特許紛争の当事者は、不正な行為(inequitable conduct)を申し立てる場合、Rule 9(b)によって要求される特殊性(particularity)を伴って申し立てを行う必要があります。具体的には、そのような申し立ては、PTOにおいて行われた重要事項の不実告知又は省略について具体的に誰が、何を、いつ、どこで、どのようにということを特定することを必要とします。
不公正行為の申立てが認められるための要件
エクサージェン(Exergen Corp.)は、ヒトの体温を測定する赤外線放射温度計に関するいくつかの特許を所有している。体温計は、人体から放射された赤外線を検出して、表面温度を取得し、表面温度から内部温度を(所与の計算に従って)算出し、デジタルの出力値を表示する。
特許は、「生物組織」(鼓膜(注1)を含む)及び側頭動脈(注2)を覆う皮膚からの放射線を検出する体温計を対象とするものである。
S.A.A.T. Systems Application of Advanced Technology, Ltd.及びDaiwa Products, Inc.(以下、まとめてSAAT)は、側頭動脈を覆う皮膚からの放射線を検出し、検出後、測定された表面の測定値を患者の口腔体温に変換する体温計を製造している。
エクサージェンは、前述の特許をSAATが侵害したとして、マサチューセッツ地区の米国地方裁判所においてSAATに対して訴訟を提起した。SAATは、積極的抗弁でこれに答え、また、非侵害及び無効に関する反訴を行った。
続いてSAATは、Fed. R. Civ. P. 15(a)に従って、積極的抗弁及び反訴として不公正行為を追加しようとした。しかし、地方裁判所は、提起された申し立てはFed. R. Civ. P. 9(b)が要求する特殊性を含んでいないということに基づいて、この申立を却下した。
裁判において、陪審団は、SAATがエクサージェンの特許のいくつかのクレームを直接侵害しており、他のクレームについては侵害を積極的に教唆していると考えた。そして、合計で250万ドル以上の逸失利益の損害を認定した。
裁判の後で、SAATは、非侵害、無効、及び逸失利益の不存在を根拠として、法律問題としての判決(JMOL)を求める申立を行い、エクサージェンは、損害額の増加及び判決前の保持利益を認定するように判決を変更または修正する申立を行ったが、いずれの申立も却下された。
控訴審で、CAFCは、SAATのJMOLの申立を検討し、また、Rule 15(a)の下で申し立てを修正するSAATの申立を却下したことを検討した。
JMOLの申立については、CAFCは、係争中の3つの当事者全てについて、終局判決を覆した。第1に、CAFCは、米国特許第6,047,205号(以下、205特許)は別の先行技術の特許から予見されると判示した。
エクサージェンの主張に答えて、CAFCは、先行技術では患者からの放射線を検出することに加えて熱プローブからの放射線を検出するという事実は205特許を予見することを妨げはしないと考えた。
加えて、その文献は本質的に、205特許においてクレームされているように生物組織の1つではなく「複数の領域」からの放射線を検出することを開示している。第2に、米国特許第5,012,813号(以下、813特許)の直接侵害は存在しないということについて、CAFCはSAATを支持した。SAATの装置は、813特許においてクレームされているような、「内部温度を指し示すものを提供するディスプレイ」を備えていない。第3に、CAFCは、SAATが米国特許第6,292,685号(以下、685特許)の侵害を積極的に教唆してはいないと考えた。
「体温計で側頭領域周辺を走査する」または「[体温計を]上方へゆっくりとスライドさせる」という指示に従うユーザは、685特許においてクレームされていてExergenによって想定されているような、水平方向に「額を横切って…側面に沿って走査する」ことにはならないであろう。更に、685特許は、皮膚を通じて側頭動脈の温度を測定することを対象としており、一方で、SAATの装置は皮膚の表面温度を測定する(ので、側頭動脈の温度に到達するためには更なる計算が必要である)。前述の理由により、CAFCは、205特許が無効ではなく、813特許及び685特許が侵害されているという終局判決を覆した。
Rule 15(a)に従って積極的抗弁及び反訴として不公正行為を追加する申立については、SAATは、McGinty 対 Beranger Volkswagon, Inc., 633 F.2d 226, 228 (1st Cir. 1980)を引用して、自身の申し立てがRule 9(b)の訴答に対する一審の「時期及び内容」テストを満足していると主張した。
しかしながら、不公正行為が適切に申し立てられたか否かに関する疑義は特許法に関係するものであるので、CAFCは自らの法律を適用した。
Rule 9(b)は、「詐欺または誤りに関する全ての証言において、詐欺または誤りを構成する状況は特殊性を伴って言明される」が、「悪意、故意、知識、及び人間のその他の精神状態は、一般的に、証言されてよい」ということを要求する。
不公正行為に関して、CAFCは、十分な特殊性を伴う「状況」の申し立ては、PTOにおいて行われた重要事項の不実告知または省略について具体的に誰が、何を、いつ、どこで、どのようにということを特定することを必要とすると考えた。
CAFCは更に、知識及び故意は一般的に証言されてもよいが、申し立ては、具体的な個人が(1)重要な情報の隠蔽について、または重要事項の不実告知の虚偽について知っており、(2)PTOを欺く具体的な意図(故意)を持ってこの情報を隠蔽または不実告知したということをCAFCが合理的に推論可能な根拠となる事実についての十分な申し立てを含んでいなければならないと考えた。
この基準を適用して、CAFCは、SAATの申し立ては以下の理由により不十分であると考えた。
第1に、申し立ては「エクサージェン、その代理人、及び/または弁護士」を包括的に指し、係争中の特許の審査に関係する具体的な個人を誰も特定できていない。
第2に、申し立ては、隠蔽された先行技術文献がどの具体的なクレーム(及びその限定)に関係するかを特定することを怠り、また、その文献においてどの情報が重要であるかを特定することを怠っている。
第3に、申し立ては、隠蔽された文献が「重要であり」開示された先行技術文献と「重複してはいない」と包括的に述べているが、記録に存在しないクレームの限定(またはその組み合わせ)を指し示してはいない。
第4に、係争中の特許について「エクサージェンが気付いていた」一般的な文献以外には、申し立ては、PTOに対して隠蔽された重要であると主張されている情報に関する個別の知識を推測する、事実に基づく根拠を、提供していない。PTOに対してなされたと主張される虚偽の申し立てについて個人が知っていたということを合理的に推測することをサポートする事実は何ら主張されてはいない。
最後に、「情報及び信念」のみにより故意が申し立てられているが、これは不適切であり、申し立ては信念が合理的に基づくべき具体的な事実を欠いている。SAATはそのような事実を説明していない。これらの欠陥の結果、CAFCは、不公正行為を申し立てようとした(leave to allege)SAATの申立を地方裁判所が却下したことを支持した。
このように、特許紛争の当事者は、Rule 9(b)によって要求される特殊性を伴って不正な行為を申し立てる必要がある。具体的には、そのような申し立ては、PTOにおいて行われた重要事項の不実告知または省略について具体的に誰が、何を、いつ、どこで、どのようにということを特定することを必要とする。