CAFC判決

CAFC判決

Eolas Techs. Inc. 対 Microsoft Corp.事件

2005,8,2005年3月2日 CAFC判決

公知の発明は特許法102条(b)によって、特許を受けられません。この事件のポイントはCAFCは、発明の完成過程で他人にその発明を開示した行為は特許法102条(b)で言う、発明の公用に当たらないと判断したところにあります。特許法271条(f)は特許された発明の重要部分を輸出して、海外で特許発明を完成させる行為を禁止していますが、ここでいう発明の部分は、形態を問わず、発明の一部(部分)であれば足り、ソフトウエアコードなども、特許法271条(f)が言う、発明の部分に含まれることをCAFCが明らかにした事件です。

102条(g)の放棄、並びに、271条(f)の構成部分の解釈

2005年3月2日、CAFCは、Microsoft Corporation(以下、”Microsoft”)が提起した新規性、自明性並びに不公正行為に関する抗弁に基づいて地方裁判所が下した、Eolas Technologies Incorporated 及び The Regents of the University of California(以下、合わせて「原告」という)に有利な法律問題としての判決を破棄した。

しかし、CAFCは、争点となっていた2つのクレームに対する地方裁判所の解釈、及びMicrosoftのゴールデンマスタディスクが特許法271条(f)(1)における「構成部分」に該当することを認めた地方裁判所の判決を維持した。

1999年2月、原告はMicrosoftのInternet Explorer(IE)が自社の906特許を侵害していると主張して提訴した。906特許はユーザが十分なインタラクティブ環境においてウェブブラウザを使用できる発明に関するものであった。

この発明のブラウザはURLによってウェブページを特定し、次にウェブページ上のオブジェクトをそれに関する情報によって特定するためウェブページのテキストを解析し、そのオブジェクトに対してインタラクティブビューイングを可能にするアプリケーションを特定するものであった。

CAFCは、906特許は無効ではないという地方裁判所の法律問題としての判決は誤りであると判定した。裁判においてMicrosoftは、原告の発明よりも1年以上前にViolaのウェブブラウザが公に使用されていたという証拠を挙げ、906特許は特許法102条(b)により無効であると主張した。具体的には、Violaブラウザの発明者は裁判において、原告の発明より1年以上前に自らがその製品をSun Microsystemsの技術者に説明していたことを証言した。

その証言は記録ファイル及びその後行われた別バージョンのViolaブラウザの説明により、更に裏付けられた。

しかしこの証拠にも関わらず、地方裁判所は、Violaの発明者がブラウザの初回バージョンをSunの技術者のみに発表し、その後改良したことから、Violaの発明は102条(g)の規定における放棄に該当すると認定した。

CAFCは、地方裁判所の放棄の認定、及びこの放棄の認定を102条(b)に拡大解釈したことは誤りであると判示した。

他の発明者が漠然と、もっぱら自分の利益の観点からその発明を積極的に秘密にした場合や、その発明を公にすることが意味も無く遅延している場合には、特許法102条(g)(2)は特許を無効にするよう働く。

CAFCは、発明者が発明を改良し完成させようと努力を続けていた場合、発明の最初の実施化から公衆への開示までの遅延が許容されることに着目し、Violaの発明者の新規な創作、改良されたウェブブラウザの利用は放棄に該当せず、本件は上記のいずれにも当てはまらないと判示した。

さらにCAFCは、地方裁判所の判決が示すように、発明の改良によってオリジナルの発明の保護が失われるのであれば、公衆はより有益な成果を生むための勤勉な努力をする意味を見失うであろうと理由付けた。

CAFCはまた、Violaの発明者がSunの技術者に対して何ら秘匿義務を負わせていなかったことから、Sunの技術者に対する発明の説明は102条(b)における公的使用にあたらないとした地方裁判所の判決を棄却した。

そして、地方裁判所が102条 (b)の公的使用に関する判断を102条(g)に関連する判断へと結びつけたことは間違っており、102条(b)における公的使用はそれに続く行為によって取り消されることはないと判示した。

Microsoftは新規性及び自明性に関する抗弁において十分な証拠を提供していたため、CAFCは地方裁判所のこれらの問題に対する法律問題としての判決も覆し、有効性の問題に関しては陪審裁判のため差し戻した。

CAFCはまた不公正行為に関する地方裁判所の判決を破棄した。特許の有効性に関する判決と同様に、地方裁判所はViolaのウェブブラウザは先行技術にはなりえず、それ故「material」でないと解釈し、不公正行為に関する判決破棄の根拠を見出していたからである。

906特許の発明者の一人はViolaのウェブブラウザの存在を知っていたにも関わらず、特許庁に先行技術として開示していなかったため、CAFCは、発明者が特許庁に対して故意に隠匿しようとしていたかという問題も含め、不公正行為に対する判決を差し戻した。

Windows IEの海外での販売に対する損害賠償を求める原告の申立に対し、CAFCはMicrosoftが特許法271条(f)を侵害したとする地方裁判所の判決を維持した。

特許法271条(f)は特許発明の一部を合衆国外で結合させ、侵害製品を製造するための、発明構成部分の輸出を禁止している。

MicrosoftはWindows OS用のソフトウェアコード含むゴールデンマスタディスクを海外のメーカに向け輸出しており、メーカ等はそのディスクからコードを合衆国外で販売するコンピュータハードドライブに複製していた。

この判決の理由として、CAFCは、特許法は包括的な用語で述べられており、それは特許製品または物理的構造に限定されることなくあらゆる形態の発明を含むことを挙げた。

さらに、特許政策及び特許法271条(f)に関する法的背景からもCAFCの解釈は支持されるものであると理由付けた。

また、CAFCは方法の発明は発明の構成に、工程、行為を含み、コンピュータ可読プログラムコードはコンピュータプログラムの構成部分(発明の一部)になりうると判断した。

ゴールデンマスタディスクそれ自体は製品の物理的な一部ではないものの、それには完成されたコンピュータ製品の機能の核となるソースコードが含まれており、それ故ゴールデンマスタディスクは特許法271条(f)における構成部分になり得るのである。

本件は特許法102条(b)における公的使用は、放棄といったようなそれに続く行為によって取り消されることはないと明確にした点で注目に値する。

さらにCAFCは、特許法271条(f)に定められている構成部分の輸出禁止は、無形の構成部分を含めどのようなカテゴリーの発明にも等しく適用されることを明らかにした。