAFCは、過密要因は、裁判移送に有利な当事者の利便性に関連する他の要因よりも重要とはならないことを明らかにした。