本件は、被告の寄与侵害及び誘引侵害認定に関する指針を示した事件です。寄与侵害の主張に関し、CAFCは、被告の行為と米国内における侵害行為との間に何らかの結びつきが無い限り、被告に賠償責任は問えないことを明らかにしました。特許侵害を構成する行為が他国ではなく米国内で行われない限り、他者による侵害品の製造・販売・販売の申し込みの行為に関し、被告は寄与侵害の責任を負わないと判決しました。また、誘引侵害の立証には、第三者の製品が原告の特許を侵害している事実を被告が知っていたことを原告が立証しなければならないことが認定されました。
被告の寄与侵害及び誘引侵害認定に関する指針を示した事件
DSU Medical Corp.事件において、原告であるDSU Medical Corporation並びにMedisytem Corporation(合わせて以下、DSU)は、JMS Company, Limited 並びにJMS North America(合わせて以下、JMS)およびITL Corporation Pty, Limited(以下、ITL)に対し、米国特許第5,112,311号(以下、311特許)の特許侵害、侵害誘引および寄与侵害を主張し提訴した。311特許クレームは「ガードされた翼状針アセンブリ」をクレームしていた。
この発明は、標準的な翼状針セットの針で誤って刺して怪我をするリスクを軽減させることを目的としている。クレームは、「針を患者から除去する際に針を遮蔽位置に係止するためのスロット付きガード」及び「ガード内にスライド自在に取り付けた、ガードされた翼状針アセンブリ」を含んでいた。
ITLは、PlatypusTM Needle Guard(以下、Platypus)という製品名で販売された、侵害被疑品を製造していた。Platypusは独立型の製品、すなわち、他の装置に接続していない小さなプラスチック片である。
そのプラスチック片はさやの形状をしており、両面型で、二枚貝に似た形状であった。Platypusを用いるときは、針をそのプラスチックのさやの中に置き、針をガードするように両サイドを閉じる構造になっていた。
1999年6月初旬、JMSはITLからPlatypus製品を購入した。その際、JMSがPlatypusを世界中に流通することを認める販売契約が結ばれた。Platypusを顧客に配送する前に、JMSは通常、針のセットを覆うようにさや状の両端を閉じた状態にしていた。
DSUは、Platypusが311特許を侵害したと主張し、JMSとITLを提訴した。DSUは更に、JMSとITLは侵害品の販売および販売の申し出をしたことによって互いの侵害行為に寄与及び誘引したと主張した。
カリフォルニア北地区地方裁判所は、311特許の幾つかのクレームは自明であり、無効であると判示した。裁判所は、他の特許クレームに基づきJMSに対し侵害判決を、ITLに対し非侵害の判決を下した。
CAFCは下級裁判所の判決を支持して、まず裁判所のクレーム解釈を審理した。クレーム文言及び明細書をもとに解釈して、「スライド自在に囲い込む」というクレーム文言を、ガードが実質的に針のアセンブリ(及び針自体)を常に内在させていることを要件としていると解釈した。
裁判所は「スロット」というクレーム文言を、開口部を意味し、針及び翼状針ハブを受けるのに適した確定した幅を要件としないものと解釈した。Platypusは固定の針を含んでおらず、独立型の製品であったことから、JMSが針セットを覆うようにさやの両側を閉じるまでは、必ずしも311特許を侵害していたとは言えない。
次に、CAFCは、下級裁判所が、米国特許法第271条(c)に基づくITLによる寄与侵害のDSUの主張を拒絶したことについて審理し、ITLがPlatypusを販売したこと、Platypusには、針セットを覆うように閉じて使用するまでは何の実質的侵害用途は無かったこと、及びITLがPlatypusを製造しようとしていたことが潜在的に寄与侵害の原因となったことを認定した。
しかしながら、ITLが米国内で(注)直接侵害に寄与した証拠は無かった。その結果、CAFCは、地方裁判所による特許法第271条(c)に基づく非侵害の認定を追認した。
CAFCの意見で判例部分となるDSUの米国特許法第271条(b)に基づく誘引侵害クレームに付いては、全員法定で審理された。ある者の行為が誘引侵害を構成するためには、その者に「特定の侵害行為を誘引、もしくは更に侵害する意思」がなければならない。
過去の事件では、CAFCの異なる合議体が、誘引侵害を構成する要件の意図の範囲について、対照的な意見を述べていた。1つは侵害の意思を要件とし、他方は単なる侵害を構成する行為を生ずる意図を要件としていた。
この裁判所内の分裂を解決するために、CAFCはより厳格な「侵害の意思」の基準を採用した。誘引侵害の立証の為に、原告は、「侵害誘引者が直接侵害の行為に関する知識を持っているだけでなく、別の侵害を助長するような有罪行為の証拠」を提示しなければならないとした。
地方裁判所の判決を支持して、CAFCは、ITLには311特許の誘引侵害の責任がないと判示した。ITLはJMSが発明品を米国内で販売する意思があると判断してPlatypusをJMSに対し販売していた。ITLも311特許の存在を認識していた。
ITLは意見書を受け取っていたが、ITLはPlatypusがDSUの特許を侵害していないと確信していた。したがって裁判所は、ITLは271条(b)に基づく誘引侵害の「明確な意思」を持っていなかったと認定した。
要するに、DSU Medical Corp.事件は、寄与侵害及び誘引侵害を主張もしくは反駁する企業や訴訟弁護士に対する指針を示している。寄与侵害の主張に関し、CAFCは、被告の行為と米国内における侵害行為との間に何らかの結びつきが無い限り、被告に賠償責任は問えないことを明らかにした。
特許侵害を構成する行為が他国ではなく米国内で行われない限り、他者による侵害品の製造・販売・販売の申し込みの行為に関し、被告は寄与侵害の責任を負うことはない、と判示した。
最後に、CAFCは、誘引侵害の証拠に要求される意思の程度について定義を付けた。被告が原告の特許の存在を単に知っていた、もしくは、第三者が原告の特許に対する侵害となるかどうかわからない行為をすることを被告が認識していた、というだけでは不十分と判断した。原告は、誘引侵害の責任を問うためには、第三者の製品が原告の特許を侵害していることを、被告が実際に知っていたことを立証しなければならない。