CAFC判決

CAFC判決

Cuozzo Speed Technologies, LLC 対 LEE 事件

No. 15-446,2016,10,U.S. Supreme Court June 20, 2016

この判決では、最高裁判所がIPR手続について初めて判断を示した。この判決は、米国特許商標庁が下したIPR手続開始の決定そのものに対しては上訴できないことを判示した。また、この判決はIPR手続での審理において、米国特許商標庁が最も広い合理的解釈の基準によりクレームを解釈することを認めた。

IPR開始決定に対する不服申立を退け、IPRでのクレーム解釈に「最も広い合理的解釈の基準」の採用を認めた最高裁判決

クゾー(Cuozzo Speed Technologies)事件において、最高裁判所は、当事者系レビュー(IPR:Inter Partes Review)に関する2011年米国改正特許法(AIA:Leahy-Smith America Invents Act)の2つの規定について審理した。

IPRは、第三者が先行特許または先行文献に基づき発行済特許の有効性を争うことを可能にするものである。クレームが特許要件を満たしていないことの一応の立証を第三者が行ったと米国特許商標庁が認定した場合、米国特許商標庁は、IPR手続を開始して、対象のクレームが特許要件を満たしていないという決定を下すか否かを判断する。

クゾー事件において争われたIPRはこれまでに申し立てられた最初のIPRであり、クゾー事件はIPR手続について審理した最初の最高裁判決である。クゾー事件において審理された規定は、IPRを開始するという米国特許商標庁の判断について上訴することができるかと、IPRを統制する規則を発行する米国特許商標庁の権限には特許クレームを審査する際に「最も広い合理的解釈(broadest reasonable construction)」の基準を採用する権能が含まれるかという論点に関するものであった。

クゾーは、運転者がいつ制限速度を超えて運転したかを示す速度計に関する特許権を有している。彩色された回転板を車両の速度計に取り付け、回転板をGPS受信機に接続し、全ての道路の全ての制限速度をチップ上に入力することにより、GPS受信機は車両の位置を提供し、チップは制限速度の信号を伝え、回転板は速度計上でその制限速度へと回転する。特許は2004年に発行されている。

2012年に、Garmin International, Inc.およびGarmin USA Inc.(以下、まとめて「ガーミン」)はこの特許についてIPRの申請書を提出した。特許審判部(Patent Trial and Appeal Board)は、ガーミンが要求したようにクレーム17について再審査することに同意し、さらにクレーム10および14についても再審査することを選択した。

審判部は、3つのクレームの全てが3つの先行特許に照らして自明であると結論づけ、これらのクレームを取り消す決定を行った。クゾーはCAFCに出訴した。

CAFCでの審理において、クゾーは2つの主張を行った。第一に、ガーミンはクレーム10および14について黙示的にしか争っていないため、これらのクレームについてIPRが開始されたのは適切でないとクゾーは主張した。第二に、審判部は誤ったクレーム解釈基準を使用したとクゾーは主張した。CAFCは、クゾーの主張を両方とも退け、審判部の決定を支持した。

最高裁判所は、クゾーの申立ての両方について審理した。まず、最高裁判所は、クレーム10および14について審査を開始するという米国特許商標庁の決定に対しては、上訴が許されるものではないと認定した。

最高裁判所は、制定法に対する司法審査を支持する強い推定が存在することを認めた。しかしながら、最高裁判所は、この推定は、具体的な法律の文言ないし立法経過からの、明白かつ確信を抱くに足りる徴候によって覆されうると判示した。

最高裁判所は、本件では推定が覆されたと認定した。第314条(d)の文言は、米国特許商標庁の「決定は、…最終的なものであり、上訴することができない」と明確に規定している。さらに、最高裁判所は立法経過を参照して、行政機関による開始の決定が容易に上訴可能なものだとすれば、米国特許商標庁に以前の特許を見直す権限を付与した明白な立法者意思が弱められてしまうと認定した。

最高裁判所はまた、AIAの他の部分および他の特許関連法においても同様の規定を発見し、他の状況におけるある決定について再審査できないことを示した判例法を参照して、上記の結論を裏付けた。最後に、行政機関の終局的処分に対する再審理を制限する行政手続法との法律上の関係は、開始決定の再審理を妨げることをさらに支持していた。

もっとも、最高裁判所は、この結論は、潜在的な憲法上の問題や、本事件で争われた特定の条項の範囲を超えた問題にまで当てはまるものではないと判示した。したがって、最高裁判所によれば、例えば、行政機関がその法的権限の外で行為を行った場合や、手続に関して適正手続上の問題が存在する場合に、再審理が無条件で排斥されるわけではない。

最高裁判所はまた、IPR手続において特許クレームに最も広い合理的解釈を適用することを要求する法的権限を米国特許商標庁は有しないというクゾーの第二の主張についても審理した。クゾーは、地方裁判所のように、米国特許商標庁は、クレームにその「通常の意味」を与えなければならないと主張した。

最高裁判所は、法律が、当事者系レビューを制定および統制するための規則を発行する権限を米国特許商標庁に付与していることに着目した。最高裁判所は、クゾーの主張を退け、この条項は、最も広い合理的解釈の使用に関する規則を発行する法的権限を米国特許商標庁に付与していると判示した。

その際、最高裁判所は、Chevron U.S.A. Inc.対Natural Resources Defense Council, Inc.事件判決(467 U.S. 837, 1984)(以下、「シェブロン事件判決」)を踏まえて、この法律を解釈した。

何らかの特定の基準を使用することを行政機関に指図する明確な文言が存在しなかったシェブロン事件判決の下で、最高裁判所は、権限の付与を、法律とその目的を踏まえて合理的な規則を制定するための裁量の余地を米国特許商標庁に提供することと解釈している。

クゾーは、IPR手続は本来裁定作用を有し、行政手続よりも司法手続に近いものであるため、IPRの目的の正しい分析を行えば異なる結論が要求されると主張した。最高裁判所はこの特徴付けに同意せず、IPR手続は司法手続よりも専門的行政手続に近いと結論づけた。

地方裁判所におけるものとは異なり、IPR手続において違憲主張適格要件はなく、IPR手続において立証責任は異なっている。さらに、最高裁判所は、IPRの目的は以前の行政機関の決定を再審査することであり、これは地方裁判所の特許権侵害訴訟の目的と同一ではないと認定した。

シェブロン事件判決は適切な分析的フレームワークであると論じた後に、最高裁判所は、「最も広い合理的解釈」の規則は、米国特許商標庁の規則制定機関としての適正な権限行使を反映したものであるか否かについて検討した。最も広い合理的解釈の要件は、公衆の保護に役立ち、米国特許商標庁の過去の運用に整合し、また、特許権者にとって公正を欠くものではないため、最高裁判所は、権限の合理的な行使だったと認定した。

最高裁判所は、最も広い合理的解釈の基準は特許権者にとって公正を欠き、一貫性のない結果を生じさせうるというクゾーの主張を退けた。

このようにして、最高裁判所はCAFCの判決を支持し、開始の決定は一般に上訴可能なものではなく、IPR手続における最も広い合理的解釈の基準の使用は適切であると判示した。

この判決は、最高裁判所がIPR手続について示した最初の見解として重要である。米国特許商標庁のクレーム解釈基準を支持し、開始の決定に対する上訴を制限したという点で、クゾー事件は、現在のIPRプロセスの主要な側面を確認している。本判決は、IPRの運用に対する他の種類の不服申立ての余地を残しているものの、特許の有効性を争う者にとってのIPR手続の現在の人気にはさほど大きな影響を及ぼさないように思える。

Key Point?この判決では、最高裁判所がIPR手続について初めて判断を示した。この判決は、米国特許商標庁が下したIPR手続開始の決定そのものに対しては上訴できないことを判示した。また、この判決はIPR手続での審理において、米国特許商標庁が最も広い合理的解釈の基準によりクレームを解釈することを認めた。