IPRで特許権者のクレームの限定解釈が否定されていることを理由に、その後の裁判で特許権者の限定解釈を採用せず、通常の基準でのクレーム解釈を行った判決。CAFCは、特許権者のPTABでの陳述は権利放棄(disclaimer)を構成しうるものであるが、その陳述はPTABで明確に否定され、陳述が否定されたことが記録により当業者に明らかとなっているので、本件で特許権者の陳述がクレーム範囲に影響を与えることはないとした。
IPRで特許権者のクレームの限定解釈が否定されていることを理由に、その後の裁判で特許権者の限定解釈を採用せず、通常の基準でのクレーム解釈を行った判決
Galderma Laboratories他は、ニキビなどの顔面皮膚炎の治療薬に用いられる低用量ドキシサイクリン製剤に関する5件の特許(8,206,740; 8,394,405 & 8,470,364(=Chang特許)、及び8,603,506 & 9,241,946(=Ashley特許))の特許権者である。Chang特許の代表的な物質クレームは、30mgの速放性ドキシサイクリンと10mgの徐放性ドキシサイクリンから構成され、速放性を「投与後直ぐに実質的にすべての薬効成分がリリースされる」と定義し、徐放性については特に定義していない。Ashley特許の代表的な方法クレームは、40mgのドキシサイクリンを一日一回服用するというものであった。
Amnealは、Chang特許とAshley特許のIPRを申請した。Chang特許のIPRで、Galdermaは、実施例を根拠に徐放性部分はph4.5以下の酸性環境では放散しないので胃では放散しないので「徐放性部分の実質的な放散はない」(no substantial release)と証言して、Chang特許のクレームを限定解釈し、引例(=薬剤が胃で放散されることが開示されている)との差別化を計った。PTABは、Chang特許について「徐放性とは、経口投与後に直ぐ放散される医薬品を除く全てのもの」と広く解釈し、そのような開示は引例にはないと決定した。
Galderma Lab.は2016年3月、Amneal Pharmaceuticalsを特許侵害で提訴した。地裁は、PTAB同様、「徐放性」を広く解釈し、被告の薬剤には10mgの徐放性ドキシサイクリン配合薬と均等の薬剤が含有されているとして、均等論での侵害を認定した。この判決を不服としてAmnealはCAFCに控訴した。CAFCはChang特許に基づく均等論による侵害判決を支持した。その理由をCAFCは次のように説明した。
特許権者によるChang特許の限定解釈はPTABによって退けられている。特許権者のPTABでの陳述は権利放棄(disclaimer)を構成しうるものであるが、その陳述はPTABで明確に否定され、陳述が否定されたことが記録により当業者に明らかとなっているので、本件で特許権者の陳述がクレーム範囲に影響を与えることはない。Galderma自身の陳述により均等論の主張が妨げられないとした地裁の判断に誤りはないとし、均等論による侵害の認定についても支持した。なお、Ashley特許については、特許権者からの証拠が不十分であるとして地裁の均等論による侵害認定を破棄した。