侵害事件において、原告の関連特許出願の審査過程において、応答期限内に応答しなかったことがUSPTOに対する意図的な遅延でないと説明したことが不実行為にあたるか否かが争点となった事例である。被告は、出願人(原告)がUSPTOを欺く特定の意図を持って重要な情報を虚偽記載または省略したことを証明しなければならないが、地裁は、被告が出願人の意図的な放棄を明確かつ説得力のある証拠を提出していないと判断し、CAFCも地裁の判断を支持した。
被告が特許侵害訴訟で係争特許の審査過程において欺く不実行為があったとして、特許の「権利行使不能」を主張したが、十分な証拠がないとして抗弁理由が退けられた事例
Freshub, LtdとUS子会社のFreshub,Inc(以下、まとめて「Freshub」)(原告)は音声処理技術に関する複数特許(例, 9,908,153)を保有し、Amazon.comとその複数の子会社(以下、まとめて「Amazon」)(被告)を特許侵害でテキサス州西部地区地裁に提訴した。被告は、特許非侵害(non-infringement)と、原告の親会社(Ikan Holdings LLC)(以下「Ikan」)に特許審査の過程で不実行為(inequitable conduct)があったとして権利行使不能(unenforceability)を主張した。具体的には、Ikanが、USPTOにおいて、特に、Freshubが主張するすべての特許の由来となっている、以前に放棄された⽶国特許出願第11/301,291号(以下「291出願」)を復活させるための請願を成功させたというものである。USPTOは、291出願の申請を棄却する最終オフィスアクションをIkanに送り、Ikanが期限内に応答しなかったため、申請の放棄通知を送った。これに対し、Ikanは、申請の放棄または応答の遅延は意図的でなかったと説明した。Amazonはこの請願について、Ikanが、USPTOに対して、291出願が意図せずに放棄されたと虚偽の説明をしたと主張した。地裁は、非侵害の抗弁を認めたものの、不実行為による権利行使不能については、十分な証拠の裏付けがないとしてそれを退けた。原告・被告共に判決を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは地裁の判決を支持し、その理由を次のように述べた。地裁陪審は、事実問題である特許侵害について、Amazonの非侵害は実質的な証拠により裏付けられていると認定し、特許非侵害を評決したが、これは支持できる判断である。地裁は、トライアルでの証言に予断が含まれていたという根拠で新たなトライアルの再開を求める原告のモーションを退けたが、それは地裁の裁量であり、その裁量の行使に何ら問題はない。また、係争特許の審査時に、親会社Ikanの特許代理人がUSPTOに誤った供述を行い、USPTOを意図的に欺いたことを抗弁理由(不実行為)にしているが、被告がその理由を明快かつ説得力のある証拠(clear and convincing evidence)で立証できなかったとの地裁の判断に誤りはない。