CAFC判決

CAFC判決

Competitive Technologies Inc. 対 Fujitsu Ltd.事件

No. 2005-1237,2006,11,15-Jun-06

本件では、裁判所による請求項の解釈の重要性が示されています。また、発明とその均等物を記述する十分に広い請求項を書くことの重要性も示されています。とりわけ、補正により限定された個所について均等論の適用が争われた場合、均等論の適用が除外されるという推定を覆すことは一般に難しいことが確認されたといえます。具体的には、ある動作や事象の発生条件を請求項に記載するときは、非常に慎重にこの条件を記載することが求められます。つまり、条件は、限定解釈の根拠となりやすく、また、この条件を補正により限定すれば、均等論の適用も危うくなるといえます。

出願経過の禁反言により均等論の適用が阻害された事件

ここでは、Competitive Technologies事件を取り上げる。CAFCは、”clamping”という請求項の文言について、地方裁判所の解釈を支持した。また、Fujitsuによる均等論に基づく非侵害の略式判決の申立てを地方裁判所が認めたことも、CAFCは支持した。CAFCはさらに、新規性欠如により特許無効とするFujitsuによる略式判決の申立てを地方裁判所が認めたことも支持した。

米国特許第5,081,号(以下、「400特許」)及び第4,866,349号(以下、「349特許」と呼ぶ)は、「プラズマパネルのための電力効率の良いサステインドライバ及びアドレスドライバ」という発明の名称が付与されており、権利の譲受人であるイリノイ大学の管財人(以下、「大学」と呼ぶ)に対して発行された。

本発明は、電流を伴う光放射ガスの小さなポケット(以下、「ピクセル」と呼ぶ)を選択的に励起させることにより、ディスプレイ上に画像を形成する回路に関するものであり、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と呼ぶ)、エレクトロルミネセント(EL)パネル、及び、液晶パネルで使用されるものである。

349特許及び400特許は、独立サステイン/アドレス(以下、「ISA」と呼ぶ)として知られるPDPの構成を開示する。

この構成は、「標準的な」PDPの構成とは異なるものである。なぜなら、この構成は、サステイン電極間に独立したアドレス電極を含むからである。

本発明は、改良されたアドレスドライバ回路と改良されたサステインドライバ回路を開示しており、PDPのキャパシタンスに充電して放電する際に通常失われるエネルギーの量を減少させる。

Fujitsuは、エネルギー回収回路を備えるPDPを製造した。このエネルギー回収回路は、実質的に電流が誘導体を流れており、追加の電流が電源から直接的に供給されている間は、クランピングを行なう。大学は、Fujitsuが349特許及び400特許を侵害しているとして、訴訟を提起した。

地方裁判所は、349特許の請求項5における”address means”がISAパネルのみを指し示しているものと解釈する一方で、”sustain means”がISAパネルを除外しているものと解釈した。そして、請求項5及び従属する請求項6乃至11は不明確であるから、無効であると結論付けた。

地方裁判所はまた、別の理由で、請求項5乃至11は対応する構成を欠いており、不明確であるから無効であるとした。さらに、地方裁判所は、400特許における”clamping”という請求項の文言を、クランピング前に誘導電流が0になることを要求するものであると解釈した。

Fujitsuは、400特許は無効であり侵害していないとする略式判決の申立てを行い、地方裁判所は、この申立てを認めた。400特許において、請求項21乃至40のうちクランピングに関連する請求項は、文言上侵害されていないと地方裁判所は判断した。また、クランピングに関連しない他の請求項21ないし24、27、及び、35は、(”Kanatani”の)特公昭58-53344号公報により新規性を欠くと判断した。

地方裁判所はまた、400特許において、クランピングに関連しない請求項である請求項28ないし31は、Kanataniにより新規性を欠き、侵害被疑品は、均等論の下でも、クランピングに関連する請求項を侵害することは無いと判断した。

地方裁判所はまた、400特許のクランピングに関連する請求項は、均等論の下でも侵害されていないと判断した。そのように判断する際に、地方裁判所は、Fujitsuの証拠を採用した。

その証拠によれば、侵害被疑品において、クランピング時の誘導電流はほとんど0である。

さらに、地方裁判所は、出願経過禁反言のために、均等論を適用することができず、むしろ、出願経過は、減縮により、禁反言が適用されることを支持していると判断した。

控訴審において、CAFCは、地方裁判所による請求項の解釈を支持し、Fujitsuによる略式判決の申立てを認めたことも支持した。第1に、CAFCは、地方裁判所による400特許のクランピング関連の請求項における文言の解釈を支持した。

400特許におけるクランピング関連の請求項のうち4つは、「誘導電流が0になるまで」誘導体を通るパネルキャパシタンスに充電と放電を行なう必要があると、CAFCは解釈した。

これらの請求項はまた、「誘導電流が0になる際にパネルキャパシタンスの電圧レベルをクランピングする」必要がある。それゆえ、これらの請求項を表現する文言によれば、400特許において、誘導電流が0になって初めてクランピングが発生すると、CAFCは判断した。

他の2つのクランピング関連の請求項は、「誘導体を通して」望ましい電圧まで充電し、第1の電圧になるまで放電することを必要とし、最初に「蓄え」、次に、「蓄えられたエネルギーを前記誘導体から取り除く」ものである。

それゆえ、CAFCによれば、6つすべてのクランピング関連の請求項は、誘導電流が0になるまで誘導体を通して充電及び放電を行なう必要があり、誘導電流が0になる前にはクランピングは発生しない。

であるから、CAFCは、請求項及び明細書に矛盾しないように考えれば、請求項の文言である「クランピング」の唯一の解釈は、誘導電流が0になった時にクランピングが発生することであると判断した。

第2に、400特許のクランピング関連の請求項を文言上侵害していないとする、Fujitsuによる略式判決の申立てを地方裁判所が認めたことを、CAFCは支持した。侵害被疑品において、「クランピング時の電流値は0でもなければ、0に近くさえもない」とした点について、CAFCは地方裁判所に同意した。

結果として、正確に解釈された「クランピング」の限定にFujitsuの製品がクランピング関連の請求項を侵害するように合致するなどとは、合理的な考えの持ち主であれば結論付けないであろうと、CAFCは判断した。

第3に、均等論の下でもクランピング関連の請求項を非侵害であるとする、Fujitsuによる略式判決の申立てを地方裁判所が認めたことを、CAFCは支持した。

CAFCは、「クランピング」という文言は、誘導電流が0になった時にクランピングすることを必要とすると指摘した。しかし、侵害被疑品においては、電流値が0でもなければ、0に近くさえもない間に、クランピングが発生する。それゆえ、CAFCは、特許発明においてクランピングが発生する時と、侵害被疑品においてクランピングが発生する時の違いは、均等論に基づく侵害を適用することを除外するのに十分であると考えた。

第4に、CAFCは、400特許におけるクランピングに非関連の請求項も無効であると考えた。なぜなら、大学が後にこれらの請求項を補正したことを考慮したとしても、新規性が欠如しているからである。

補正は、最終ではない再審査の過程で行われたものであるから、無効性の判断を無意味にする(覆す)ようなことはないとCAFCは判断した。さらに、再審査で補正された文言に関する正確な解釈について地方裁判所が最終的な判断をまだ行っていない。そのため、大学の補正が無効性の判断を無意味なものにする(覆す)か否かという問題は、CAFCにおいて判断することは適切ではない。

第5に、CAFCは新規性について考えた。パネルに充電/放電する際に、400特許の請求項28及び29は、”forcing”電圧を適用する手段を必要とする。この電圧は、大学自身の説明によれば、「誘導体を横切る電圧」として定義される。充電後にパネルキャパシタンスが到達する電圧レベルの約半分の大きさとなる」電圧を印加することによる、請求項28及び29の前述の機能は、Kanataniによって開示されていると、Fujitsuは主張した。Kanataniに記載されている図11において、一般的な電圧の供給は、「誘導体を横切って電圧Vddを加える」と、CAFCは述べた。図11に記載されている、誘導体を横切って電圧Vddを加えることが「forcing電圧」でもあるということについて、CAFCは、Fujitsuと地方裁判所に同意した。それゆえ、請求項28及び29はKanataniにより新規性が欠如しているとする、Fujitsuによる略式判決の申立てを地方裁判所が認めたことを、CAFCは支持した。

第6に、349特許の請求項5ないし11は不明確であるから無効であると地方裁判所が判断したことを、CAFCは支持した。請求項の文言解釈に基づいて、請求項5における”address means”の限定はISA構造を必要とし、同じ請求項における”sustain means”の限定はISA構造を除外するとCAFCは結論付けた。それゆえ、請求項は内部で矛盾しており、当業者は請求項の範囲を判断することができないと、CAFCは判断した。

本件では、裁判所による請求項の解釈の重要性が示されている。また、発明とその均等物を記述する十分に広い請求項を書くことの重要性も示されている。本件のように、被告が特許権を侵害しているか否かは、請求項の文言について解釈された限定の範囲に大いに依存するものである。