CAFC判決

CAFC判決

Eagle Pharmaceuticals Inc. v. Slayback Pharma LLC 事件

CAFC No. 2019-1924,2020,5,8-May-20

明細書に記載されていた物質がクレームされていないため、均等論による侵害請求を退けた判決。CAFCは、クレーム対象の発明と完全に一致する明細書の実施例の代替物にのみdisclosure-dedication doctrineが及ぶのではなく、クレームの特定の要素の代替物とし開示されているがクレームされていないものにdisclosure-dedication doctrineが及ぶと判断した。

明細書に記載されていた物質がクレームされていないため、均等論による侵害請求を退けた判決

Eagle Pharmaceuticalsは、ベンダムスチンを使用したリンパ系癌の治療薬BELRAPZO?を製造・販売し、関連特許4件(9,265,831; 9,572,796; 9,572,797 & 10,010,533)を保有する。Slayback PharmaがBELRAPZOの後発医薬品の販売承認(NDA)を申請したため、Eagle Pharmaceuticalsは特許侵害としてSlayback Pharma をデラウエア州地裁に提訴した。4件の特許の明細書の記載は実質的に同一であり、従属クレームのすべては同じ限定を持っていた。裁判では、796特許のクレーム1の侵害が争われた。同クレームは、「ベンダムスチン(bendamustine)、医薬品用液体(pharmaceutically acceptable fluid)(具体的にはポリエチレン・グリコールとプロピレン・グリコールの混合物で両者の組成比率は95:5~50:50の範囲)及び適量の酸化防止剤(antioxidant)から構成される非水溶性液体化合物」を請求している。Eagleは、Slayback製品はエタノールを含んでいるものの、これはポリエチレングリコールと本質的な差異がないとして、均等論による侵害を主張した。

Johnson & Johnston Assoc. v. R.E. Servs.事件大法廷判決(2002)が示すように、Disclosure-dedication doctrineの下では、明細書で開示されているがクレームされていない発明は、公衆に提供されているもの(dedicate)として、均等論による保護は及ばない。しかし、796特許では「医薬品用液体」の例としてエタノールが実施例で繰り返し記載されていた。原告は、エタノールへの言及は、クレームの対象ではない実施例(unclaimed embodiment)の関係でなされているにすぎないと主張し、その裏付けとして専門家証言を証拠として提出した。地裁は、明細書にエタノールがプロピレングリコールの代わりに使えることが繰り返し記載されているとして、判例にしたがい均等論の適用を認めず、原告が提出した専門家証言も採用しなかった。原告はこの判決を不服としてCAFCに控訴した。

本件は日本でいう均等第5要件に関するものであり、CAFCは、クレーム対象の発明と完全に一致する明細書の実施例の代替物にのみdisclosure-dedication doctrineが及ぶのではなく、クレームの特定の要素の代替物とし開示されているがクレームされていないものにdisclosure-dedication doctrineが及ぶと判断した。本件では、エタノールが医薬品用液体として使えることが明確に開示されているから、エタノールを使う実施例は公衆に提供(クレームできたにも拘わらず、クレームしなかった)されており、均等の範囲が及ばないとして地裁判決を支持した。CAFCは、専門家証言を証拠として採用しなかったことも民事訴訟法上の問題にはならないと判示した。