クレーム解釈の基礎的な手法を論じた判決,侵害の問題で重要な点は、先ずクレーム解釈である。この判決は、特許クレームの文言自体が、特定のクレーム用語の解釈において最も説得力のある証拠になり得ることを判示している。地裁によるクレーム解釈の破棄を望む当事者は、クレームの文言に基づき正しいクレーム解釈を控訴審で主張することが必要である。
クレーム解釈の基礎的な手法を論じた判決
エンゾー(Enzo Biochem Inc.、他)は、米国特許第5,449,767号(767特許)に基づき、アプレラ(Applera Corp.及びTropix, Inc.)を提訴した。陪審員は、権利主張されたクレーム全てについて侵害を認め、かつ実施可能要件及び記載要件の点に関して有効であると認定した。767特許は、DNA配列決定のための、核酸が微量に存在する場合に核酸を検出、監視、ローカライズ、または単離することを可能にする、ヌクレオチドプローブの使用を含む。
DNA及びRNAは、「ヌクレオチド」という化学的単位の一連により構成され、それぞれのヌクレオチドは鎖に沿って化学的に繋ぎ合わせられている塩基を有する。
第1の鎖における相補的塩基は、第2の鎖における相補的塩基に結合またはハイブリダイズする。ハイブリダイゼーション(分子交雑)は予想可能に起こるため、あるサンプルにおいて、標的である核酸の存在を検出できる。
そして、既知の配列を有するDNA鎖に、「プローブ」という化学的標識を付着できる。プローブは、「ターゲット」という相補的配列にハイブリダイズする。プローブがターゲットとハイブリダイズすると、標識自体または標識に結合されている二次的化学剤により検出可能なシグナルが生成される。
この検出は、標識がシグナルを生成する場合は直接的検出といい、二次的化学剤がシグナルを生成する場合は間接的検出という。ハイブリダイズしていないプローブの除去後にシグナルが検出されると、それは、サンプルにターゲットが存在することを示す。
地裁は、この技術においては、直接的検出の手段として特定の放射性標識を使用できることは周知であると述べた。しかし、そのような標識は有害な可能性があり、コストも高い。
767特許のクレームは、周知の検出標識の問題を回避する新規ヌクレオチドプローブに関する。クレームは、中にも化学的部位「A」に共有結合する塩基「B」を開示する。「A」と「B」は、「核酸とハイブリダイズする」プローブの「特性能力と実質的に干渉しない」、そして「シグナリング部分の構成または検出可能なシグナルの検出を妨げない」ように結合する必要がある。
地裁は、「Aは…検出可能なシグナルを生成できるシグナリング部位の少なくとも1つの構成要素を示す」の文言を「Aは…シグナリング部位の構成要素の1つ以上であり、場合によってはシグナリング部位の全体を構成する」と解釈した。つまり、地裁は直接的検出と間接的検出の両方を含むようにクレームを解釈したのである。
アプレラは控訴し、地裁の解釈は不当であると主張した。
控訴審においてCAFCは、クレームの文言を出発点とした。クレーム1は、「A」は、「検出可能なシグナルを生成できるシグナリング部位の少なくとも1つの構成要素を示し」、「シグナリング部位の構成を実質的に妨げないように」「B」に結合すると記載する。CAFCは、「A」自体がシグナリング部位を構成するようにクレームを解釈することは、シグナリング部位「の構成要素」の限定を無視することに相当し、許されないようにクレームの範囲を拡大することになると判断した。
また、クレーム文言によって、「A」はシグナリング部位の「構成を実質的に妨げないように」「B」に結合することが必要なため、「A」はシグナリング部位の全体を構成してはならないと判断した。
CAFCは、明細書から、クレーム1が間接的検出のみを含む解釈の根拠を見出した。まず、CAFCは、明細書には、「A」は他の化学物質と併せてのみシグナリング部位を形成可能であるとの記載があると述べた。次に、CAFCは、明細書には、「A」は他の化学物質と併せてシグナリング部位を形成する特定の化学物質であってもよいことが記載されていると述べた。
そして、CAFCは、明細書には、間接的検出は直接的検出より優れているという面においてのみ直接的検出についての記載があることを述べ、エンゾーは、クレームが直接または間接的検出を含む解釈の根拠となる記載を明細書から見いだせないと判断した。
CAFCは地裁のクレーム解釈を覆し、侵害認定を破棄し、正しい解釈下で被疑製品が特許を侵害するかについて、事件を地裁に差し戻した。
Key Point?侵害の問題で重要な点は、先ずクレーム解釈である。この判決は、特許クレームの文言自体が、特定のクレーム用語の解釈において最も説得力のある証拠になり得ることを判示している。地裁によるクレーム解釈の破棄を望む当事者は、クレームの文言に基づき正しいクレーム解釈を控訴審で主張することが必要である。