この事件では、裁判地選択条項のある和解契約の当事者が相手方当事者の特許についてのIPRを申請したことに対して、契約違反を根拠にしたIPR停止の仮処分が申し立てられた。この判決でCAFCは、裁判地選択条項にもかかわらずIPR申請が可能な場合が契約に示されていることに基づいて、本件契約の裁判地選択条項はIPR申請を禁止するものではないと判断し、契約違反を認めず、仮処分の申し立てを棄却した。
契約の裁判地選択条項にかかわらずIPR申請が認められるかどうかを具体的な契約に基づき判断した件
DexComとAbbottは、連続式グルコース測定(CGM)装置分野で競合する。両者は複数の特許を主張し、長年裁判を継続していたが最終的に和解した。和解条件は、①特定の係争特許をクロスライセンスする、②2021年3月31日まで互いに提訴しない、③2021年3月31日までIPR等の手段により特許の有効性を争わない(ただし権利主張された場合は例外)、④和解契約から起因する紛争解決のための裁判地をデラウエア州に限定する、であった。
DexComは、不争条項が2021年3月31日に切れたため、所有する5件の特許をAbbottが侵害したとしてテキサス州西部地区連邦地裁に提訴した。Abbottはデラウエア州連邦地裁への事件の移送を申し立て、それとは別にDexComを相手取って裁判地限定条項に関する和解契約違反の反訴をデラウエア地裁に起こした。事件はデラウエア州地裁に移送され、そこで契約違反問題と合わせて審理された。
侵害訴訟の提起から10ヶ月後、Abbottは、DexCom特許に対する8件のIPRを申請した。DexComはIPRの開始に反対の旨の答弁書を提出した。また、DexComは、IPRの開始決定の前に、IPR申請が裁判地限定条項に違反しているとして、連邦地裁にIPR開始の停止を求める仮処分を請求した。地裁は、仮処分の4要因 (「本訴勝訴の可能性」「回復不能な被害」「当事者の困難性の比較」「公益性」)のうち、少なくとも「回復不能な被害」が立証されていないことに基づいて、DexComの請求を棄却した。DexComはこの判決を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは、「本訴勝訴の可能性」も立証されていないとして、地裁の決定を支持し、その理由を次のように述べた。不争条項の一つである「特許の有効性を争わない」には、権利主張された場合のようないくつかの例外が記載されている。また、このような例外においては、不争条項の有効期間内にあっても、特許商標庁に対する「IPRの申請」が契約上可能である。そして、裁判地限定条項は、不争条項の有効期限内であろうと有効期限後であろうと有効であると理解される。すなわち、裁判地限定条項の存在にもかかわらず、不争条項の有効期限内にIPRの申請が可能であることは契約上明らかであるから、裁判地限定条項はIPRを制限するものではないことは明らかである。したがって、和解契約違反の反訴は成立しない。反訴が成り立たない以上、原告には仮処分を求めることはできない。地裁が仮処分の請求を棄却した判断に誤りはない。