本件では、クレームの記載が不明瞭であったとしても、それが“重大な”欠陥でない限り、特許無効にはならないことが示されました。
クレームの不明瞭記載の程度と特許の有効性
本件においてCAFCは、クレーム内に「重大な」欠陥がない限り、記載不明瞭による無効性を判断できないことを明らかにした。判例はないものの、本件ではCAFCが特許には有効であることの推定が働くことを考慮し、たとえ特許明細書が「理想的ではなく」ても、その技術的な解釈に関して特許権者に有利に解釈する傾向が反映された判決となった。
Fisher-Priceは、折りたたみ式幼児用ブランコに関する米国特許第6,520,862号(以下862特許)を所有していたが、その862特許のクレーム6及び7を侵害しているとしてGraco及びその親会社を訴えた。地方裁判所はマークマンヒアリングを行い、続いてそれらクレームの下記の限定事項が不明瞭であると判示した。
前記スイングアームに連結され、かつ、上部シート面を有するシート?前記スイングアームと前記フレーム支持柱とは、これらの間に形成される再構成可能なスイング領域を確定すること?前記シートから情報に延び、前記採光性可能なスイング領域と前記シート領域との間に配設され、前記シートに連結されたシールドによって、地方裁判所は訴訟を却下したが、Fisher-Priceは控訴した。
1)に関してFisher-Priceは、地方裁判所が「上部シート面」は「漠然としていて解釈できない」と判示したことは誤りであると主張した。Gracoは、明細書中に「シート面」及び「上部シート面」といった記載はなく、「上部」や「下部」といった区別のため、その限定事項は漠然としていて解釈できないと主張した。
CAFCはFisher-Priceの主張を認め、「当該特許は複雑ではない:当業者であろうとなかろうと、理解可能である。〈中略〉限定事項に使用されている文言はシンプルであり、通常の意味で用いられている。〈中略〉例えGracoが主張するように、それらが明細書に記載されていないとしても、その解釈は容易である」と判示した。
2)に関して地方裁判所は、図面とクレーム内で説明されている部分に不一致があったために不明瞭であると判示している。Gracoは図面における誤りは重大な過失であり、当業者でさえ図面のどの箇所が定義されているか判断できないと主張した。Fisher Priceは図面に誤りがあったことを認めた上で、誤りがあってもクレーム解釈は可能であり、クレームが不明瞭であるという判示の根拠にはならないと主張した。CAFCはFisher-Priceの主張を認め、クレームの文言自体があいまいでないため、図面における誤りは致命的ミスではないと結論付けた。
最後に、3)について地方裁判所は、「shield」が「seat」のどの部分に取り付けられるかについて、クレーム及び明細書どちらにも記載されていないため不明瞭であると判断した。Fisher-Priceは、構成部分の正確な位置を記述することは法で定められていないと主張した。CAFCはFisher-Priceの主張を認め、「クレームの文言が明瞭であれば、合理的なクレーム解釈は無駄ではない」と判示した。
また、3)について地方裁判所は、「前記シート領域」という文言は先行詞がなく不明瞭であると判示した。Fisher-Priceは、「上部シート面」は、「前記シート領域」の先行詞であると主張した。これに対し、Gracoは「上部シート面」を基本的に同等の文言と見なす先行詞として認めることは許されない、と反論した。 CAFCはGracoの主張の法的根拠を拒絶はしなかったものの、Fisher-Priceの主張を認め、「先行詞が含蓄的にでも存在している」のであれば、記載不明瞭によりクレームが無効になることはないと判示した。
よって、CAFCは地方裁判所の判決を破棄し、クレーム解釈及び侵害の審理を指示とともに本件を地方裁判所に差し戻した。
本件では、クレームに「重大な」欠陥がない限り記載不明瞭には至らないことが明らかにされた。記載不明瞭による特許権無効を避けるためクレームが簡潔でなくとも、クレームは解釈されうる。