キュービスト事件は、先行技術の評価や自明性に関する経済的問題について、専門家の鑑定の重要性を示した。CAFCは、地裁の事実認定を「明らかな誤り」の基準で評価する。自明性は法律の問題ではあるが、当業者の能力や当業者の観点による先行技術の範囲や内容を含む根本的な事実に基づくものである。この判決はさらに、特許クレームにおける誤りが後で発見され、明細書に十分なサポートがある場合に、クレームを訂正する重要性を強調する。
CAFCが専門家の鑑定を頼って地裁の判決を支持した判決
ハッチ・ワックスマン法(Hatch-Waxman Act)下のこの控訴において、CAFCは、抗生物質であるダプトマイシン(daptomycin)の用量レジメン及び精製方法に関する5つの特許のうち4つについて、地方裁判所の無効判決を支持した。また、CAFCは、ダプトマイシンと他の化合物を含む組成物に関する5つ目の特許の有効判決も支持した。
抗生物質であるダプトマイシンは、元々イーライ・リリー(Eli Lilly)が発見した。イーライ・リリーは、ある細菌感染症を治療するために必要なダプトマイシンの高用量が1日に2回投与されると、骨格筋に対して毒性を示すことを発見し、その後ダプトマイシンに関する特許の実施権をキュービスト(Cubist Pharmaceuticals, Inc)に与えた。
続いてキュービストは、骨格筋毒性を最小化させる用量及び頻度でダプトマイシンを投与する方法、即ち1キログラムあたり4~6mg(mg/kg)のダプトマイシンを24時間または48時間毎に投与する方法の特許を取得した。
地裁は、ウッドワース(Woodworth)による論文に基づいて発明は自明であると判断した。ウッドワースは、ダプトマイシンが身体に代謝される前に血中に長く残るため、ダプトマイシンは4~6mg/kgの用量で効果的であると予測していた。
地裁は、1日1回、1・4~14mg/kgの用量でダプトマイシンを投与することを開示した先の特許も引用した。最終的に、地裁は、当業者が高頻度で小用量を投与するよりも、低頻度で高用量を投与すべきことを知っていたことを示す付加的な証拠として、ダプトマイシンの周知の物理的性質を引用した。
控訴において、キュービストは、ウッドワースに基づく自明性に対して反論し、(i)ウッドワースは、人間における効能について、決定的ではなく予測的な実験室検査に基づく論文であり、(ii)クレームの要件である、骨格筋毒性を最小化することについて具体的な記載はないと主張した。
CAFCは、その主張を否定し、ウッドワースの実験を、3mg/kgを1日2回投与すると有毒ではないことを示す先のイーライ・リリーの実験結果と組み合わせると、クレームの用量は効果的で毒性を示さないことを合理的に期待できたと判断した。
また、CAFCはダプトマイシンの周知の性質、即ち体内に長期間残留することと、高濃度で有効であることを引用し、それによって、当業者は、ダプトマイシンを高用量、低頻度で投与すると、筋毒性を軽減しかつ効果的であることを予測できたと判断した。最終的に、CAFCは、地裁の判断は、同様の代謝率を有する他の群の抗生物質の用量レジメンに支持されることを見出した。
キュービストは、地裁がキュービストの非自明性に関する二次的考慮事項を不当に無視したと主張、さらにS. aureusの心内膜炎(「SAE」)という特定の細菌感染の治療における商業的成功を挙げ、イーライ・リリーがダプトマイシンの開発を中止したことを証拠に、他はその治療に失敗したと主張した。
しかしCAFCは、ダプトマイシンの販売のたったの5%しかSAEの治療に使用されていないことに基づき、この主張を却下した。
また、CAFCは、ダプトマイシンの商業的成功は、主に薬剤そのものに起因し、クレームに記載の用量レジメンに起因しないと判断した。同様に、CAFCは、ホスピラ(Hospira, Inc.)の専門家の鑑定を根拠に「他は失敗した」との主張を却下した。
ホスピラの専門家は、イーライ・リリーがダプトマイシンの開発を中止した理由は、バンコマイシンというイーライ・リリーのブロックバスター抗生物質と競合する薬剤を紹介するのを避けるためであって、経済的な理由であったと陳述していた。
CAFCは、ダプトマイシンの精製方法に関する2つの追加的特許は自明であるとの判断も支持した。第1の特許は、不純物をろ過して取り除くために、ダプトマイシンの凝集体の生成に依存するダプトマイシンを精製する方法に関する。
第2の特許は、アニオン交換クロマトグラフィーを利用する精製方法に関する。地裁は、第1の特許について、当業者であれば、ダプトマイシンは凝集体を生成し得たことを予測でき、よってろ過方法で使用できたと判断し、特許は自明であると判断した。
第2の特許について、アニオン交換は、特許よりかなり前から周知の方法であるため、特許は自明であると判断した。
控訴において、キュービストは、地裁はクレームの方法で得られる純度を考慮しなかった点で誤っていると主張した。CAFCはこの主張を拒絶し、周知の技術でクレームに記載の純度を得られたという地裁の事実認定を信頼した。
CAFC はまた、キュービストの非自明性に関する二次的考慮事項を拒絶した。キュービストは、特許のクレームは精製の規模を限定しないため、商業規模の精製方法に関する「長年にわたる必要性」を満足できなかった。また、当業者がダプトマイシンを「dead drug(死んだ薬剤)」であると信じていた記録も「長年にわたる必要性」に異を唱えた。
ホスピラは、ダプトマイシンと2つの関連薬剤の組成物に関する第5の特許の有効判断を控訴した。ホスピラは、ダプトマイシンの化学構造におけるあるアミノ酸を変更し、「L型」ダプトマイシンを「D型」ダプトマイシンに変更する訂正証明書は、クレームを不正に広くし、かつ正確な構造についてサポートがないと主張した。とりわけ、「D型」ダプトマイシンにおける具体的なアミノ酸は、特許が取得されたはるか後に発見されていた。ホスピラは、特許クレームは「L型」の元の化合物に限定されるべきだと主張した。
CAFCは、専門家の鑑定に頼り、ホスピラの主張を拒絶した。ダプトマイシンが生成される発酵工程に関する、特許における記載は、「D」のアミノ酸を含むダプトマイシンの生成をもたらさざるを得ないと判断した。明細書に、発明者は正しい抗生物質を取得したと示していたため、訂正証明書はクレームを広げることもなく、サポートも十分あると判断した。
Key Point?キュービスト事件は、先行技術の評価や自明性に関する経済的問題について、専門家の鑑定の重要性を示した。CAFCは、地裁の事実認定を「明らかな誤り」の基準で評価する。自明性は法律の問題ではあるが、当業者の能力や当業者の観点による先行技術の範囲や内容を含む根本的な事実に基づくものである。この判決はさらに、特許クレームにおける誤りが後で発見され、明細書に十分なサポートがある場合に、クレームを訂正する重要性を強調する。